未来を読み解く予測AI×IoT。活用例と今後の展開
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- 更新日
- 公開日
- 2024.01.31
近年様々な場面でDX化やスマートシティといった、業務・生活をより便利にする動きが活発になっていることから“IoT”技術を取り入れた製品が増えています。
そんな“IoT”ですが、“予測AI”を組み合わせることで更なる効果が期待できます。
この記事では、予測AIの基礎から今後どのような活用がなされていくのかまでを解説していきます。
INDEX
1. 未来を予測するAIとは?
未来への予測は、数千年にわたり人々を魅了してきました。紀元前約700年頃のユダヤ人の預言者を始めとして、古代バビロンで占い師、ギリシャでは巫女の存在がありました。
その一方で、20世紀半ば以降に唱えられた有名な下記語録を見ても、20世紀になっても予測は全く当てにならなかったことが分かるかと思います。※¹
・将来のコンピュータの世界市場は5台ぐらい(1943年)
・将来のコンピュータの重さは1.5トンを切るぐらいになる(1949年)
・誰もが家にコンピュータを持ちたがる事はない(1977年)
しかし20世紀後半にAI(Artificial Intelligence)が登場したことによって、状況は激変しました。
AIは1956年のダートマス会議で初めて登場してから、1960年代の第1次、1980年代の第2次と、2度のブームと失望がありました。それらを乗り越え、2010年頃から、「インターネットの普及に伴うビッグデータの拡大」「コンピュータの演算処理能力の飛躍的な向上」により、第3次ブームが起きました。
現在では機械学習や深層学習などによって、画像認識や音声認識のみならず、文章生成や予測に至るまで、目覚ましい成果を残せるのではと大きく期待されています。
※¹Hyndman, R.J., & Athanasopoulos, G. (2021) Forecasting: principles and practice, 3rd edition, OTexts: Melbourne, Australia. OTexts.com/fppjp. Accessed on 2024.1.29.
2. 予測AI × IoTがもたらす効果
“IoT”とは「Internet of Things」の略称で、「モノのインターネット」と表現されています。
普段身の回りで利用している家電製品等をインターネットに接続することで、相互に情報交換が可能になり、自動的に判断や制御が行えるようになるほか、収集したデータを蓄積することで様々な用途への活用が期待されています。
例えば、近年のスマートエアコンでは外出先から遠隔操作できることに加え、温湿度の可視化や電気代の確認が可能で、温度調整や省電力モードへの切り替えなどの判断材料として活用することができます。
また、“IoT”にて収集したデータを、“予測AI”によって相関性/類似性/規則性などの法則から解析することで、「この機器はいつ頃故障しそうだ」などの判断、予測ができるようになり、業務の効率化や品質の向上に繋げられます。
すなわち“予測AI”と“IoT”は、上の図のように“ビッグデータ”を含めて、三角形の補完の関係にあると言えます。
IoTの機器が増えればビッグデータもどんどん蓄積されていきますので、ビッグデータを活用した予測AIの精度は、より向上していくことが期待されます。そうするとユーザに対する利便性も増していきますので、開発者、ユーザ、どちらの観点においても恩恵を受けられるWin-Winの正のスパイラルが生まれます。
また、接続される機器の種類も台数も増えることで、これまで収集できていなかったデータが収集できたり、より短期間のうちに膨大な情報が収集できる為、新たな価値を生み出すサービスが期待できます。
3. 予測AIのメカニズム
3-1. AIとは?
AIという用語自体定義が定まっておらず曖昧なものですが、おおまかに以下のように分類されます。
3-2. 機械学習の基礎
機械学習とは、前述の分類で記載したように人が決めたパターン/ルールに基づいて学習するものですが、その中はおおまかに「教師あり」「教師なし」に分類することができます ※半教師あり(強化学習)というのもあります。
3-2-1. 教師あり学習
分類/分析/認識/予測などの目的のタスクを行う為の、「学習」という作業をするにあたり、教師データ(正解データ:Ground Truth)を事前に用意する必要があるものです。
与えられたデータを元に、そのデータがどのようなパターンになるのかを識別/予測することが可能になります。
*正解データを用意する作業を、アノテーションと言います。(特に画像の場合に使われることが多いです。)
以下に教師あり学習の代表的な手法を示します。
線形回帰
入力値が出力値に対して、どのような関係を持つのかを連続した実数値で表す方法です。
集客を例にすると、来客数(y:目的変数)を予測したい場合、割引率(x:説明変数)のような集客に影響を与える値との因果関係を明らかにすることで、予測することができます。
SVM(Support Vector Machine)
データ分布が複雑な「非線形な問題」に対しても、分離線にマージン(幅)という考え方を持たせることで、線形で分離可能にした方法です。深層学習が発展する以前では、最高峰の分類性能を持っていました。
k近傍法
ある既知のデータ分布に未知のデータが来た時に、未知のデータから距離が近いもので多数決を取ることにより、どの分類に属するのかを決定する方法です。
シンプルかつ直感的で分かりやすいのが特長です。
3-2-2. 教師なし学習
目的のタスクを行う為の学習をするにあたり、教師データ(正解データ)を必要としないものです。
与えられたデータから特徴や構造を見出し、データを圧縮したり、分類します。
教師なし学習の中には、k平均法(k-Means)などがありますが、予測タスクに用いられる手法はあまりありません。
3-2-3. 予測の実例
機械学習を用いて飛行機の乗客数について予測した事例を下記に示します。
これはSARIMAXという回帰ベース(教師あり学習)を用いて予測しています。
SARIMAXとは、下記の頭文字を合わせたモデルのことを指します。
S: Seasonal(季節性)
AR: Auto Regressive(自己回帰)
I: Integration(和分/積分)
MA: Moving Average(移動平均)
X: eXogenous(外因性)
精度指標
RMSE : 二乗平均平方根誤差
MAE : 平均絶対誤差
MAPE : 平均絶対パーセント誤差
3-3. 深層学習の基礎
「深層学習」よりも、「ディープラーニング」という言葉の方が聞きなじみがあるかもしれません。深層学習とは、前述の分類で記載したように、パターン/ルールを発見する上で、何に着目するかという特徴量を自ら抽出することができる点が大きな特徴です。
こちらも機械学習と同様に、「教師あり」「教師なし」に分類することができます。
3-3-1. 教師あり学習
教師あり学習の中で予測(分析)タスクに用いられる基本的な手法としては、RNN(Recurrent Neural Network:再帰的ニューラルネットワーク)があります。
時間的に一つ前の隠れ層(中間層)sのデータを、次の隠れ層sに引き継ぐ構造を持ちます。
下記に概念図を示します。
この基本のRNNから、より長期保存に適したLSTM(Long Short Term Memory)やそれを簡略化したGRU(Gated Recurrent Unit)、また双方向RNN(Bidirectional RNN)やRNN Encoder-Decoder、Seq2seqなど、様々な改良が為されています。
3-3-2. 教師なし学習
教師なし学習(または、自己教師あり学習)の中で予測に使われそうな手法としては、2017年にGoogleから提案されたTransformer※¹※²(論文名:Attention Is All You Need)があります。
アテンションという、NN途中でどの値に注意(注目)すべきか、という考え方をメインで用いており、精度と並列処理の観点から多くの分野への活用が期待されている技術です。
※¹画像認識に適用する場合など、「教師あり学習」の中で使われる場合もあり、ユースケースによって分類の解釈が変わる可能性があります。
※²自然言語処理やコンピュータビジョンの分野ほど、時系列データの予測に関しては精度が見込めず、iTransformerのような改良版も検討されています。
3-3-3. 予測の実例
深層学習を用いて予測した事例を下記に示します。モデルはLSTMを用いています。
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30分後の消費電力量の予測例
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12時間後の室温の予測例
4. 予測AIの現状と未来
4-1. 現状の活用事例
現状の代表的な予測活用事例を、まとめました。
環境分野 |
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・気温/大気成分/天候 ・花粉の飛散量 |
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生活分野 |
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・健康状態/虐待再発 ・犯罪/火災発生 ・乗り物(飛行機/電車)の乗客数 |
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産業分野 |
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・電力使用量/電気代/再生可能エネルギー ・売上高/出荷量/需要/消費量/卸価格/物流量 ・株価/為替/景況/失業者/資金ニーズ/金融審査 ・機器の故障/異常/劣化 |
また画像データと時系列データの両方(マルチモーダルデータ)を活用することで、
・子どもの飛び出し(予測)
・農作物の生産支援(生育の予測)
・医療の画像診断支援(腫瘍膨張/悪化/変異の予測)
といった使い方も行われています。
4-2. 未来への活用展望
予測AI x IoTが進むことにより、生活が一層豊か/便利になる、スマートシティの加速化が期待されています。
利用者数や人流を考慮した施設設備や老朽施設のメンテナンス効率化、渋滞予測による信号の切り替え、災害予測、電力の需給制御などのほかに、高齢化社会が進んでいく中で、生物学や医学と組み合わせた、バイオインフォマティクスの発達による遺伝子解析やタンパク質構造予測のその先など、新薬開発にも活用されていくものと期待されています。
また、その他には大規模言語モデル(LLM)をベースとしたChatGPT(Generative Pre-trained Transformer)など、生成AIの予測への活用も検討されています。
5. まとめ
AIという用語はかなり広義ですので、本記事では大まかに予測AIを分類し、機械学習と深層学習のメカニズムを簡単に説明しました。また、未来への展望として“予測AI”と“IoT”が今後さらに発達し、相乗効果を生み出すことで、夢のような生活が実現できる可能性が広がります。
本記事では触れていませんが、AIを活用する上で注意して頂きたい点は以下の通りです。
・その現象/問題に対して、深層学習を使う必要があるのか、機械学習の方が優れていることはないか
・セキュリティ対策が十分になされているか
・結果に対して、正確な説明責任が求められる分野かどうか(生命のリスクはないか)
※根拠を明らかにする、説明可能AI ”XAI”という研究も徐々に進んできています。
上記について、また別の記事にて解説したいと思いますが、もし不安な点がございましたら是非お気軽にお問い合わせください。