AIエキスパート・エクサウィザーズに聞いた「AI搭載で変わる産業用ロボット」
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- 更新日
- 2024.04.01
- 公開日
- 2024.03.14
製造業では、インダストリー4.0実現のためにIoT、AI、ロボット技術を導入した生産プロセスの自動化が進んでいます。これらの技術は、工場のスマート化に大きな変革をもたらしますが、現場に取り入れるには新たな知識が必要など、導入の難しさもあります。
今回は、AIを通じて様々な社会課題を解決してきたエクサウィザーズ 浅谷様に「産業用ロボット×AI」というテーマでAI導入での変化とその課題についてお話を伺いました。
1. AIがもたらす産業用ロボットの変化
Q. 産業用ロボットへのAI搭載でどのような変化が考えられますか?
「深さの視点」と「広さの視点」の2つの軸
ロボットでは従来難しいとされてきた作業にAIを活用することで、深さと広さの視点で難易度が低減されると考えています。
例えば、今まで布系などの柔らかいものを扱うことは非常に困難でしたが、AIを活用することでハンドリングできるようになり、人間にしかできなかったことをロボットができるようになってきています。また、少量多品種のものづくりを行う上でも、AIの搭載により1台の産業用ロボットで多様な作業が可能になることが期待されています。
現場で既に活用されているAI事例としては予知保全が良い例だと思っています。工場内設備の故障やそれに伴う生産中断はコスト負担が大きいため、事前に異常を検知してユーザに通知することは、生産設備のダウンタイム縮小につながっています。
Q. 産業用ロボット導入に対しての変化もありますか?
産業用ロボットの導入障壁が下がる
2016年頃から協働ロボットが展開するようになり、ロボットに実際に触れて動かして動作を覚えさせる「ダイレクトティーチング」によって、ロボットへのティーチングは簡単になりました。これからは生成AIを活用しロボットプログラムを自動生成することで、産業用ロボットへの導入障壁が下がることが期待されます。
また、ロボット用のエンドエフェクタ(ロボットアームの先端に取り付けられ、掴むなどの動作を行う機器)が複雑化または専門的になることで、コストアップや開発期間の増加が懸念されますが、AI技術を使うことでエンドエフェクタをシンプルにでき、結果としてコストや導入障壁の軽減に繋がるという効果も期待できます。
2. 産業用ロボットにAIを活用するニーズと課題
Q. どの様な課題に対してAIが必要とされていますか?
宇宙でモノを運ぶ用途でも活用
ビジョン系でバラ積みピッキングを実現したいという内容が非常に多く、柔軟物(布製品)を掴む、粉を測る、といったご相談もきます。弊社では、JAXA様との研究開発で、布製バッグを使って宇宙にモノを搬送するために、布製品を上手くハンドリングするAIロボットの技術提供を行った例もあります。モノを運ぶ際、製造現場で布製バッグや紙は使い勝手が良く重宝されますが、ロボットでの扱いは難しいため弊社にお声がけいただくことがあります。
Q. ロボット制御にクラウドAIを活用する課題は何ですか?
クラウドAIの活用はまだ課題あり
弊社でも生産現場で取得した画像をクラウド上でAI処理し、結果を現場に戻すという構成で検証を行いましたが、サイクルタイムに制約がある現場でのクラウドAI活用には課題があると感じています。その他の課題として、ネットワークの安定性を担保できないことや、クラウド利用によるセキュリティ上の懸念を示されるお客様も多くいらっしゃいます。これらの背景もあり、全てがオンサイトで完結するエッジAIが求められています。
3. 誰でも簡単な学習レス音声認識ロボット
Q. 国際ロボット展の反響はいかがでしたか?
「音声認識」、「学習レス」が大反響!
音声でロボット制御ができることに対して多くのお客様に興味を持っていただきました。音声入力のようなインターフェース部分を開発している企業様やロボットを活用したい企業様にとって、ロボット制御をより身近に感じてもらえたと思います。今までのAIではデータ収集を行って学習させていくことが常識でしたが、「学習レス」も新しい仕組みとして認識いただきました。
Q. 学習レスの活用によって、産業用ロボットへのAI導入は加速していきますか?
サービスロボットから産業用ロボットへの応用
確実にAI導入は加速すると思いますが、AIは汎用性が高いため作業用途が限定的な産業用ロボットではなく、サービスロボットに対するAI導入が先行すると考えています。具体的には飲食系の場合、厨房での活用を想定しています。サービスロボットでAIが活用されていくことで、作業スピードや作業精度などが向上し、ゆくゆくは産業分野への応用が具体化していくでしょう。
4. 産業用ロボット×AIの今後
Q:産業用ロボットへのAI搭載はどう変わっていきますか?
技術変化のスピードに注意
ロボットへAIシステムを導入する際は「ロボットコントローラ自体にAIを搭載する方法」と「ロボットコントローラとAI搭載PCが連携する方法」がありますが、現状は後者の選択をする方が多いと考えています。
AIを取り巻く環境はソフトウェア・ハードウェアどちらも絶えず変化をしていますので、その時々で最良の組み合わせを選択することが良いソリューションにつながると思っています。
近年注目をされているLLMの分野を例にすると、絶えず新たなモデルが公開され著しい性能の向上を示しているのはご存じの通りだと思います。GPUの進化も留まる事を知らず、処理性能の向上や価格低下など毎年のように状況が変化しています。AIシステムが求められるような現場では、「今まで出来なかった自動化が実現できる」事を期待されている場合が多いので、技術の進化に対応できるようにシステムを設計した方が良いでしょう。
もちろん、長期に運用していく段階や量産システムの場合には、ロボットコントローラ自体にAIを組み込むという手段が有効になると思います。技術の進歩と運用状況を鑑みながら、最適なシステム設計をする事が重要です。
5. まとめ
今回のインタビューを通して、産業用ロボットがAI機能を有することで、従来ロボットでは作業難度の高い作業工程の自動化が図れることを実感しました。また、現場でのロボット導入障壁の軽減が図れるという効果も期待できることから、人手不足対策や生産性向上へのソリューションとして期待できます。
浅谷様、この度は貴重なお話どうも有難うございました!
株式会社エクサウィザーズ
浅谷 学嗣 様(Satoshi Asatani)
人工知能研究会幹事、エクサウィザーズ技術専門役員。大阪大学では”知能”の研究に没頭し、GPGPUを活用したDeep Learning用ライブラリや細胞画像認識システムを開発。人工知能技術の講演やレクチャーを多数行い、在学中の2015年12月に人工知能研究会を立ち上げる。2016年6月には株式会社エクサインテリジェンス(現 株式会社エクサウィザーズ)にAIエンジニアとして入社。画像・動画解析/異常検知/最適化など様々な分野のAIシステム開発に従事。 現在はロボットとAI技術を融合させたシステム開発を中心に技術開発を進め、2021年4月よりAIエンジニアリングフェロー就任。
(執筆者:江田昌隆、編集者:安田朋史)