OTAに潜むセキュリティリスク!未然に防ぐ設計と運用ポイントとは?
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- 更新日
- 公開日
- 2025.10.27
便利なOTA(Over-the-Air)ですが、その裏にはセキュリティリスクが潜んでいます。通信の盗聴や改ざん、不正なアップデート配信によって、情報漏洩やOTA対応機器の乗っ取りにつながる可能性もあります。
本記事では、こうした脅威の代表例と、それらを防ぐためのセキュリティ技術・設計上のポイントをご紹介します。
1. OTAセキュリティの必要性
近年、IoT機器や産業機器などの分野で、OTA(Over-The-Air)技術の活用が急速に進んでいます。ソフトウェアの更新を遠隔・無線で行えるこの技術は、保守メンテナンスの効率化だけでなく、機能追加や不具合修正、セキュリティパッチの迅速な適用など、製品のライフサイクル全体において大きな価値をもたらします。
これまでの記事では、OTAの基本や活用事例、システム構成について解説してきました。

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製品の運用管理においては、脆弱性が発見された際に迅速に対処できる仕組みが求められており、安全なソフトウェア配信の仕組みとしてOTAが活用されています。
しかし、製品のセキュリティ対策が不十分なまま放置されると、模倣品の流通や不正アクセス、情報漏洩などのリスクが拡大する恐れもあります。
さらに、近年では各国で製品セキュリティに関する法規制が強化されています。EUでは「CRA(Cyber Resilience Act)」が制定され、デジタル製品に対して、セキュリティ機能の実装やアップデート体制の整備が義務化されつつあります。これらの規制に対応するためにも、OTAの安全性は避けて通れないテーマです。
本記事では、OTAに必要なセキュリティ対策について、技術的な仕組みと設計・運用の観点の両面から解説していきます。
2. OTAに潜むセキュリティリスク
OTAは、製品の機能追加や不具合修正を遠隔で行える便利な仕組みですが、インターネットを介してソフトウェアを配信するという特性上、常にサイバー攻撃のリスクと隣り合わせです。代表的なリスクを以下に整理します。
| リスク | 手口 | 想定される影響 |
|---|---|---|
| 中間者攻撃 (MITM)※1 |
通信経路を盗聴・改ざん | 機密情報の漏洩 アップデートファイルの改ざん |
| 偽装アップデート | 正規サーバを偽装して偽のファイルを配布 | マルウェア感染 OTA対応機器の機能停止 |
| 不正な機器への配信 | OTA対応機器の正当性を確認せずに配信 | 模倣品や不正な機器への拡散 不正利用の拡大 |
| 遠隔操作による乗っ取り | 脆弱性を突いて制御権を奪取 | 工場ラインや社会インフラの停止 家庭用IoT機器の不正操作 |
※1 MITM(Man-in-the-Middle):通信の途中に攻撃者が割り込み、盗聴や改ざんを行う攻撃手法
OTAは便利な技術である一方、セキュリティ対策が不十分なまま運用すると、製品の信頼性や安全性を損なう結果につながります。次章では、これらのリスクに対してどのような技術的対策が有効なのかを解説していきます。
3. OTAセキュリティ対策の技術要素

OTAを安全に運用するためには、通信やアップデートファイルの処理、OTA対応機器の管理など、複数の技術的なセキュリティ対策が必要です。ここでは、代表的な技術要素を紹介します。
通信の暗号化
OTAでは、アップデートファイルがインターネット経由で配信されるため、通信経路の安全性が重要です。TLS(Transport Layer Security)などの暗号化技術を用いることで、第三者による盗聴や改ざんを防ぎます。暗号化されていない通信は、攻撃者にとって格好の標的となり得ます。
アップデートファイルの署名と検証
OTAで配信されるファイルには、デジタル署名を付与し、受信側でその署名を検証する必要があります。これにより、改ざんされたファイルや偽のアップデートがインストールされるリスクを防止できます。署名の検証は、OTAの信頼性を担保する最も基本的なセキュリティ対策です。
OTA対応機器の事前認証
OTAを実行する前に、OTA対応機器が正規のものかどうかを確認する「個体認証」も有効な対策です。IDや証明書を用いてOTA対応機器を識別し、認証された機器のみにアップデートを配信することで、模倣品や不正な機器への誤配信を防止できます。
安全なブート機能
不正なソフトウェアが起動しないようにするために、起動時に正当性を検証する仕組みが「セキュアブート」です。これにより、改ざんされたプログラムの実行を防ぎ、システムの整合性と信頼性を維持できます。
ロールバック機能
アップデート後に不具合や異常が発生した場合、以前の安全なバージョンに戻す仕組みが「ロールバック機能」です。これにより、アップデート失敗時のリスクを軽減し、製品の安定性と継続的な運用を確保できます。
ご紹介した仕組みは、OTAを安全に運用するための代表的なものです。実際には、製品や用途に応じてさまざまな技術が組み合わされます。
4. セキュリティ設計と運用のポイント
OTAのセキュリティ対策は、技術的な仕組みを導入するだけでは不十分です。製品のライフサイクル全体にわたって、セキュリティを設計・運用に組み込むことが不可欠です。ここでは、開発プロセスや運用体制におけるセキュリティのポイントを紹介します。
セキュア開発ライフサイクルの導入
製品の企画や設計の段階からセキュリティを考慮する「セキュア・バイ・デザイン」の考え方が重要です。IEC 62443-4-1 などの規格では、セキュリティ要件の定義やリスク評価、テストの実施、イベント記録と対応体制の整備といったプロセスが求められています。これらを組み込むことで、OTAを含む製品全体のセキュリティレベルを高めることができます。
サプライチェーン全体でのセキュリティ管理
製品の開発・製造には複数のベンダや部品が関与するため、サプライチェーン全体でのセキュリティ管理が重要です。外部ベンダが提供するソフトウェアやファームウェアにもセキュリティ要件を適用し、信頼性のある製品構成を維持する必要があります。
継続的な脆弱性診断とアップデート体制
製品リリース後も、セキュリティリスクは時間とともに変化します。脆弱性診断を定期的に実施し、必要に応じてOTAでセキュリティパッチを配信する体制を整えることで、製品の安全性を継続的に維持することができます。
このように、OTAのセキュリティは「技術」だけでなく、「設計思想」や「運用体制」によって支えられています。
5. まとめ

OTAは、製品の機能追加や不具合修正を遠隔で行える便利な技術ですが、セキュリティ対策が不十分なまま運用すると、重大なリスクにつながります。安全なOTA運用には、暗号化通信や署名検証、個体認証などの技術的対策に加え、設計・開発・運用のすべての段階でセキュリティを組み込む「セキュア・バイ・デザイン」の考え方が不可欠です。
今後は、各国の法規制への対応も含めて、OTAのセキュリティを製品戦略の一部として捉えることが求められます。
(執筆者:内田 将之)


