オートマティカ2025で見えた - ヒューマノイドがもたらすロボットの方向性は?
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- 更新日
- 公開日
- 2025.12.10
人手不足が常態化する製造・物流の現場では、既存の産業ロボットだけでは埋めきれない“自動化の空白”が広がっています。そこで注目されているのが、人型ロボット(ヒューマノイド)×AI(フィジカルAI)です。
本記事では、ミュンヘンで開催された「オートマティカ2025」の現地情報を起点に、日本企業の検討に役立つ市場動向、技術潮流、導入の考え方を工程視点で整理します。
INDEX
1. 人型ロボットが工場で働き始める?
衝撃的なニュースが示すロボット市場の可能性
2025年6月上旬、ある衝撃的なニュース記事が業界を駆け巡りました。「AIの進化がロボット性能を高め、人間の役割を代替する」という見出しとともに、イーロン・マスク氏は「人間は自動車工場から姿を消す可能性がある」、「長期的には普及台数が100億台に至るのではないか」とコメントしました。さらに注目すべきは、従来の「人口の数=労働力」という常識が、人型ロボットの普及によって覆される可能性があるという指摘です。ロボットの進化は協働ロボットやAGV・AMRといった個別ロボットから、近い将来には人型シルエットのロボットへと一気に進化するとの予測がありました。この予測が正しいかどうか、オートマティカ2025から紐解きます。
2. 世界最大級のロボット展示会が示す未来
オートマティカは世界最大級のスマートオートメーションとロボティックスの展示会として知られています。2025年6月にドイツのミュンヘンで開催された今回は、世界90カ国以上から約4万9000人が来場し、800社以上が出展しました。展示ホールには1000台を超えるロボットが並び、単なる展示会ではなく業界の知見と人材が集う国際的なプラットフォームとしての位置づけを確立しています。
フィジカルAI戦略(NVIDIA)
NVIDIAは、ロボットや自動車に「頭脳」を搭載することへ注力し、そのプラットフォームとしてNVIDIA Cosmos™やNVIDIA Omniverse™を提供しながら、フィジカルAIへの貢献を進めていくというメッセージを発信しました。NVIDIAの参入は、ロボット業界におけるAI技術の重要性をさらに高めるものとなっています。
生産性向上戦略(ユニバーサルロボット)
協働ロボットメーカである「ユニバーサルロボット」は、人口減少による労働力不足に対して自動化が必要であり、中でも生産性を伴った自動化が重要だと強調しました。彼らはフィジカルAI、モビリティ、モジュラリティ、エコシステムの4つを中心としながら、生産性向上につなげていくという戦略を発表しました。この発表は、単なる自動化ではなく、効率的な自動化の必要性を示しています。
3. ヒューマノイドロボット普及の重要ポイント
展示会では、人型ロボットが普及していくために重要なポイントが見えてきました。
① 自動化空白領域への挑戦
BMWなどの企業は、自動化が困難であった、いわゆる「空白の領域」に人型ロボットを試験的に導入していることを発表しました。これまで困難であった作業領域に、人型ロボットの柔軟性が活かされる可能性が示されたのです。この取り組みは、完全自動化への道筋を示す重要な一歩となっています。
② 安全基準の整備が急務
人型ロボットは人間のように柔軟な点がメリットですが、安全面での課題が残っており、 今後、安全性に対する基準を設ける必要があることが指摘されました。安全性に向けた基準の整備は、人型ロボットの社会実装において避けては通れない重要な課題です。
③ AIは必須ではない
人型ロボットには必ずAIのような「頭脳」が搭載される必要があると考えられていました。 しかし、活用次第では人が直接動かした動作を記録し再現するプレイバック式でも完結できることが明らかになりました。この発見は、ロボットを導入するハードルを下げる可能性を示唆しており、コスト面でも重要な意味を持ちます。
4. ロボット展示会が示す最新技術
NVIDIAの基盤モデル「NVIDIA Isaac™ GR00T」実装デモ
2025年のNVIDIA GTCイベントで発表された、人型ロボット向け基盤モデル「GR00T」を実装したリアルタイムのAI推論によるデモが展示されました。このデモによる重要なポイントは、ロボットをスクリプトやロジックにより動かすことなく、カメラ映像や文脈に基づいて目標を推論し、動作している点です。このデモからさまざまなタスクに対して、人型ロボットが応用力や適応力を発揮しながら人の作業を代替していく未来が、現実味を帯びてきたのです。
NVIDIAの開発プラットフォームについて詳しく知りたい方は、こちらの記事も参照ください。
足付きペダルタイプの現状と課題
足が付いているペダルタイプの人型ロボットについては、複数のメーカが展示を行いましたが、ほとんどが静止状態での展示でした。一方で、ドイツ航空宇宙センター(DLR)は動的な展示を実施し、ロボットが観客に向けて手を振ったり、段差を登り降りする様子を実演しました。静止した展示と動的な展示を比較すると、ロボットが歩行する、すなわち「動く」ということがまだまだ技術的に難しいことが明らかになりました。
車輪タイプ・上半身タイプの優位性
人型ロボットの中でも、車輪やホイールタイプ、上半身だけのタイプは、足付きタイプの約2倍に当たる10メーカほどが展示していました。当初、人型ロボットは足が付いているタイプと同義だと考えられていましたが、このようなタイプのロボットが多数存在することが明らかになりました。これは市場のニーズと技術的な実現可能性のバランスを示す重要な発見です。
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Neura Robotics
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Agile Robots
5. 展示物から読み解くロボット開発の方向性
人型ロボットに実装されたリアルタイム推論デモによって、人の動きをロボット・AIで代替することが近づいてきている印象を受けました。これは単なる技術デモではなく、実用化に向けた大きな前進を意味します。AIの進化により、複雑なタスクへの対応が可能になり、ロボットの能力が飛躍的に向上していることを示しています。
足付きタイプと車輪タイプの現状
各社が人型ロボットの開発に取り組んでいますが、足付きタイプの本格的な導入には、安定動作などの課題があり、導入はもう少し先になると予想されます。一方、車輪タイプは安定性が高く、収益確保やデータ収集を目的に製品化の動きが加速していくと考えられます。
6. ロボットの進化に向けたロードマップ
個別のロボットから人型ロボットへと大きく進化するという考えは正しい方向性でした。しかし、人型ロボットには「足付きタイプ」と「車輪タイプ」が存在することが新たな発見でした。将来的には足付きタイプが主流になると予想されますが、現時点では安定性やコスト面から車輪タイプが中間的な選択肢として導入が進むと見られます。どちらのタイプであっても、エンボディドAIやフィジカルAIと呼ばれるAI技術は不可欠であり、その重要性は変わりません。さらに、AIは日々指数関数的に進化しており、本日紹介した内容もすぐに時代遅れの内容になる可能性があります。だからこそ、継続的な情報収集と技術のアップデートが今後ますます重要になっていくでしょう。
(執筆者:江田 昌隆、編集者:安田 朋史)



