シングルペアイーサネット(SPE)解説!!市場動向と今後の課題とは?
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- 更新日
- 公開日
- 2026.01.30
今後、あらゆる分野で活用が期待される通信規格シングルペアイーサネット(SPE)について、2回に分けてお届けしています。
本記事では、SPEが解決する課題、コンソーシアムによる規格の統一・普及に向けた動きや必要なことなど、SPEが描く未来について解説します。
INDEX
1. SPEが解決する既存インフラの課題
レガシーシステムの更新という大きな市場
既存システムの再利用、特に既存の配線インフラがどの程度再利用できるかという問題は、SPE導入の重要な検討事項です。既存のイーサネットのリプレースも重要ですが、実はその前に、もっと大きな市場が存在しています。
それは、ビル、鉄道、道路、電力制御など、さまざまな場所で使用されているレガシーインフラの更新です。
これらはイーサネットよりも長い歴史を持つ重要なインフラとして機能してきましたが、多くは1ペアのケーブルを使用しています。また、昭和時代に設置されたものが多く、通信インフラはすでに老朽化が進んでいるため、インフラを更新していく時期に来ています。
SPEの環境対応性という優位性
これらのレガシーインフラの代替としてSPEは優れています。その理由は、このトランシーバや周辺デバイスはすべて自動車向けに開発されたため、その環境対応性の高さにあります。
イーサネットはもともとパソコンやサーバ用に開発されたため、民生用グレードで動作温度範囲は0℃から70℃程度です。一方、オートモーティブグレードでは-40℃から85℃、場合によっては100℃まで対応しています。
また、高温多湿の環境や、寒冷地での使用、振動の多い環境など、産業用途やインフラ用途で求められる厳しい条件に対応できるため、屋外や過酷な環境下で使用されるインフラ基盤には非常に適しています。
トランシーバ供給の安定性
さらに重要なのは、自動車産業という巨大な市場があることで、トランシーバデバイスの供給が長期的に安定するという点です。
レガシーシステムのインフラを更新する際、従来のトランシーバの多くは既に製造終了(EOL)しているなど、汎用的なトランシーバデバイスが現在ほとんど存在しない現状がありますが、SPEではこの問題が起こりにくいと考えられます。
このように、レガシーインフラの更新という大きな市場があり、それが普及していくと、次にイーサネットのリプレースへ、さらにパソコンなどのマス市場へと展開していく流れが予想されます。
2. SPEがもたらす技術メリット
ケーブルの耐久性と可動部への対応
ケーブルの曲げ半径やロボットアームなど可動部への適用可能性についても重要な検討課題です。
ロボットは小型化・スタイリッシュ化が進み、モータもロボット内部に組み込まれるようになりました。そのため、内部配線スペースが限られるため、細いケーブルが強く求められています。
また、曲げやツイストへの耐性が必須ですが、SPEケーブルでは1対のツイストペアにすることで、曲げ半径や屈曲回数を向上させることができるため、従来の同軸ケーブルやLANケーブルでは難しかった屈曲性能を実現可能です。
実際にケーブルメーカではロボット用のSPEケーブルを開発しています。また、特殊なシールド構造や柔軟な絶縁材料を使用することで、数百万回の屈曲に耐えられる製品も開発されています。今後、従来のLANケーブルよりも性能の高い製品が次々開発されると考えられています。
コネクタのロック機構と用途に応じた柔軟な設計
コネクタの抜け防止機能についても重要な要素です。
RJ45 LANケーブルでは、ロック部分が樹脂製で折れやすく、折れることでロック機能が完全に失われる最大の問題がありました。SPEコネクタでは、多くが繰り返し使用に強い金属製のメタルバネを使用することで耐久性が大幅に向上しています。
FA機器など、確実な接続が求められる用途では、このロック機構の信頼性が重要ですが、将来、スマートフォンなどのコンシューマ向けに採用される際には、USB Type-Cのようにロックなしで簡単に抜き差しできるタイプも出てくると考えられます。
産業用途では確実な接続が優先されますが、民生用途では使いやすさが優先されるため、ロック機構はそれぞれのニーズに合わせ柔軟に対応した製品展開が進むでしょう。
3. SPE普及の鍵となるエコシステム整備
SPE導入時の課題
SPEの普及には、SPEネットワークを構築するためのルータやスイッチングハブが、国内ではまだあまり製品化されていない問題があります。一方、ドイツではSPE用のルータやスイッチングハブがかなり出てきています。
結局、コネクタやケーブルを用意しても、接続先がないため、実際に動かすことが難しいという状況があります。
イーサネットとSPEを変換するメディアコンバータの開発
そこで、イーサネットとSPEを変換するメディアコンバータが開発されています。
これを使用することで既存のイーサネット機器を利用しながらSPEを試すことが可能です。
例えば、50mのSPEケーブルでカメラを接続し、映像を伝送するデモンストレーションですが、画質も安定しており、実用上問題ないレベルで、通常のイーサネットと同様に使用できることが確認できています。
今後、普及するためには、評価や試作の段階で気軽に試せる製品があることが重要です。そのため、将来的には、ポケットに入れて持ち運べて、ユーザが手軽に使用できる消しゴム程度の大きさのメディアコンバータの開発が目標とされています。
(出典)SPEコンソーシアム「シングルペアイーサネット」ウェビナ登壇資料より引用
評価用スイッチングハブの開発
10BASE-T1Lという規格に対応した48V給電可能なスイッチングハブの開発・評価も進められています。これにより、より実践的なネットワーク構成での評価が可能になります。
また、SPEコネクタはRJ45コネクタと比較すると約4分の1の大きさです。USB Type-Cが急速に普及したときと同様、このコネクタの小型化が視覚的にも印象的なため、SPEが広まる要因と考えられています。
(出典)SPEコンソーシアム「シングルペアイーサネット」ウェビナ登壇資料より引用
4. 規格の統一に向けた動きと課題
カテゴリ別の実用化への促進と発展経路
現在、SPE規格は、カテゴリA、B、Cというそれぞれ短距離通信、長距離通信、バス接続の3つのグルーピングで整理が進んでいるという状況です。これら3つのトポロジは、ユースケースとして大きく異なるため、それぞれに適した形で規格化が進むと考えられています。
カテゴリAは短距離用で、10Mbpsから10Gbpsまでをカバーします。現在はIEEEの異なる規格がありますが、同じチップで広い範囲の速度に対応できるように進化していくでしょう。ただし、10Mbpsから10Gbpsまでを1つのチップでカバーするのは技術的に難しいため、A-1とA-2のように分かれています。
カテゴリBは長距離用、カテゴリCはバス接続用として、それぞれの特性に最適化された製品が開発されていきます。すべてを1つの規格に統一するよりも、用途に応じた最適化を図る方が、実用性が高いという判断です。
現在のイーサネットも最初は複数の規格が並立していましたが、徐々に統合され、現在では1つのチップで複数の速度に対応できるようになりましたが、SPEもイーサネットと同じような発展の仕方になると予想されます。
コネクタ規格の将来的な収束
コネクタについても、現在複数の規格が並立していますが、市場の選択によって自然に絞り込まれていく可能性があります。
USB規格の歴史を見ても、当初は複数のコネクタ形状がありましたが、最終的にType-Cに収束しました。SPEも同様のプロセスをたどると予想されます。
ただし、産業用途とコンシューマ用途では要求が異なるため、完全に1つに統一されるとは限りません。堅牢性が求められる産業用と、使いやすさが求められる民生用で、それぞれ最適なコネクタが残る可能性もあります。
(出典)SPEコンソーシアム「シングルペアイーサネット」ウェビナ登壇資料より引用
5. 日本のコンソーシアムの体制と今後の普及活動
プロモータ企業とサポータ企業の役割
現在、コンソーシアムには装置デバイスベンダ、コネクタ・ケーブルメーカ、測定機メーカなど、プロモータ企業が15社、サポータ企業が27社参加しており、国内企業だけでなく海外の他のコンソーシアムやアライアンスに参加しているメンバ企業もこの技術を実現するためのプロモータ企業として参加しています。
3年間の準備段階を経て、技術の実現に必要な企業が集まってガイドラインの策定などを進めてきました。どのグループとも連携して活動できる体制が整いつつあります。
今後はシステムベンダやアプリケーションサービスを提供する企業にもサポータ企業として参加してほしい考えがあります。実際にSPEを使用するユーザ企業やシステムインテグレータの参加が重要となります。
また、コンソーシアムのホームページでは、会員企業の情報や最新の活動状況を公開しています。興味のある企業は問い合わせることで、参加の詳細を知ることができます。
(出典)SPEコンソーシアム「シングルペアイーサネット」ウェビナ登壇資料より引用
ユーザ企業の参加と実証実験
技術開発だけでなく、実際にSPEを使用するユーザ企業の参加が普及のためには重要となります。
先行して導入事例を作り、そこで得られた知見を共有することで、後続の導入がスムーズになります。また、実証実験を通じて、どのような用途で特にメリットが大きいか、どのような課題があるかを明らかにすることが重要です。
コンソーシアムでは、こうした実証実験をサポートし、知見を蓄積していく予定です。
教育と啓発活動
SPEという新しい技術を広めるためには、教育と啓発活動も欠かせません。
エンジニアだけでなく、経営層や発注者側の理解も必要です。従来のイーサネットと比較してどのようなメリットがあるのか、どのような場面で有効なのかを、わかりやすく伝えていく必要があります。
コンソーシアムが作成している実装ガイドラインは、まさにこの目的のためのものです。複雑な規格を整理し、実際に使用する際の指針を示すことで、導入のハードルを下げることができます。
また、会員の皆さまとともに活動を進め、一般の方々にもSPEの魅力を伝えていく計画もあります。今年、実際にSPE機器を体験し、そのメリットを実感できる場所として、横浜のみなとみらい地区にあるリビングタウンみなとみらいに自動車と住宅の融合をテーマとしたショーケースを開設予定です。
国際的な連携と標準化の推進
日本のコンソーシアムは、海外の他のコンソーシアムやアライアンスとも連携を進めています。
どのグループとも協力できる体制を整えることで、グローバルに通用する技術として発展させることができます。
国際標準化の動きと歩調を合わせながら、日本市場の特性に合わせた展開を図ることが重要です。特に、高品質・高信頼性を求める日本市場のニーズに応えることで、世界市場でも競争力のある製品やシステムを提供できるでしょう。
6. SPEが描く未来のネットワーク
すべてのデバイスをつなぐ技術として
2030年を一つのマイルストーンとして、業界全体で普及に向けた取り組みが進められています。
自動車、FA機器、ビルオートメーション、そして最終的にはスマートフォンやパソコンなど、すべてのデバイスをつなぐ技術として発展していく可能性を秘めています。
USB Type-Cが数年で急速に普及したように、SPEも適切なタイミングで一気に広がる可能性があります。そのためには、技術開発、標準化、エコシステム構築、啓発活動など、多方面での取り組みを継続していく必要があります。
(出典)SPEコンソーシアム「シングルペアイーサネット」ウェビナ登壇資料より引用
SDGsへの貢献
環境面でも、銅の使用量削減、設置工事の簡素化、低電圧DC給電による効率化など、多くのメリットがあります。
再生可能エネルギーとの親和性も高く、持続可能な社会の実現に貢献できる技術です。
1本のケーブルで通信と電力供給の両方を実現できるという特性は、IoT時代のネットワークインフラとして理想的です。無数のセンサやデバイスをネットワークに接続する際、配線の簡素化は大きなメリットとなります。
同軸使用量を減らせることは、資源の有効活用という観点からも重要です。限られた資源をより効率的に使用することで、環境負荷を低減できます。
日本から世界へ
日本のシングルペアイーサネットコンソーシアムは、どのグループとも連携できる中立的な立場で、SPEの普及を推進しています。
日本の高い技術力と品質管理能力を活かして、世界市場でも競争力のある製品やシステムを提供することが期待されています。
ユーザ企業、デバイスメーカ、ケーブル・コネクタメーカ、システムインテグレータなど、すべての関係者が協力することで、SPEという新しい技術を社会に定着させることができるでしょう。
2030年に向けて、この技術が私たちの生活やビジネスをどのように変えていくのか、その発展を注視していく必要があります。
7. まとめ
SPEは、自動車分野で実績を積み、今まさに一般産業分野への展開が始まろうとしている技術です。
小型化、軽量化、省エネルギー化といった時代の要請に応える技術として、今後の普及が大いに期待されていますので、今後も目が離せない技術です。
SPEの導入に関するご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
(編集者:髙橋達也)
