USB PDを簡単に!Sinkから見る規格と設計ポイント

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  • 更新日
  • 公開日
  • 2025.05.28

 昨今、EUのUSB Type-C(以下、USB-C)充電義務化に伴い、USB-C対応電源が普及し始めています。ユーザーにとって便利に使える一方で、受電側(以下、Sink)の電源設計者は、これまでのDC電源からUSB Power Delivery(以下、USB PD)への変更で悩まされています。

 本記事では、組み込み機器向けUSB PD規格に関して、Sink-Onlyを中心に仕様概要・設計ポイントを説明し、すぐに導入できる最大100WのUSB PD規格(SPR: Standard Power Range モード)に対応したUSB-C入力電源変換ソリューションをご紹介します。

1. USB Type-C, USB PD規格概要

1.1 USB TYPE-C(USB-C)規格とは?

 USB-Cは、USB Implementers Forum, Inc.(USB-IF)によって策定されたUSBケーブルとコネクタの規格です。当コネクタにより、USBのデータ通信と合わせて、USB PDによる電力伝送に対応します。
 USB-Cコネクタは上下対称なデザインの仕様になっています。従来のUSB 2.0、USB 3.xで使われていたデータ通信、電源、GND、USB PDの給電電力調整や接続、エラー検出用のCC(Configuration Channel)端子と、DisplayPort、HDMIなどを伝送するオルタネートモード(Alternate Mode)で使用するSBU(Sideband Use)信号が追加されています。

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USB Type-C ピンアサイン

1.2 USB Power Delivery(USB PD)規格とは?

 USB PDはUSB-Cケーブル/コネクタを使用して、従来のUSB規格より大電力をやり取りできるようにした規格です。
 USB PDはデバイス間で高効率かつ柔軟に電力をやり取りできるように定められており、USB PD 3.1では、SPR(Standard Power Range)モードとして従来の5V以外に9V、15V、20Vをサポートしています。さらに最新のUSB PD 3.2ではEPR(Extended Power Range)としてサポート電圧が28V、36Vおよび48Vまで拡張され、最大240Wに対応できるようになりました。各規格と出力電圧の関係は下記のようになっています。

USB Power Delivery規格と出力電圧/電流の関係
USB PD規格 利用可能な電流と電圧 PDP※1範囲
SPR
(Standard Power Range)
3A:5V, 9V, 15V, 20V
5A:20V
15~60W
60~100W
EPR
(Extended Power Range)
3A:5V, 9V, 15V, 20V
5A:20V
5A:28V, 36V, 48V
15~60W
60~100W
100~240W

*1:Power Data Pairingの略です。後述PPSより電力要求のネゴシエーションためのデータ通信でCCを介してデバイス間で電力供給とデータ通信を適切に処理するために、必要な情報や設定を交換するプロセスを指します。

出典:USB Power Delivery Specification 3.2

1.3 USB PDのPPS(Programmable Power Supply)とは?

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EPR Source Power Rule Illustration(クリックで拡大表示します)
出典:USB Power Delivery Specification 3.2

 USB PD Revision 3.0 Version 1.1で追加された高速充電が可能な拡張規格PPSは、給電(Source)と受電(Sink)の間で、電圧と電流を動的に調整できる仕様です。
 PPSはUSB-CのCC(Configuration Channel)とVCONN(Voltage for Connector)を介して出力電圧・電流を調整し、VBUSで電力を供給します。前述の通り、通常のUSB-PDでも決められた電圧への調整を行いますが、PPSでは、より細かな電力供給を実現し、効率的かつ柔軟な電力管理を行うことができるように0.1V/0.05A単位で調整を行うように定義されています。
 USBの規格はそれぞれ要求の異なる組み合わせに対応する必要があるため、SW設計や動作検証が大変複雑です。導入するには規格を十分理解する必要があり、USB-PD対応設計初心者にとってとてもハードルが高いものと思われます。

 PPSの主な特徴は下記の通りです。

  • 可変電圧:5Vから20Vまで(SPRモード*2)の範囲で0.1V単位で調整できます。
  • 可変電流:最大5Aまで0.05A単位で動的に調整できます。
  • 効率的な充電:電圧や電流を細かく調整できるため、効率よくバッテリを充電できます。
  • 高効率な動作:Source-Sink間の通信を通じて効率的な充電を行うため、エネルギーの無駄を減らし、発熱も抑えることができます。

*2:USB PD 3.2より最大240W拡張されたEPRモードでは48Vまで調整できます。

2. USB PDの動作概要

2.1 USB-C接続検出とネゴシエーションプロセス

 CCとVCONNは、USB通信とUSB PD制御において非常に重要な役割を果たす信号線です。SourceとSink両方のCC電位をモニタすることで、 SourceとSinkがUSB-Cケーブルで接続されると、接続検出と同時にUSB-Cケーブルがコネクタとどのように結線されているのかが判断できます。また、初期の通信で、どちらがSourceでどちらがSinkになるかが決まります。

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USB Power DeliveryにおけるSource-Sink間のCC/VCONN接続

供給能力(Source Capabilities)の通知とSinkの要求

  • Sourceは、供給可能な電圧と電流の範囲を含む供給能力を通知します。
  • 通常、Sourceは1つまたは複数の電力供給の電圧と電流などのプロファイルを提供します。
  • Sinkは、自身が必要とする電力要求をSourceに通知します。Sinkがどの供給プロファイルを選択するかが決まります。

電力供給のネゴシエーション(Negotiation)

  • Sinkは、Sourceから提供された供給能力の中から適切なプロファイルを選び、Sourceに通知します。
  • Sourceは、この要求を受け入れるか、最適なプロファイルに調整することがあります。
    この時点で、供給する電圧と電流が確定します。Sourceは指定された電力を供給します。
  • 電力供給が始まった後も、通信は続きます。電圧や電流が必要に応じて変更されることがあります。
  • 電力供給の終了時、または接続の解除時に、双方で終了の通知が行われます。

3. USB PD周辺機器選定

3.1 安全に高速充電を実現するためのeMarker対応 USB PD対応ケーブルの選定

 USB PD規格では安全性と性能を担保するために、給電ケーブルの対応できる電力範囲を確認することが重要です。

 一般にUSB PDに対応しているケーブルには「3A対応(最大60W対応)」と「5A対応(最大100W~240W対応)」の2種類が存在しています(EPR対応USB PDに接続される場合、3Aの給電の場合でもEPR対応ケーブルを要求されます)。60W以上給電する場合、5A対応を確認するためにはeMarkerと呼ばれる認証チップを搭載した「5A対応ケーブル」を使用する必要があります。もしUSB PD100W対応ACアダプタとUSB機器をeMarker非搭載のケーブルで接続した場合、ケーブルが5A対応(最大100W対応)と認識されず、USB PD最大60Wまでの給電となります。

 残念ながら市場でeMarkerチップ自体をコピーして不正使用している偽造品があります。真正性を確認するために「C-AUTH」規格に対応した仕組みがあります。本記事では解説を省きますが、詳しく知りたい、または対策したい場合は、弊社へお問い合わせください。

3.2 確実な動作を保証するUSB PD対応ACアダプタの選定

 前述の通り、USB PD対応ACアダプタも給電能力に合わせてeMaker搭載/非搭載製品があります。また、マルチポート搭載のUSB PD対応ACアダプタではネゴシエーション時に一時的に電力供給が停止するため、バッテリ非搭載の機器では電源がOFFとなる可能性があるので注意が必要です。

4. 組み込み機器のUSB Type-C受電側の電源導入は難しい?

 組み込み機器のUSB Type-C受電、すなわちUSB PD Sinkの導入は、前述の通り多くの要素を考慮する必要があります。通信プロトコルの実装から保護回路、効率的な電力管理アルゴリズムまで、さまざまな側面で慎重な設計とテストが求められます。 USB PDを初めて設計される方には、とてもハードルが高く感じられますが、多少なりともハードルを緩和するためにUSB PD Sinkを設計する際に注意すべきポイントを挙げます。

  1. 仕様の整理
    • アプリケーションの電力要件とUSB PD仕様との対応を整理します。
    • 必要に応じて、USB PDで供給された電力をアプリケーション内で使用しやすい電力に変換することも検討します。
    • USB PDを安全に使用するため、過電流OCP(Over Current Protection)や過電圧OVP(Over Voltage Protection)の搭載を検討します。
  2. 最適なデバイス選定
    • アプリケーション使用する機能/性能に合うUSB PDデバイスを選定します。
    • USB PDで供給された電力を変換する場合、コンバータも併せて選定します。
  3. 通信プロトコルの実装と規格の互換性チェック
    • デバイス間で電力供給のネゴシエーションを行うための通信プロトコルを使用します。
    • Sinkは、Power Deliveryの通信を行い、必要な電力を適切に要求するために、リクエストの処理、Sink CapabilitiesやBMC(Binary Modulation Coding)通信実装する必要があります。
    • 最新のUSB PD標準に対応した互換性の設計チェックも必要となります。
  4. USB-CコネクタとケーブルとUSB PD対応ACアダプタの選定
    • 安全性、信頼性などからeMarker対応や、耐久性、データ伝送品質を選定の重要ポイントになります。

5. 初心者でも簡単に導入できるUSB PD 100W対応USB Type-C入力電源変換装置(Sinkアダプタ)

 ここでご紹介する100W対応USB Type-C入力電源変換装置*4は、ルネサスエレクトロニクス株式会社よりリリースされているリファレンスデザインです。本キットはPPSを実現するコントローラ部と、ソース(Source)から供給されるVBUSをそのまま出力できるバイパス(Bypass)回路、VBUSを変換してアプリケーションへ必要な電力を供給するバックブースト(Back Boost)回路で構成されています。本キットは下記の特徴があります。 

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100W対応USB Type-C入力電源変換装置のブロック図と基板写真
  • メリット
    • シンプルなデザインと高いコストパフォーマンス
    • 既存DC受電システムをそのままUSB PD対応に置き換え
  • 基本機能
    • USB PD 100W対応
    • VBUSバイパス出力と設定可能なDC出力電圧/電流
    • デフォルトDC出力電圧: 5, 9, 12, 15, 18 と 20V*5
  • その他
    • VID WriterツールよりFWのバイナリを生成さるため、FW開発不要
    • 回路図やガーバーデータ、BOMリストなども提供
    • USB認証済みでUSB PD初心者でもすぐに安心して導入可能
    • 必要に応じてBypassまたはBack Boostを選択し、アプリケーションのコストダウンを実現

 *4:USB PD Sink Adapter以外にエンドユーザーが容易に導入できるバッテリー充電機能を持つSink ChargerやDRP(Dual Role Power)及び240WまでEPR対応のUSB PD ソリューションが多数ご用意しております。詳細は、弊社へお問い合わせ下さい。

 *5:VID Writerツールよりディフォルト設定電圧です。それ以外の出力電圧対応可能です。詳細は、弊社へお問い合わせ下さい。

(執筆者:唐松 明 / 編集者:木庭 正博)

  • USB Type-C, USB PDに関して、お気軽にお問い合わせください

    IC、コネクタ、基板設計からACアダプタまで、お問い合わせお待ちしています。

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