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SDV時代の車載ネットワーク・後編 新規格・10BASE-T1Sを読み解く

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  • 更新日
  • 公開日
  • 2025.03.28

 近年、車載ネットワークや産業用ネットワークにおいてEthernet(イーサネット)技術が注目されています。その中でも「10BASE-T1S」は最新のSingle Pair Ethernet規格として、多くの分野で革新をもたらす技術です。この規格は、コスト削減やネットワーク設計の効率化に大きな貢献をしています。その特徴を一つずつ見ていきましょう。

 前編では車載ネットワークや、ゾーンアーキテクチャの概要について解説しておりますので、まだ見ていない方はこちらをクリック!

1. 注目の新技術 SPE(Single Pair Ethernet)

 車両へのEthernet導入以降、高機能化に伴いECUの数が増加し、従来のEthernet(2芯2対=4本または2芯4対=8本のツイストペア)では重量や占有面積、配線の複雑性が大きな課題となっていました。

 そこで注目されるのがSingle Pair Ethernet(SPE)です。SPEは2本のツイストペアケーブルのみでデータ通信と電力供給を実現し、ケーブル本数の大幅な削減と軽量化が可能です。さらに、自動車の厳しい環境(高温・低温、振動、電磁干渉)にも対応し、狭い車内空間でも配線しやすい特長を持ちます。この技術は、Broadcom社のBroadR-Reach(ブローダーリーチ)を起点に、OPEN Alliance SIGなどの業界団体の活動を経てIEEE規格として確立され、次世代の車載ネットワークを支える重要な要素となっています。

 

 2015年に100BASE-T1が制定され、翌2016年には1000BASE-T1が標準化されました。その後、2019年にインダストリアル向けに長距離(1km)の10BASE-T1Lが策定され、さらに自動車向けの短距離(15m、25m)用途にも対応する10BASE-T1Sが登場しました。

 そして2020年には2.5G/5G/10GbitのマルチギガビットSPEが標準化され、2023年には25Gbit超の高速通信が決定しました。さらに、2025年には10MbitのマルチドロップセグメントSPEの標準化が予定されており、ケーブル長の拡張、ノード数の増加、電力供給などが議論されています。


Single Pair Ethernet 来歴

 

自動車におけるSPEの重要性

 SPEは車載ネットワークにおいて5つの利点があり、従来の車載ネットワークの課題を解決し、次世代自動車の実現に不可欠な技術と考えられます。


✓ 帯域幅の拡大

 従来のCANと比較してより高い帯域幅を提供し、カメラ、LiDARなどの高データレートセンサからのデータ伝送、高速なバックボーン通信を可能にします。


✓ 軽量化と省スペース

 従来の複数ペアケーブルに比べてケーブルが細く軽量なため、車両全体の軽量化に貢献します。また電力を重畳できることで電源ハーネスが不要となり、配線に必要なスペースも削減でき、燃費向上にもつながります。


✓ コスト削減

 ケーブルの芯数が減ることでケーブルに使用される銅線の量の減少、コネクタ/配線作業も削減できることから、コストが削減されます。


✓ ECUの統合

 異なる通信プロトコルを使用していたECUをSPEで統合することで、ネットワーク構成を簡素化し、開発コストを削減できます。


✓ ソフトウェアアップデートの高速化

 高速なデータ通信により、車載ソフトウェアのアップデート(OTA: Over-The-Air)を迅速に行うことができます。

2. 10BASE-T1Sとは

 近年、車載ネットワークや産業機器におけるデータ通信の需要がますます高まっています。特に、シンプルな配線で複数のセンサやデバイスを効率よく接続したいというニーズに応える形で、新たに標準化されたのが10BASE-T1Sという通信規格です。

10BASE-T1Sの特徴


✓ 10Mbpsの帯域幅、半二重、全二重の通信

✓ データの衝突を回避(PLCA)

✓ マルチドロップトポロジをサポート

✓ 少なくとも8ノードの接続、15、25mの通信

✓ 安価なケーブルを使用可能(UTP)

✓ 従来Ethernetと異なり絶縁トランスは不要

✓ Point to PointでPoDLをサポート

✓ 従来Ethernetと同様のフレーム、プロトコル

✓ セキュリティ(MACSec)対応

 

Point to Point 接続

 2つのデバイス間を1対1で接続する方法で、高い通信安定性を確保できます。

✓ 半二重または全二重通信

✓ 距離は少なくとも15mをサポート

✓ PoDLサポート

 

マルチドロップ接続

 1本のバスに複数のノードを接続できるため、配線のコストを抑えながら柔軟なネットワーク構築が可能になります。

✓ 半二重通信のみ(PLCAで衝突回避)

✓ ノードは少なくとも8つをサポート

✓ 距離は少なくとも25mをサポート

✓ スタブ長は10cmまで

✓ PoDLは非サポート

3. 衝突回避機能 PLCA(Physical Layer Collision Avoidance)

 PLCA(Phyiscal Layer Collision Avoidance)は、マルチドロップトポロジにおいて物理媒体上でのデータ衝突を未然に防ぐための仕組みです。従来のネットワークでは、複数のノードが同時にデータを送信することで通信の衝突が発生し、データ再送が必要となることがありました。PLCAでは、ネットワーク上のデータ送信をスロットに分割し、各ノードに順番に送信機会を与えることで、衝突のない半二重通信を実現します。

PLCA動作メカニズム


1 ノードIDの割り当て

・ ネットワーク内の全ノードに0から始まる一意のIDが割り当てられる。


2 PLCAコーディネーターの役割

・ ID0のノードがPLCAコーディネーターとして機能し、定期的に同期用のBeaconを送信する。


3 送信機会の順番制御

・ 各ノード(PLCAフォロワー)は、Beaconを受信後、送信機会のカウントを開始し、自身のローカルIDと一致したタイミングでデータを送信できる。


4 次のノードへの送信機会の移行

・ ノードがデータを送信すると、次のノードに送信機会が移動。すべてのノードに送信機会が付与されると、新たなBeaconが送信され、サイクルが再スタートする。

 

 このBeacon送信から次のBeacon送信までの一連のプロセスを「PLCAバスサイクル」と呼び、効率的なデータ送信を実現します。

 PLCAはすべてのノードに公平に送信機会を付与することで、安定したネットワーク通信を実現します。

公平な送信機会の仕組み


1 1ノード1フレームの送信ルール

・ 各ノードは、基本的に1フレーム(データパケット)の送信を行うと、次のノードへと送信機会を譲る。


2 送信データがない場合の処理(Yield)

・ 送信すべきデータを保持していないノードは、自身の送信機会をスキップ(Yield)し、次のノードに送信権が渡る。


3 バスサイクルの可変性

・ PLCAのバスサイクルの長さは、各ノードの送信データ量に依存するため、一定ではなく可変となる。

・ すべてのノードが送信データを持たない場合、最短のバスサイクルが適用される。


4 最大バスサイクルとバーストオプション

・ 標準的なMACデータフレームは最大1500バイトであり、最大のPLCAバスサイクルはそのデータサイズを基準に算出される。

・ バーストオプションを利用することで、複数フレームを連続して送信可能になり、バスサイクルがさらに延長される。

4. 10BASE-T1Sのデバイス構成

 10BASE-T1Sのハードウェア構成について、デバイスの種類と接続構成ごとに説明します。

10BASE-T1S PHY

 

 MCU内蔵MACを持つ場合、外付けPHYを接続して10BASE-T1Sネットワークに接続(インターフェースはMIIまたはRMII)。

 マルチドロップトポロジで使用する場合、通信は半二重のみとなるため、MCUのMACが半二重通信に対応している必要があります。

MAC+PHY内蔵デバイス

 

 MCUにMACが無い場合、SPI接続により10BASE-T1Sネットワークへ接続。

 このSPIは、Open Allianceが規定した自動車向け仕様です。

デジタル部のみをMCU側へ移したトランシーバー

 

 Analog PHYは別途搭載し、Open Alliance規定の3ピンインターフェースを使用。

 従来のCANに近い構成となります。

リモートコントローラー

 

 便宜上この名称を使用していますが、実際は各メーカーで異なる製品名です。

 MCU不要で、上位ECU(Zone ECUまたはCentral ECU)からのEthernetフレーム経由のコマンドにより、センサ、アクチュエータ、オーディオ等の制御を実現します。

 この用途向けプロトコルの標準化はOpen Allianceで議論中です。

車載ネットワークのセキュリティ対策

 

 自動車の電子制御システムが高度化するにつれ、車載ネットワークのセキュリティリスクも増加しています。そこで注目されるのが、IEEE 802.1AE (MACsec)IEEE 802.1X(MKA)です。OPEN ALLIANCE TC17で車載ネットワーク向けのMACSecプロファイルを策定中です。従って、現時点ではIEEEで標準化済みの従来MACSecを使用する事になります。


・ IEEE 802.1AE (MACsec)

 MACsec(Media Access Control Security)は、データリンク層(Layer 2)で動作するセキュリティ規格です。

 Ethernetフレームにセキュリティタグを追加し、GCM-AES-128やGCM-AES-256などの暗号スイートで暗号化・認証を行うことで、通信の機密性、完全性、発信元認証を確保し、LAN内の盗聴や改ざんを防ぎます。


・ IEEE 802.1X(MKA)

 IEEE 802.1Xは、ネットワーク接続時のデバイス認証を行うポートベースのアクセス制御規格です。

 有線および無線LANで利用され、接続デバイスの適切な認証を保証します。この中でMKA(MACsec Key Agreement)と呼ばれる、IEEE 802.1Xで定義されたプロトコルで、MACsec通信に必要な鍵管理を使用します。

5. 10BASE-T1Sの使用例

 10BASE-T1Sが活用される具体的なアプリケーションについて4つ紹介いたします。

 


1 ライティング(Lighting)

 ヘッドランプ、リアランプ、アンビエントライト、インテリアライトのLED制御に活用。特にヘッドランプに使用されるマトリクスLEDでは、従来のCAN(最大1Mbps)では制御が困難だった数万個のLEDも、10BASE-T1Sなら制御可能。LEDを活用した高解像度のシンボル表示や動画の投影による路面照射も実現可能。


2 センサ(Sensor)

 近距離ソナーや各種環境センサなどの制御に適用可能。


3 アクチュエータ(Actuator)

 ドアウィンドウやシートモータなど、車両内のアクチュエータ制御に利用可能。


4 オーディオ(Audio)

 スピーカやマイクの音声伝送に活用でき、Ethernet AVB(Audio Video Bridging)などの標準プロトコルとも連携可能。

 ゾーンアーキテクチャの導入により、10BASE-T1Sの適用範囲はさらに広がる可能性があります

6. まとめ

 従来のEthernetは自動車の高機能化に伴う配線の複雑化や重量増加という課題に直面していました。これに対し、SPEは2本のケーブルでデータ通信と電力供給を実現し、配線の軽量化・省スペース化を推進しました。さらに、近年注目される10BASE-T1Sは、マルチドロップ接続をサポートしセンサやアクチュエータの効率的な接続を可能にする通信技術であり、車載用途から産業機器まで幅広い分野でその適用範囲が拡大しています。

 SPEや10BASE-T1Sは車両ネットワークの進化を支え、技術革新が続いています。IEEEによる規格化やセキュリティ対策の導入が進む中、燃費改善や高機能化が求められる未来のクルマづくりにおいて不可欠な存在となるでしょう。

 

 

(執筆者:馬場 貴之、編集者:安西 滉樹)

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