製品の小型化や高性能化に貢献する次世代パワーデバイス【GaN(窒化ガリウム)】
........
- 更新日
- 2024.06.03
- 公開日
- 2024.05.29
1. GaNとは
皆さんの身の回りでも、従来に比べて小型・軽量なアダプターを目にすることがあると思います。そこには高性能なGaNが使用されている可能性があります。
値段は少し高いですが、GaNを使用すると従来より小型・高性能(高出力)化を実現することが可能となります。
Si | SiC | GaN | ||
---|---|---|---|---|
物理特性 | バンドギャップ(ev) | 1.12 | 3.26 | 3.39 |
電子移動速度(cm2/Vs) | 1400 | 1000 | 900 | |
絶縁破壊電界強度(MV/cm) | 0.3 | 2.8 | 3.3 | |
バリガ性能指数 | 1 | 500 | 930 |
少し難しい話となりますが、パワー半導体に適した材料かどうかを判断する代表特性となります。
Siと比較してGaNはバンドギャップが3倍、絶縁破壊電界強度が約10倍となります。
電子の移動速度はSiに対しGaNは若干劣りますが、バリガ性能指数(シリコンに対する半導体物質の性能を現す数値)で比較すると、絶縁破壊強度が3乗で影響するため、シリコン(Si)が1とした場合、SiCが500、GaNが930となり特性は大幅に良くなります。
つまり、理論上同じ耐圧の場合、1/930のオン抵抗にすることが可能となります。
2. GaNの市場性
その様な市場ニーズの高まりや、市場での実績などの展開により、使用するアプリケーションや数量が増え、GaNのマーケットは急速に拡大しています。
3. 製品進化に求められるパワーデバイスの特性
性能が良いため、GX(グリーントランスフォーメーション)、EV化など小型化や高性能化が求められるアプリケーションの電源・インバータのKey部品としてGaNなどの次世代半導体は注目されています。
使いこなしに知識は必要ですが、GaNは高速スイッチング・高耐圧の特徴を持つため、使用して、特性を生かす設計をすることにより製品の小型化・高性能化が実現できます。
小型・高性能な電源・インバータを実現するために必要な特性
要求特性 | 製品設計における効果 |
---|---|
動作速度の高速化 | 高速スイッチング動作によるコイル・トランスの小型化 |
高耐圧での耐久性 | 高電圧化による配線面積低減などによる小型化 |
低電力損失化 | 低損失化による放熱部品(筐体・ヒートシンク)の小型化 |
4. SiとSiCとGaNの適用範囲
GaNデバイスは高速なスイッチング特性に特徴があるため、スイッチング電源などの小型、高周波用途で有利な特性となります。
横軸は動作周波数、縦軸は電力容量です。Siは従来から使用されている半導体となり、幅広い領域で使用されています。次世代半導体であるSiCとGaNはそれぞれの優位性に合わせ使い分けがされており、より高電力側(上側)ではSiC、より高周波数(右側)ではGaNが使用されています。
5. カーボンニュートラルとGaN
将来的なGaNの活用先として、カーボンニュートラル実現に向けたインバータ・コンバータなどへの展開や省エネ、電動化、自然エネルギー分野への活用などパワエレ技術として、様々な分野で活用・検討されています。
6. GaNを使用した設計の注意事項
GaNを使用した設計については注意するべきPOINTがあります。
パワーMOSFETのように動作しますが、Si⇒GaNへの置き換えだけでは、GaNの特性を生かした小型・高性能な設計にはなりません。 電源・インバータの小型・高性能化を実現するためには「スイッチング周波数を上げる」もしくは「低損失にする」必要があります。GaNは高速スイッチングと低損失が可能なデバイスなので小型・高性能を実現出来る可能性は十分あります。しかしながら高周波スイッチングや小型化設計は、ノイズや不安定動作とのトレードオフの関係にあるため、設計については注意が必要です。
具体的には基本的な所としては、基板設計時のレイアウトやパターンニングが非常に重要であり、寄生インダクタンスを最小限に抑え、電圧ループと電流ループを分ける設計が必要です。その他特性を生かした小型高効率な設計を行うには、最適な周波数設定、周辺部品(インダクタ・トランス、コンデンサ)の最適化、機構・放熱構造の小型化など組み合わせる必要があります。
7. まとめ
次世代半導体市場ではSiCが車載分野を中心に市場が拡大していますが、GaNも大手半導体サプライヤが専業メーカを買収したりと、今後を見据え投資している状況があるなど動きが活発化しています。
市場動向としては、AIなどのデータ量増大によりデータセンターの電力量増大などが懸念されるなど社会課題に応える次世代パワー半導体の領域は拡大しています。皆さんのお役に立てるような最新動向を今後もご紹介していきますのでよろしくお願い致します。
(執筆者:森田 文彦、編集者:信田 正人)