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【SiCパワー半導体とは】大電力製品の小型・軽量化に向けて

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  • 更新日
  • 2024.04.25
  • 公開日
  • 2024.03.15

 パワー半導体は、電気を動力源とする機器や発電インフラなどの大電力制御を行う回路で使用されます。脱炭素化に向けて省エネ性能や発電効率を高めるため、パワー半導体は"新素材の採用"という大きな転換期を迎えています。本記事では、新素材を代表するSiC(シリコンカーバイト)を用いたパワー半導体の特長や活用例を紹介します。

1.パワー半導体の性能向上

1.求められる性能

 更なる大電力化への対応や省エネ性能の改善のためには、パワー半導体の性能向上が不可欠です。パワー半導体の主な性能指標は、高電圧での耐久性・動作速度・電力損失に大別されます。大電力を扱う回路では、下表のような効果を得るために重要な性能です。

パワー半導体
性能指標
回路設計における効果
高電圧での耐久性 大電力を高電圧で供給することにより、配線の太さの増大を防ぎます。
動作速度 スイッチング動作の高速化により、コイル等の周辺部品の大型化を防ぎます。
電力損失 パワー半導体デバイス自体の損失低減により、発熱が低減し省エネ性能を向上します。

 脱炭素への取り組みを加速するため、パワー半導体の各性能の向上が求められています。

2.SiC(シリコンカーバイト)への期待

 パワー半導体の材料には、従来Si(シリコン)が一般的に使用されています。Siが用いられたパワー半導体Si-MOSFETは、耐圧を高めるとオン抵抗(通電時の抵抗)が悪化する課題があります。MOSFETに対してIGBTは、高耐圧で大電流を流した際のオン抵抗が優れていますが、スイッチング特性が悪く30kHz程度の動作速度までしか対応できません。どちらのトランジスタも特性の改善が行われてきましたが、近年ではSiの物性的限界に近づいていると言われ、今後の大幅な改善は難しいとされています。

 そのようなSiの物性的限界を突破できる材料として注目されたのが、SiC(シリコンカーバイト)です。SiCパワー半導体は、高耐圧で大電流を流した際のオン抵抗が優れ、同時にスイッチング特性も優れているため動作速度の向上も達成できます。SiCの優れた特性を活かして、SiCパワー半導体は各分野での採用拡大が見込まれています。

(出展)国立研究開発法人科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター
「次世代半導体デバイスの技術開発課題と展望」より弊社グラフ作成

 情報通信分野では、使用電力が年々増大しているデータセンタのサーバやUPS機器での採用が進んでいます。自動車分野では、電気自動車へのシフトに伴って走行用モータの駆動回路やバッテリ充電での活用が広がっています。

2.SiCの特性と製品へのメリット

1.SiCの物性的特長と活用領域

 SiCは、Si(ケイ素)とC(炭素)の化合物、炭化ケイ素で構成される半導体材料です。下の図は、パワー半導体の性能向上につながるSiCの特徴的な物性値を表しています。Siに比べて、それぞれ3~10倍ほど優れています。

パワー半導体用途に優れるSiC物性値

【バンドギャップ】
 SiCは、Siに比べて約3倍の大きなバンドギャップを持っています。バンドギャップの大きさは、後述の「熱伝導率」や「絶縁破壊強度」を向上させます。また、高温時の安定動作にも貢献します。

【熱伝導率】
 熱伝導率もSiに比べて3倍ほど大きいです。バンドギャップの高さと合わせて、高温時の安定動作に貢献します。半導体は、電流が流れる際の損失が熱になって放出されますが、その発熱がICの動作を妨げます。熱伝導率が高いことにより多くの電流を流すことができるため、放熱機構の削減につながります。

【絶縁破壊電界強度】
 SiCの絶縁破壊が起こる電界強度は、Siに比べて10倍近く高いです。MOSFETでは、ドリフト層の厚みを増やすことで耐圧を高めることができますが、一方で厚みがあるほどオン抵抗が大きくなる問題があります。SiCは絶縁破壊電界強度が高いため、ドリフト層が薄い状態でも高耐圧を実現でき、オン抵抗も小さくなります。

MOSFETとIGBTの構造

【トランジスタ構造】
 MOSFETとIGBTの等価回路を図示しました。IGBTは出力段をバイポーラTr.で構成することによって高耐圧を実現しましたが、スイッチング速度には制限が生じます。SiCのMOSFETは、SiのMOSFETと同じ構造で製造できるため、高耐圧と高速なスイッチング動作を両立できます。

 これらSiCの特長は、パワー半導体の性能を飛躍的に向上させます。従来よりも大電力をより高速に制御でき、活用領域の拡大が期待されています。
 

SiCによって拡がるパワー半導体の活用領域

2.SiCが製品に与えるメリット

 SiCの物性的特長は、製品に様々なメリットをもたらします。例えば、優れたスイッチング特性は高周波動作を可能にしますので、トランスやコイルなどの周辺部品の小型化や高効率化に貢献します。低発熱や高い熱伝導率によって放熱機構を削減できますので、SiCを用いたパワーモジュールはSiに比べて1/10程度まで小さくできると言われています。また、パワーモジュールの小型化や放熱機構の削減によって、コストダウンにつながることも期待されています。

SiC採用による製品へのメリット

3.SiCパワー半導体の注意事項

 製品へのメリットが多いSiCパワー半導体ですが、従来のSiパワー半導体とは異なる使用上の注意事項があります。この章では、MOSFETのゲート駆動電圧に関して紹介します。

 一般的なSi-MOSFETでは、ゲート電圧(VGS)が0VになるとFETがオフします。一方で、SiCの場合はFETがオンからオフに変化する際、0Vではゲートの電荷を放電しきれず、ゲート電圧(VGS)にマイナス電位の印加が必要になるデバイスがあります。データシートにあるQG-VGS特性図からQGがゼロになる電圧を確認して、ゲート駆動に適したゲートドライバを選定してください。 

QG(ゲートチャージ電荷量) - VGS(ゲート電圧)特性の模式図

3.SiCパワー半導体の活用例

 SiCパワー半導体を用いると、大電力を扱う回路を従来よりも小型・軽量で実現できます。この特長は、どのようなアプリケーションに活かせるでしょうか?
 例えば、電気自動車は走行用モータに大きな電力を使用します。一方で、車室空間確保のために制御機器の小型化、燃費の面から重量の軽減も求められます。SiCパワー半導体は、これらのニーズに全て応えることができます。走行用モータの駆動回路は「インバータ」と呼ばれ、バッテリから供給される直流電源をモータ駆動用の交流電源に変換します。 

電気自動車 走行用モータ駆動回路 SiCパワー半導体の活用

 電気自動車以外の分野でも、大電力化に伴って機器の大型化や重量化の課題は増える傾向にあると思います。SiCパワー半導体は、そのような課題を突破するひとつの武器になるでしょう。

4.まとめ

 パワー半導体メーカは、SiCを用いた製品開発を加速させています。SiCはSiに比べて半導体ウェハの製造難易度が高く、歩留まりの課題があります。今後の生産能力の安定確保のため、SiCウェハメーカを買収したり、材料の長期供給契約の締結、自社工場でのウェハ生産に向けて取り組むなどの動きが活発化しています。

 また、パワー半導体向けの新材料として、SiCのほかにもGaN(窒化ガリウム)も有力視されています。現在では用途別に棲み分けがされていますが、今後の技術開発によっては様相が変わったり、第三の新材料が出てくることもあるでしょう。大電力化や省エネ化に向けて変化が激しいパワー半導体、今後も最新動向をご紹介していきます。

(村岡、大内)



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