テスラをも凌ぐ急先鋒・BYD、成長力の秘密~「ATTO 3」分解レポート
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- 更新日
- 公開日
- 2025.06.26

2010年にBYDが最初の電気自動車(以降、EVという)を市場に投入してからわずか15年。今では10車種以上を展開し、2024年Q4にはついにテスラの販売台数を上回りました。
本記事では、何が販売台数を伸ばす要因となったのか、BYD ATTO3の分解から見る技術トレンドについてご紹介します。
INDEX
1. BYD 4年間での急成長
2003年、電池メーカとしての技術力を背景に、BYDは自動車業界への参入を果たしました。自社ブランドによる乗用車の生産は2005年に始まり、2008年には世界初の量産型プラグインハイブリッド車(PHEV)「F3DM」を発表しました。
さらに2010年にはEV「e6」をリリース。その後もBYDは多くのEVを展開し、2020年からのわずか4年間で販売台数を10倍に拡大。2024年第4四半期には、ついにテスラの販売台数を上回るという快挙を達成しました。

2020年 約 0.43 百万台
2021年 約 0.60 百万台
2022年 約 1.85 百万台
2023年 約 3.02 百万台
2024年 約 4.27 百万台
出典:Bloomberg HPから引用
2. 日本市場での展開と競争力
2025年6月現在、BYDは日本市場にも複数のEV車種を導入しています。以下は、販売中の主なモデルとそのスペックの比較です。
※電費は「1km走るのにどれだけの電力量が必要か」を示す指標で、数値が高いほど効率が良いことを意味します。
SEALION 7 | SEAL | ATTO 3 | DOLPHIN | |
---|---|---|---|---|
発売月![]() |
2024年12月 | 2022年7月 | 2022年2月 | 2021年8月 |
発売月![]() |
2025年1月 | 2024年6月 | 2023年2月 | 2023年9月 |
航続距離 | 590km (車両型式:ZAA-UKXYT) |
640km (グレード:後輪駆動) |
470km | 476km |
バッテリー容量 | 82.5kWh | 82.5kWh | 58.56kWh | 58.56kWh |
電費 (Wh/km) |
140Wh/km | 129Wh/km | 124.5Wh/km | 123Wh/km |
日本の主要なEVも同様に特性をまとめています。走行距離や電費のスペックを比較しても、BYDは他社と比べて遜色なく、コストと性能のバランスに優れていることが分かります。
bZ4X | Honda e | アリア | リーフ | |
---|---|---|---|---|
発売月 | 2022年5月 | 2020年10月 | 2022年3月 | 2010年12月 |
航続距離 | 567km (グレード:前輪駆動) |
259km | 640km | 450km |
バッテリー容量 | 71.4kWh | 35.5kWh | 91kWh | 60kWh |
電費 (Wh/km) |
125Wh/km | 137Wh/km | 142Wh/km | 133Wh/km |
3. 8-in-1 Power System Assembly
走行性能と電費は様々な要素で決まりますが、その核となるのがパワエレ系のコンポーネントとなります。BYDは様々な機能の8個の主要コンポーネントを統合しています。

世界初の量産8-in-1電動パワートレインシステムを製造し、スペース利用とエネルギー効率を大幅に最適化しています。重量は15%、体積は20%低減し、空間効率の最大化を実現しました。
4. 【分解】ATTO3パワードメインコントローラ
今回分解する、ATTO 3のパワードメインコントローラは以下の通りです。

重量:22.4kg
W:約37cm
D:約33cm
H:約16cm
コネクタなどの突起含まず
入出力ポート
蓋を開けると下図のようになっています。
最初に注目した点は、結束バンドと接着剤固定の多さです。
車載ECUといえば、生産の自動化や振動を配慮する機構設計が多い印象でしたが、BYDのパワードメインコントローラは、ある程度手作業で組み立てを行っていると考えられます。
インバータモジュール
インバータモジュールはBYD製IGBTパワーモジュール BGW820F08B14L5と同等性のものと推測され、インバータ駆動用のゲートドライバもBYD Semiconductor製が使用されています。
■特徴
Vces 750V
Ic_nom 820A(at 25℃)
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出典:BYD HPより引用
5. 分解を通して感じた印象
急成長を遂げるBYDのパワエレコンポーネントである、「パワードメインコントローラ(Inverter+OBC+BMS)」の分解を通じて得られた主な印象は以下の通りです。様々な観点で、BYDの取り組みは見習うところがあるかもしれません。
短期開発と生産性の両立
1.5年で1車種以上を開発するスピード。これは、複数機能の一体化やコンポーネントの共通化による開発期間短縮と、過剰になりすぎない柔軟な機構設計を合わせることによる生産性とのバランスによって実現されています。
垂直統合モデルによる競合力の高さ
EVの特性とコストの要であるバッテリーはBYD自社製、モータの駆動部はグループ傘下の部品供給専門企業「FinDreams Powertrain」製と言われています。さらに、モータを駆動するインバータモジュールもBYD Semiconductor製、インバータを駆動するゲートドライバもBYD Semiconductor製です。
このように主要部品をグループ会社で完結させることで「技術力」と「コスト力」と「生産力」を高いレベルで確保し、競争力を強化しています。
6. 【秋葉原で開催】さわれる分解サミットのご案内
(執筆者:信田 正人、編集者:安田 朋史)