アートワークの知見がなくても大丈夫!基礎から学べる基板設計フロー
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- 更新日
- 公開日
- 2025.08.22

「回路図通りにパターンを引いたつもりなのに、部品配置からまた見直し…」そんな経験ありませんか?そうした手戻りの多くは、回路設計者とアートワーク(以下、AWと略す)設計者の間で意図が正しく伝わらない場合に起こります。本記事では、AW設計の初心者に向けてAWの工程や注意点について解説します。また回路設計者でAW設計の知見がない方もAW設計者の視点で学んでいただけます。
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1. プリント基板設計におけるAW設計の位置付け
AW設計とは?
AW設計とは、主に製造業や電子機器の分野で使われる用語で、製品の外観や印刷物、ラベル、パッケージなどに関する設計作業を指します。
プリント基板におけるAW設計とは、電子回路の設計をもとに、実際に基板上に配線パターンや部品配置を設計する工程のことです。これは、電子機器の性能や信頼性に直結する非常に重要な工程です。
製品開発の流れとAW設計の位置付け

製品の開発は、まず仕様検討から始まり、製品仕様書が作成されます。次に仕様書をもとにハードウェアの制御回路を設計し、回路図や部品表が作成されます。並行して構造設計とデザインも進み、基板図面やデザイン画が生まれます。これらを元にケースやフレームの図面が作成されます。ソフトウェアも同時に開発され、スイッチパネル操作、表示形式、動作モード、安全機能などのプログラミングが進みます。
ハードウェア設計の成果物(回路図、部品表)と構造設計の基板図面を使ってAW設計が始まります。高速信号線がある場合はシミュレーションを行い、設計が完了すると成果物(ガーバーデータ、メタルマスクデータ、部品座標データ)が生成されます。
これらを用いて基板製造、部品実装用の治具作成が行われ、最終的に基板への部品実装が行われます。同時に筐体やフレームの製造も進み、それらを組み合わせて製品の組み立てが行われます。ソフトウェアを組み込んで実機デバッグを行い、機能評価、環境試験、認証取得を経て製品が完成します。
2. プリント基板の構造と基本的な用語解説
基本的な用語解説
まずはAW設計時に知っておきたい、基本的な用語について解説いたします。
・プリント基板(Printed Circuit Board、PCB):電子部品を組み付け接続するためのボード ・ガーバーデータ(Gerber data):基板製造用の電子データの形式 ・ネットリスト(Netlist):回路設計における接続情報を記載したリスト ・DRC(Design Rule Check):設計ルールチェックツール、または設計ルールをチェックすること ・ドリルデータ(Drill data):基板の穴あけ位置、サイズ、種類を指定するデータ ・スルーホール(Through-Hole):PCBの一方から他方へ通じる穴で、層間を電気的に接続するための穴 |

スルーホールとノンスルーホール
スルーホールは、ドリルの壁面に銅メッキを施してあるものを指します。
一方で、ノンスルーホールはドリルの壁面に銅メッキが施されていないものを指します。表面に銅箔のランドがある場合でも、内部にメッキがなければノンスルーホールとなります。
プリント基板の基本構造

プリント基板の層数には、片面、両面、4層、6層といった構成から、数十層に及ぶものまでさまざまあります。特殊な奇数層の基板も存在しますが、ここでは基本構造が理解しやすい4層基板を例に説明します。
多層基板はミルフィーユのような構造をしており、中心にはコア材(硬化済みの絶縁材料)があり、その両面に銅箔が貼られています。この銅箔に対してパターニング(配線形成)を行い、層間の接着と絶縁のためにプリプレグと呼ばれる未硬化の絶縁材を使用します。
最外層(L1およびL4)は、熱と圧力を加えて圧着され、最終的には外側にレジスト(絶縁およびハンダ付け防止のための保護膜)が塗布されます。

各部の名称
・レジスト(Resist):ハンダが付かないようにするとともに、絶縁の目的で塗布される保護膜 ・フットプリント(Footprint):PCB上に部品を実装するためのパターンまたは図面 ・シルク(Silkscreen):部品番号、ピン番号、信号名、製品名などを表記するための印刷 ・ビア(Via):スルーホールの一種で、特に信号線や電源を接続するための穴 |
3. AW設計フローと必要な資料
AW設計は以下の8つの流れで進められます。

- 設計:設計仕様書(材料、層数、サイズ、規格類)、部品表、回路図、ネットリスト、物理情報(基板図、規制図、高さ制限)などの資料が準備される
- 部品登録:部品表をもとに部品情報を登録(部品表は「神様」と言われるほど重要)
- 外形作成:物理情報をもとに基板外形を作成(形状や禁止領域が途中で変更されるとスケジュールに大きな影響が出る)
- ネットリスト取り込み:回路図の接続情報を設計ツールに反映し、部品配置や動作シミュレーションを正確に行うための重要な工程
- 部品配置:AW設計の肝と言われる工程、最近はこの段階で依頼元とウェブ会議でレビューを行うことが多い
- 配線:承認を得た部品配置をもとに配線パターンを作成、必要に応じてシミュレーション実施
- 製造性確認:基板製造で問題が発生しないかチェック
- ガーバーデータ出力:完成したデータを出力
AW設計ツールのイメージ
主なシミュレーション
プリント基板設計でシミュレーションを行わないと、信号反射やノイズ、電源の不安定、過熱、電磁ノイズなどの問題が発生し、誤動作や規格不適合につながります。結果として試作や修正が増え、コストや開発期間が大幅に膨らむリスクがあります。事前のシミュレーションは、これらの問題を未然に防ぎ、設計の品質と効率を高めるために不可欠です。
シミュレーションには主に4つの種類があります。
- SIシミュレーション(信号品質):信号配線評価、部品点数の検討、LSIドライブ能力や波形検討
- PIシミュレーション(電源品質):電源配線、配線幅・配線長、電圧降下、LSI周辺のパスコン評価、削減検討、コストダウン検討
- EMCシミュレーション(ノイズに対する品質):EMC品質向上、プレーン共振シミュレーション、EMIチェック、ノイズ対策部品の検討
- 熱シミュレーション(熱に対する品質):発熱部品の配置、放熱基板、アルミ基板等の材料、ヒートシンク等の検討
4.AW設計の注意点
この章ではAW設計において、配置配線と製造歩留まりの観点から、注意が必要な点について解説いたします。
配置配線関連
バイパスコンデンサ(以下、パスコンと略す)はICの電源端子の近くに配置し、ノイズ成分をグランド側に逃がすとともに電圧変動を緩和する役割があります。ICとパスコンを離して配置すると効果が薄れるため、IC1個につきパスコン1個を近接配置することが適切です。
また、配置だけでなく接続方法も重要です。電源からICの電源ピンへの接続は、必ずパスコンを通してノイズを除去するルートにします。電源供給のビアからパスコンを通さずに直接ICの電源ピンに接続すると、ノイズがICに入ってしまいます。

水晶振動子や発振器の周辺、特にその下には配線を通さないことが鉄則です。これは発振系に限らず、高速メモリのデータ・アドレス線、表示系、モータ、FETの制御線、PWM信号など、オンオフが激しく変化する信号についても同様の配慮が必要です。

製造歩留まり関連
パターンコーナーについて基本は45度曲げ、高周波関連はR曲げが望ましく、直角は禁止です。直角のコーナーは断線リスクが高く、高周波特性も悪化します。一方で、適切に処理されたコーナーは断線リスクが小さく、高周波特性も良好です。
T分岐をする場合は、角の部分が断線しやすいため、肉付けを行います。T分岐自体はあまり望ましくありませんが、やむを得ない場合は適切な処理が必要です。

パターンに急な曲がりがあると、製造時にパターン断線が発生するリスクが高まります。特にコネクタ部などは抜き差しの際に応力がかかるため、使用時の故障の原因となります。そのため、配線を端子から直接出す代わりに、斜めにして肉付けを行うことを推奨します。また、基本的にはティアドロップやフィレットの生成モードで作業することをおすすめします。

レジストの残り幅(レジスト開口部の間に残るレジスト)は0.1mmを基準とします。シルクについては、文字高さ最小1.2mm、線幅0.2mmを基準とします。ただし、条件によってミニマム値は変わることがあるため、確認が必要です。

基板端面とパターンの距離は0.5mmを基準とします。条件によって狭める方法もありますが、基本的には0.5mmを確保します。
LS(Line and Space、線幅と間隔)は0.1/0.1mmを基本とします。これ以下の設定が必要な場合は、エリアを限定することで製造性向上、コストダウン、経年劣化リスクの低減につながります。

5.まとめ
AWとプリント基板製造は、PCの中で設計された論理回路から、実際に手に取れる現物を作り出す作業です。正解と間違いが見えにくい設計作業であり、以下の点に注意が必要です。
- 銅箔パターン幅が基準より細くても動作には大きな影響はないが、経年劣化のリスクは上がる
- ノイズ対策は部品配置やパターンデザインなど複雑な要素が影響する
製造基準に対して余裕を持った設計を行うことでコストを削減できるが、設計期間とのトレードオフとなることが多く、落とし所の見極めが難しいです。AW設計者のスキルによって、見た目ではわかりにくいが、仕上がりの品質や性能に大きな差が出ることを認識しておくことが重要です。
(編集者:安西滉樹)