【注目技術解説】チップレット〜ASRAも推進する、半導体の次なる製造技術
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- 更新日
- 公開日
- 2025.06.30

微細加工技術の限界が見え始める中、チップレット技術が新たな解決策として注目を集めています。異なる製造プロセスで作られた複数のチップを組み合わせることで、コストを抑えながら高性能化を実現することが可能です。
今回の記事では注目のチップレット技術について、詳しく解説していきます。
1.注目の半導体技術チップレットとは?(メリット・デメリット)
チップレットとは、従来の大規模な半導体チップを複数の小さなチップに分割し、それらを組み合わせて1つの機能を構築する技術のことを指します。このアプローチにより、従来のモノリシックな設計では達成が難しかった効率性と柔軟性を実現します。
チップレットとモノリシックの違い

モノリシックとは、1つの大規模なチップ内にすべての回路や機能を集約する設計手法を指します。この方法では高度な集積化を実現できますが、製造の難易度が非常に高く、大きなチップほど不良品が生じやすいという課題があります。また、機能追加や設計変更への柔軟性が低く、開発期間やコストの増加につながる場合もあります。
チップレット技術は、機能を小さなブロック単位に分割し、それらを組み合わせて全体を構築する点が最大の特長です。このアプローチにより、個別のチップレットを異なるプロセスで製造することが可能となり、それぞれの役割に応じた最適化が行えます。また、標準仕様であるUCIe(Universal Chiplet Interconnect Express)のようなインターフェースにより、異なるメーカーのチップレットを組み合わせることも視野に入れられています。この汎用性は、モノリシック設計では得られない大きな利点です。
チップレットのメリット・デメリット
【メリット】
1. 歩留まり向上
- 小さなチップレットは欠陥の影響を受ける確率が低くなる為、歩留まりが向上し、コストを抑えられます。
2. 設計の柔軟性
- 異なるプロセスのチップレットを組み合わせることが可能で、最適な機能を選択した設計ができます。
3. 小型化と高性能化
- 3次元(3D)積層技術を使用することで、コンパクトで高性能なパッケージ設計が可能になります。
【デメリット】
1. インターコネクトの課題
- チップレット間の通信には高速・低遅延なインターコネクト技術が必要で、設計が複雑になります。
2. パッケージング技術の高度化
- 高密度な接続を実現するために、先進的なパッケージングが必要で、コストや技術的ハードルが上がります。
3. 熱設計の複雑化
- 複数のチップが密集するため、熱の分散や冷却が難しくなることがあります。
2.自動車産業における半導体技術の活用
自動車には1台あたり1000個程度の半導体が使われており、半導体の種類も用途によって様々です。その中でもSoCは、高度な演算処理能力を達成するために最先端の半導体技術が必要とされ、自動車における自動運転技術やマルチメディアシステム等で必須の半導体です。このような背景から特にチップレット技術が注目されており、効率的なシステム構築や性能向上を実現する基盤として期待されています。
- 「自動車用先端 SoC 技術研究組合」(Advanced SoC Research for Automotive/以下、ASRA)
車載システムを支えるチップレット
車載システムでは、高い信頼性と効率的な動作が求められます。従来のモノリシックなSoC設計では、単一の製造プロセスに依存していたため、性能とコストのバランスが課題でした。
しかし、チップレット技術を使用することで、異なるプロセス技術を活用した最適な組み合わせが可能になります。これにより、熱管理や消費電力の面でも効率化が進み、高性能かつ低コストな車載システムが実現可能で、EV市場の多様なニーズの対応も期待できます。また、UCIeなどの標準仕様により、異なるメーカーのチップレットを組み合わせることで、柔軟性の高い設計が可能になる点も大きなメリットです。
半導体メーカ | チップレットに関する状況 |
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ルネサスエレクトロニクス | 車載SoCのチップレット適用を発表。27年頃のSDVへの搭載を目指す。 |
ソシオネクスト | 2nmプロセスのCPUチップレットの設計に着手。開発にあたってはTSMCやARMと協業。 |
日本ケイデンス・デザイン・システムズ | AIと3D-ICチップ設計の強化の為、サムスンファウンダリと協業。Armと協業して自動車用チップレットエコシステムを加速。 |
日本シノプシス | EDA(電子設計自動化)ツールを使い、高性能な半導体デザインの開発支援を行う。 |
ミライズテクノロジーズ | 先端システム技術研究組合に参画しチップレット研究を進めている。 |
経済産業省を中心に進められている次世代半導体開発にも、このチップレット技術が大きな役割を果たしています。市場全体の需要が増加する中で技術の課題に対応し、新しい設計思想を持つチップレットは、自動車分野のみならず人工知能(AI)分野など多岐にわたる産業への波及が予想されます。
3.ASRAの目標と国の方針
半導体技術を巡って、日本政府およびASRAは国内外の競争力強化を目指しています。ASRAは日本の自動車業界が中心となって設立した団体で、安全運転支援や自動運転技術の研究開発を共同で推進しています。ASRAの目標は、日本の自動車産業が自動運転や電動化に対応するための半導体(SoC)技術を国内で自立的に開発・製造できる体制を整えることです。経済産業省では2024年3月、ASRAに対し、車載向け先端半導体開発プロジェクトへの支援として約10億円の補助金を正式に発表しました。
これまでの成果
・自動車の自動運転や電動化に対応するため、ASRAは車載チップレットSoCの要件を定義
・7つの技術課題(以下画像の赤にハイライトされている部分)を特定し、対応方針、開発計画を導出
今後の計画
・車載チップレットSoCの構造やダイ間通信等を検証するための試作を経て、2028年度までに技術開発完了を目指す
・車載用チップ間通信仕様の国際標準化を目指す
4.まとめ
自動運転時代を支える車載チップレットSoCは、技術的にも産業構造的にも「国として取り組むべきテーマ」となっております。ASRAを中心としたこの国家レベルのプロジェクトは、日本の自動車産業と半導体産業をつなぐ新しい挑戦であり、成功すればグローバルな競争力を大きく高める可能性があります。
先程の計画にもあるように今後ASRAは、2028年までにチップレット技術を確立し、2030年以降の量産車へSoCを搭載することを目指しており、この技術が未来の産業基盤を支える切り札となる可能性を秘めています。
(執筆者:澁澤 義隆、編集者:安西 滉樹)