電源ICとは?基本知識/種類や役割についても解説
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- 更新日
- 公開日
- 2024.08.30
電源IC(Integrated Circuit)は、現代の電子機器において不可欠な要素です。スマートフォンや自動車、産業機器まで、あらゆるデバイスに電力を供給し、効率的かつ安定した動作を支えています。本記事では、電源ICの基本的な役割と機能について詳しく解説します。電源ICについて学習中の方や、選定に迷っている方はぜひ参考にしてください。
電源ICとは?基本の定義と機能
電源ICとは、電子機器において電力を管理・制御するための集積回路のことで「電圧の変換、安定化、電流の制限など」の機能が集約されています。これらの機能によって、電気製品に安定した電力供給を行います。また、電源ICの選定では、「効率」「損失」という単語がキーワードになります。特に損失は熱として放出されるため、損失が大きくなると発熱も大きくなります。電源回路の性能にも影響する重要な指標のため注意が必要です。
電源ICの種類
電源ICの種類は大きく分けてリニアレギュレータとスイッチングレギュレータの2種類です。
本記事では、電源ICの基本的な動作説明のため、リニアレギュレータから「LDO」、スイッチングレギュレータから「DCDCコンバータ(降圧型、昇圧型)」を例に説明します。LDOとDCDCコンバータの特性は下記の表を参照してください。
リニアレギュレータ(LDO) | スイッチングレギュレータ(DCDCコンバータ) | |
---|---|---|
変換動作 | 降圧のみ | 降圧、昇圧 |
効率 | △ | ○ |
発熱 | △ | ○ |
負荷電流 | △ | ○ |
出力ノイズ | ◎ | ○ |
回路設計 | ◎ | ○ |
コスト | ◎ | ○ |
例)外付け部品点数 | 2点 | 14点 |
特性から、LDOはノイズや部品構成、面積の面でメリットがあるといえます。効率や発熱はDCDCコンバータが有利になっていますが、設計される回路の条件(効率、面積、価格など)を総合的に判断して検討が必要です。
リニアレギュレータ(LDO)
リニアレギュレータは特定の電圧範囲で入力と出力の関係が線型、つまりリニアに動作することから『リニアレギュレータ』と呼ばれます。回路は「内部の基準電圧」と「出力電圧を比較するアンプ」、「出力トランジスタ」から構成されています。入力と出力の間に制御素子となるトランジスタが直列に入っていることから 『シリーズレギュレータ』 とも呼ばれます。下記はリニアレギュレータを簡略化したものです。
その中でも特に入力電圧と出力電圧の差が小さくても動作できる電源をLDO(ロードロップアウト)と呼びます。最近ではLDOが主流になっており「リニア」「シリーズ」レギュレータとLDOが同じ意味として会話されることもあります。
スイッチングレギュレータ(DCDCコンバータ)
スイッチングレギュレータは、スイッチング素子が2つ、コイル(インダクタとも言いますが)とコンデンサで構成されています。スイッチ部分はFETやダイオードを使用しますが、電源ICに内蔵されていたり、外付けであったりと、目的や特性によって構成は変化しますが、スイッチングレギュレータには、これらの外付け部品が必須となります。
さらに、コイルとコンデンサ、スイッチの配置を変えることにより「降圧」「昇圧」といった動作ができます。ここには示しておりませんが、昇降圧、反転といった回路もあります。
DCDCコンバータ(降圧動作)
入力電圧(Vin)に対しSW1とSW2を制御し、ONとOFFを交互に切り替えてパルス波形を作ります。その波形をコイルとコンデンサで構成したフィルタ(ローパスフィルタ)で平滑化、つまり平らにならすことで出力側に一定した電圧を作り出すしくみとなっています。
出力電圧はSW1がONしている時間の電力を平滑化しますので、SW1がONする時間、比率が高い程高くなり、比率が低いと低くなるというように、ON/OFFの比率で決まります。つまり全体の時間のうち、どれだけONしているかデューティー比をコントロールすることで、電圧を調整しています。(※これを示した式が下記になります。)
今までの説明から、SW1がOFFの間はどこから電流が流れるのか疑問ではありませんか?入力側から、電圧と電流を供給している期間は、SW1がON時のみです。OFF時はどこから電圧と電流が供給されるのでしょうか?このとき、電流供給のルートを作る役目を担っているのがコイルとSW2です。コイルには電力、エネルギーの「蓄積と放出」というDCDC スイッチングレギュレータにとって大変に重要な役割があります。
これらの動作は電源ICによって制御されています。 もちろん、実際の回路ではさらに複雑な制御や補助回路が必要ですが基本的な原理はこのようになっておりDCDCコンバータはコイルを使って電力を変換する回路といえます。下記の1~2を繰り返して降圧動作を実施しています。
- SW1をON、SW2をOFFにするとVinからコイルを経由して、出力側に接続されている負荷に電流が供給されます。この時コイルに流れた電流を磁気エネルギーとして蓄積します。
- SW1をOFF、SW2をONにするとコイルは電流を流し続けようとして蓄積したエネルギーを電流として出力側に放出します。この電流によって、SW1がOFF時にも出力側に電流が供給されます。
※SW2はこの時の電流のループを作る役割があり、SW1とSW2のタイミングが適切ではなかった場合、回路の効率が悪くなったり、電源とGND間に過剰な電流が流れたりと問題が発生します。
降圧では、まずONとOFFの比率、つまりデューティー比によって決まり平滑化することにより電圧を作ります。仮に変換の効率を100%とすると、入力の電力は、電圧が下がった分、電流を多く取れることになりますので、電力の変換を行っていると、イメージしてください。
DCDCコンバータ(昇圧動作)
コイルのエネルギーの蓄積/放出という働きは変わりません。
イメージとしては、コンデンサにコイルからバケツリレーのようにエネルギーを押し込んで上積みしているような感じといえます。(※これを示した式が下記になります。)
コイルとスイッチの位置関係が降圧電源と異なっていることに注目ください。
- SW1をON、SW2をOFFにします。入力側(Vin)からコイルを経由して、GNDへの電流が徐々に増加します。コイルに電流が流れることで、エネルギーが蓄積されます。
- 次にSW1をOFF、SW2をONにします。SW1をOFF にしてもコイルは電流を流し続けようとするため、蓄積したエネルギーを電流として放出することになります。
この電流によって出力コンデンサが充電され出力電圧は上昇しますので、スイッチを交互に切換えることで出力電圧Voutがさらに上昇していきます。 昇圧のイメージをまとめると、ONとOFFの比率、つまりデューティー比によって決まり、平滑化することにより電圧が決まることは同じです。ですが、コイルにエネルギーをためたエネルギーをコンデンサへ供給するタイミングが異なりますので、降圧の場合と出力電圧の計算が異なることにご注意ください。
SW1がONしている時間にコイルにエネルギーを蓄積し、OFF時にコンデンサに供給しますので、ON時間が長い分電圧を上げるという関係になります。仮に変換の効率を100%とすると、入力の電力は、出力の電圧が上がった分、負荷に流せる電流は反比例して小さくなります。さらに効率を考えますと、昇圧を行った際、意外と電流が取れないというケースも、結構ありますのでご注意ください。
パワー半導体(スイッチング素子):内蔵と外付けの違いは?
パワー半導体は、電力の変換や制御を行うための重要なデバイスで、高電圧や高電流を扱う際に必要不可欠です。DCDCコンバータ(降圧構成)では、スイッチング素子(FET)としてパワー半導体が使用されています。
一般的に電圧が5V~24Vの範囲であれば、左図のように電源ICにスイッチング素子(FET)が内蔵されている場合が多く、電源IC(FET内蔵)の選択肢も豊富です。しかし、扱う電圧が24Vを超えると右図のように電源ICは制御回路とスイッチング素子が分離されている構成が一般的です。スイッチング素子を分離することで、高い電力負荷にも対応可能になります。これらの構成は、高い電力負荷による発熱や回路サイズなどを考慮しながら設計する必要があります。
電源ICの役割は?必要な理由
電源ICは、電気を動力源とするものに電力を供給することが役割です。安定した電力供給は、電気回路および製品の安定した動作につながります。コンセントを使って動く製品をイメージして、中の基板までの電源変換を例に説明します。
まずコンセントの交流電源から、AC/DC電源で直流に変換します。この変換後の電圧は電圧が高かったり、スイッチングノイズが多かったりと、基板上のICに必要な電圧や精度を満たしていないことがほとんどです。ここからさらに電圧を変えたり、精度を高めます。
また、これらの機器はコンセントやバッテリーから電力を与えればそのまま動く、というわけではありません。機器に搭載されている回路や部品がそれぞれに必要とする電圧に変換する必要があります。この変換、制御を行うのが電源ICです。
電源ICは何に使用されている?身近なものを例に紹介
電源ICは、各機器の効率、性能、信頼性に直結しています。そのため、電源ICの選択や設計は、非常に重要です。
パソコン/スマートフォン
パソコンやスマートフォンでは、電源ICがバッテリーから供給される電力を効率的に管理し、各部品に適切な電圧を供給するために使用されます。これには、CPUやメモリ、ディスプレイ、通信モジュールなどが含まれます。電源ICは、昇圧、降圧、およびリニアレギュレータなどの機能を持ち、デバイス全体の省電力化や熱管理にも寄与しています。
デジタルカメラ
デジタルカメラでは、センサ、プロセッサ、メモリカード、ディスプレイ、レンズモータなどの各コンポーネントが電源ICによって制御されています。特に、電源ICは高精度な電圧管理を行い、ノイズを最小限に抑えることで、センサやプロセッサの性能を最大化します。また、撮影中のバッテリー寿命の延長にも貢献しています。
ゲーム機
ゲーム機では、プロセッサ、グラフィックスチップ、メモリ、ストレージなどに異なる電圧が必要です。電源ICはこれらを効率的に管理し、特に高性能なグラフィックス処理を行うための電力供給を最適化します。また、ゲームプレイ中に発生する熱を抑えるため、電源ICは熱管理にも重要な役割を果たします。
OA機器
OA機器(例:プリンタ、コピー機)では、制御基板、通信モジュール、ディスプレイ、モータなどが含まれており、それぞれ異なる電圧を必要とします。電源ICはこれらのコンポーネントに対して安定した電力供給を行い、デバイスの動作を安定させるだけでなく、省電力モードへの切り替えなどの電力管理も行います。
LED照明
LED照明では、電源ICがAC電源をDCに変換し、LEDチップに適切な電流と電圧を供給します。また、調光機能や電源効率を向上させるため、電源ICは様々な制御機能を持っています。LED照明は非常に低消費電力で動作するため、電源ICは高効率であることが求められます。
自動車
自動車では、エンジン制御ユニット(ECU)、インフォテインメントシステム、センサ、電動モータ、LEDライトなど、多くの電子システムが電源ICによって制御されています。自動車用電源ICは、過酷な温度条件や電圧変動に耐える必要があり、また電動車ではバッテリー管理システム(BMS)にも重要な役割を果たします。安全性や信頼性が非常に重要であるため、冗長性や保護機能が強化されています。
まとめ
電源ICは、低電力の家庭用機器から高電力の産業用機器に至るまで、幅広い分野で使用されています。電源ICの選択は、システム全体の性能や信頼性に直結するため、慎重に行う必要があります。電源ICの選択肢も増えていますが、最適な選択ができるようになりましょう。
(執筆者:杉原司、編集者:古澤禎崇)