現実世界を仮想空間で再現!デジタルツインの特徴や活用事例とは
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- 更新日
- 公開日
- 2025.06.27

もし、現実世界に"デジタルの分身"がいたら――。
そんなSFのような話が、すでに現実の技術として存在しています。それが「デジタルツイン」です。生産ラインの最適化から都市づくり、さらには医療の未来まで、さまざまな場面で活用が進んでいます。
本記事では、デジタルツインの基本的な概念から具体的な導入による可能性と課題、実際の活用事例まで解説します。
INDEX
1. デジタルツインの基本概念と仕組み
1-1. デジタルツインとは
デジタルツインとは、現実世界のモノや設備を仮想空間に再現し、リアルタイムで状態を反映・同期させる技術です。
たとえば、工場の設備に取り付けたIoTセンサから温度・圧力・振動などのデータを取得し、それを基に仮想空間に「デジタルのコピー」を構築します。仮想空間では、現実と同じように設備が動作し、不具合の兆候なども反映されるため、問題の予兆を早期に察知し、対策を講じることが可能です。
このようなデジタルツインは、AIや機械学習によるデータ分析・予測、リアルタイム通信、クラウドによる大量データ処理、AR/VRによる可視化といった先端技術の組み合わせによって実現されています。
従来のCADや設計図のような静的なモデルとは異なり、デジタルツインは現実と連動しながら絶えず変化する「生きたモデル」として機能します。これにより、設備の監視や最適化、運用効率の向上など、多様な活用が可能になります。

総務省によるデジタルツインの定義
総務省はデジタルツインを以下のように定義しています。
デジタルツイン(Digital Twin)とは、現実世界から集めたデータを基にデジタルな仮想空間上に双子(ツイン)を構築し、さまざまなシミュレーションを行う技術である。街や自動車、人、製品・機器などをデジタルツインで再現することによって、渋滞予測や人々の行動シミュレーション、製造現場の監視、耐用テストなど現実空間では繰り返し実施しづらいテストを仮想空間上で何度もシミュレーションすることができるようになる。
この定義で注目すべきポイントは、「現実世界から集めたデータを基に」という部分です。これは、単なるCGモデルや設計図と異なり、センサなどから得られるリアルタイムのデータが中核になっていることを示しています。
また、「繰り返し実施しづらいテスト」への対応ができる点も、デジタルツインの大きな強みです。コストや安全性の問題から現実では難しい検証も、仮想空間でなら何度でもシミュレーションが可能です。
1-2. 混同しやすい技術とその違い
デジタルツインをより正しく理解するためには、他の似た概念との違いを把握しておくことが大切です。ここでは、しばしば混同されやすい「メタバース」と「シミュレーション」との違いについて整理します。
デジタルツインとメタバースの違い
比較項目 | デジタルツイン | メタバース |
---|---|---|
目的 | 現実世界の再現・分析・最適化 | 仮想世界でのコミュニケーション・エンターテイメント |
データ連携 | 現実のセンサデータとリアルタイムに同期 | 現実データとの連携は限定的 |
活用分野 | 製造業、インフラ、医療など産業分野 | ゲーム、SNS、バーチャルイベントなど |
技術的特徴 | 物理法則に基づくシミュレーションを重視 | 3DCGによる仮想空間の構築を重視 |
ユーザー体験 | データ分析や予測による意思決定の支援 | アバターを通じたソーシャル体験 |
デジタルツインとメタバースは、いずれも仮想空間を活用する技術ですが、その目的や活用分野は異なります。
デジタルツインは現実世界の物理的な対象をデジタル空間に再現し、データ分析や予測、最適化を目的とした産業用途の技術です。
一方で、メタバースは人々が交流や娯楽を楽しむための仮想的な社会空間を提供することが主目的となっています。
デジタルツインとシミュレーションの違い
比較項目 | デジタルツイン | 従来のシミュレーション |
---|---|---|
データの取得方法 | リアルタイムのセンサデータ | 過去データや仮定値 |
時間軸 | リアルタイムで継続的に更新 | 特定時点での静的分析 |
精度 | 現実と同期するため高精度 | 入力データの品質に依存 |
活用範囲 | 監視・予測・最適化・制御 | 設計検討・事前検証 |
データの更新頻度 | 連続的・自動的 | 手動・定期的 |
デジタルツインと従来のシミュレーションは、どちらも現実のモノを仮想空間に再現する技術ですが、リアルタイム性と継続性の点で大きく異なります。
従来のシミュレーションは、過去のデータや仮定値を用いて、特定の条件下で静的な分析を行うのが一般的です。
一方、デジタルツインは、リアルタイムのセンサデータを継続的に取得し、現実と同期しながら常に更新される「生きたモデル」です。そのため、デジタルツインは進行中の状態を監視したり、将来を予測したり、制御に役立てることができるという特徴があります。
1-3. デジタルツインを支える主な技術

デジタルツインは、さまざまな先端技術の連携によって実現されます。IoTセンサによって現実世界のデータが収集され、それらのデータはクラウドやオンプレミス環境に送信されて分析や処理に活用されます。AIがデータを分析して予測モデルを構築し、仮想空間での精密なシミュレーションを実現します。
さらに、エッジコンピューティングによりリアルタイム処理が高速化され、AR/VR技術によって直感的に可視化できます。これにより、実世界の状態を、仮想空間上で視覚的・直感的に把握することが可能です。
こうした複数の技術が統合されることで、現実と仮想が密接に連携したサイバーフィジカルシステム(※)が構築され、製造業におけるDX推進を支援します。
※サイバーフィジカルシステム:現実世界(フィジカル)と仮想世界(サイバー)を密接に連携させて制御・最適化するシステム
2. デジタルツイン導入の効果と課題
デジタルツインの導入は、製造業において品質向上やコスト削減など多くの効果をもたらす一方で、導入・運用についていくつかの課題も存在します。メリットと課題の両面を理解したうえで、自社にとって最適な活用方法を検討することが重要です。
2-1. デジタルツイン活用による主な効果と期待できるメリット
デジタルツインを導入・活用することで、製造現場やサービス現場においてさまざまな効果が期待されます。
項目 | 内容 |
---|---|
品質向上 | 仮想空間で繰り返しシミュレーションできるため、製品やサービスの品質が向上 |
不具合の予防 | センサデータから異常の兆候を検知し、トラブルを未然に防止 |
コスト削減 | 試作や検証の手間を削減し、開発期間とコストを削減 |
オペレーション効率化 | 設備や工程の可視化により、ボトルネックの特定や作業の平準化を通じて無駄を削減 |
メンテナンス最適化 | 故障を予測して、必要なタイミングで点検・修理を実施 |
ノウハウの蓄積 | シミュレーション結果を社内に残し、技術や知見を蓄積 |
このように、デジタルツインは品質・効率・コスト・サービスといった多方面にわたる改善を可能にします。自社の課題や目的に合わせて、メリットを最大限に引き出す導入設計が重要です。
2-2. デジタルツイン導入における主な課題と検討ポイント
デジタルツインは多くの可能性を秘めた技術ですが、導入や活用にあたってはいくつかの課題も存在します。
項目 | 内容 |
---|---|
初期・運用コスト | センサやシステム連携など導入要素が多く、初期投資や運用コストが発生 |
専門人材の必要性 | IoTや各種システムに関する知見を持つ技術者の確保・育成が必要 |
既存システムとの連携 | データ形式の違いにより、既存システムとの連携に工夫が必要 |
データの質への依存 | 精度の低いセンサデータに起因する誤判断の懸念 |
こうした課題はあるものの、適切な準備やパートナーの支援を受けることで多くは解消可能です。導入前にリスクと対策を整理し、自社にとって最適な活用方法を検討することが重要です。
3. デジタルツインが活用されている分野と事例
デジタルツイン技術はさまざまな分野で実用化が進んでいます。国内外の取り組みをご紹介します。
【事例①】シーメンス社(ドイツ)
- 無人搬送車の搬送システムにデジタルツインを構築
- マテリアルフローをシミュレーションし、最適ルートを算出
- 材料の移動距離を約40%削減
参考:How the Digital Twin boosts flexibility and speed in production
【事例②】静岡県
- 3D空間「VIRTUAL SHIZUOKA」を構築
- データはオープンデータとして公開
- 仮想空間上でまちづくりのシミュレーションが可能
参考:静岡県が進める VIRTUAL SHIZUOKA構想 とは?
【事例③】国立精神・神経医療研究センター
- 脳の活動をリアルタイムに再現する「デジタルツイン脳シミュレーター」を開発
- 覚醒・麻酔などの状態を仮想脳で高精度に再現・予測
- 精神・神経疾患の個別化医療への応用が期待されている
参考:新たなデジタルツイン脳シミュレーターの開発:霊長類の脳の状態を反映させたシミュレーションの実現
※事例③はセンサではなく、脳の信号を使って仮想モデルをリアルタイムに動かすシミュレーションの事例です。
4. まとめ

本記事では、デジタルツインの仕組みと、導入によって得られる効果や、導入時に考慮すべき課題、活用事例を紹介しました。
デジタルツインは製造DXの中核を担う技術として、品質向上、コスト削減、予知保全など、業務効率や品質向上に貢献し、サービスレベルの向上を実現します。
デジタルツインの活用をご検討中の方は、ぜひお気軽にご相談ください。
(編集者:内田 将之)