大学の研究もロボットが担当?導入に至った経緯や本音についてインタビュー!
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- 更新日
- 公開日
- 2025.06.30

近年、薬学や化学の分野でもロボット技術の活用が進んでいます。繊細な実験操作や反復作業が求められる研究現場において、ロボットの導入は効率化だけでなく、研究者の負担軽減や精度向上にも貢献しています。
今回のインタビューでは、ロボットを導入している薬学研究の現場に迫り、その活用方法や研究への影響について詳しく伺いました。ロボットが研究のあり方をどう変えていくのか、その最前線をお届けします。

今回お話を伺った方
岐阜薬科大学
創薬化学大講座 合成薬品製造学研究室 薬学博士
伊藤 彰近 様
1. 協働ロボット導入の決め手
Q. 協働ロボットを導入した背景について教えてください。
光反応の研究に携わっており、「フロー合成」についても研究を行っています。専用機器間でバイアルの受け渡しを行うなどの単純作業を自動化するために、協働ロボットを導入しました。
下記の動画は、実際に導入した協業ロボットになります。右側のロボットがトルクセンサによるタッチパネル操作や機器間の連携、左側のロボット左が、抽出された試薬の搬送を自動化しています。
【動画】Franka Emika Robotを用いた薬学研究の自動化
- フロー合成:原料を流しながら化学反応を連続的に行う合成技術
- バイアル:液体、粉末などの医薬品を保存するための小さなガラスまたはプラスチック製の容器
Q. なぜFranca Roboticsを購入したのでしょうか?
研究室はロボットフレンドリーではなく手狭であるため、省スペースに動作させる7軸のロボットが必要でした。Franca Roboticsは、7軸全てにトルクセンサが入っているため安全であり、価格帯も魅力的でした。
また、最近の活用ではROSを使用して研究を行っていることもあり、他の機器と連携がしやすいところにもメリット性を感じたことです。
Q. 安全性はいかがでしょうか?

学生が研究テーマでロボットを活用していますが、人に接触すれば停止するので安全に使用できています。激しい動作を行っていないこともありますが、導入してから事故は今まで一度もありません。
2. 思ったより大変!?ロボット導入のホンネ
Q. ロボット導入にあたり苦労したことや、想定外の課題はありましたか?

レイアウトの問題(環境構築)は悩みました。ロボットを中心に専用機器が周りを囲むような円形のレイアウトが最適なのですが、研究室にはそのようなスペースがないため、ロボットをどこに配置すると効率的に動かせるのかを考える必要がありました。
また、環境構築の難しさはソフトウェアでも同様で、ロボットとカメラを連動させるまでに時間が掛かりました。
Q. ロボットを活用することで不便に感じることはありますか?
人が手を動かせば数秒でできることが、ロボットでは思うように動かせないもどかしさがありました。また、毎回同じ動きをしているのに、ワークの位置によって物をつかめないこともあるなど、臨機応変な動きが苦手なところには当初不便を感じました。
Q. 今後、さらに自動化を進めたい研究テーマはありますか?
画像認識を組み入れた合成プロセスの自動化や、遠隔操作して危険な薬品を取り扱うシステムを考えています。
3. 苦労の先に見えた導入の成果
Q. 作業の自動化ができたことで作業時間はどれくらい減らすことができたでしょうか?
フロー合成はおおよそ2時間ほどで1プロセスが終わる作業なのですが、その作業に張り付く必要がなくなり、負担となっていた作業時間を削減できました。
Q. ロボットを導入する前と後で変わったことはありますか?
ロボットを導入したことで、自動化できることへの視野が広がりました。初めはロボットにワークを運ぶだけの単純作業を行わせることのために使用していましたが、カメラと連携して使用するなど新しい取り組みを検討しています。
また、一方で、「ロボットを科学」すること(効果的に使いこなすこと)の難しさを再認識しました。
4. これから導入する方へのアドバイス
Q. これからロボットの導入を検討している研究室の方に向けて、検討する際のアドバイスがあれば教えてください。
研究室のレイアウトを含め、ロボットフレンドリーな環境の構築が重要です。また、ロボットに把持させるワークの形状によって、爪の作成に試行錯誤が必要になります。
3Dプリンタとの親和性が良く、爪の試作など環境構築する際には、3Dプリンタがあると大変役に立ちます。
Q. ロボット技術の進化により、薬学研究の業界はどう変わると思いますか?
単純な作業(合成、管理)に関しては人が不要になると考えています。
5. まとめ
薬学分野の目線から協働ロボットを導入するにあたって苦労するポイントや、導入したからこそ得られた気づきなどを教えていただきました。また、プログラムを組んだことのなかった学生が、ChatGPTを活用して環境構築を進められていることに大変驚きました。また同時に、AIの活用が活発に進み、ロボット導入におけるハードルが下がりつつあることを感じました。
伊藤様、この度は貴重なお話どうも有難うございました!
(執筆者:高橋嶺、編集者:髙橋達也)