SDVが変える自動車産業!SDVの定義から日本の戦略まで徹底解説
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- 更新日
- 公開日
- 2025.09.16

自動車産業は今、100年に一度の大変革期を迎えています。その中心にあるのが「SDV(Software Defined Vehicle)」という概念です。SDVは、ソフトウェアによって自動車の機能や性能を定義・更新できる新しいタイプの自動車を指します。本記事では、SDVの定義から技術的背景、国内外の競争状況、そして日本の戦略までを網羅的に解説します。

※本記事は過去に弊社が開催した無料オンラインウェビナ「SDV世界戦 加速する世界、日本の現在地 ── 鍵を握るセキュリティ・コネクティビティ技術とは:Day1」を元に書き下ろしています。ご興味のある方は、下記のリンクから対象のウェビナページへアクセス下さい。ウェビナのハイライトレポートもありますので、ぜひご参考ください。
※ウェビナページは こちら
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また、本記事の題材であるSDVについては、こちらの記事にて詳細を解説しています。事前知識として把握すると、本記事の内容がよりよくわかる記事となっています。気になる方は、ぜひご覧ください。
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SDVとは?普及の理由とモビリティDX戦略における重要性
1. SDVによる車載システムの変革と先進事例
1-1. SDVが変える車載システム構造:自立分散型から中央集権型へ
SDVの登場は、自動運転技術の進化と密接に関係しています。従来の自動車は、エンジン・ブレーキ・ステアリングなどを個別のECU(Electronic Control Unit)が制御する自立分散型構造でした。これらはネットワークを介して協調動作し、自動車全体の統括を運転手が担っていました。
しかし、自動運転技術の進化に伴い、自動運転コンピュータを中心とした中央集権型構造に変化しつつあります。自動運転コンピュータから各ECUに指示を送り自動車全体を制御する仕組みです。このようにして、複数のECUを統合し、少数の高性能コンピュータによって自動車全体を制御する「ビークルコンピュータ」の概念生まれました。さらに、自動車内のネットワーク構成も従来の「ドメイン型」から「セントラル&ゾーン型」に変化し、効率性と柔軟性が向上しています。

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車載ネットワークの詳細は、こちらの記事にて解説しています。本記事の内容と合わせて、ぜひご覧ください。
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SDV時代の車載ネットワーク・前編 ゾーンアーキテクチャとEthernet
1-2. OTA技術の役割と可能性:進化する自動車
OTAによるアップデートは、SDVの中核技術です。元々はセキュリティ脆弱性の修正や不具合対応のために導入されました。現在では以下のような価値を生み出しています:
- AIによる継続的学習と性能向上
- 運用データに基づくソフトウェア改善
- 早期市場投入と後追いアップデート
OTAにより、エンドユーザとって自動車は、購入後も進化し続ける「成長する製品」という価値が生まれました。しかしながら、OTAは不正侵入のリスクもともなうため、強固なセキュリティ対策が不可欠です。
OTAの詳細は、こちらの記事にて解説しています。本記事の内容と合わせて、ぜひご覧ください。
1-3. テスラに学ぶSDV先進事例:サブスク型ビジネスモデル
SDV分野の先駆者として、テスラの取り組みは非常に重要視されています。同社は不具合修正やセキュリティ更新にOTAを頻繁に活用しており、販売店を持たないビジネスモデルにとってOTAは必須のインフラとなっています。特に注目すべき事例として、2018年における「Model3」のブレーキ性能の改善です。コンシューマ・レポートによる非推奨評価を受けた後、テスラはソフトウェアを更新することで性能を向上させ、推奨評価を獲得しました。
さらに、テスラは月額99ドルのサブスクリプションとして、「フルセルフドライビング」機能の提供を行い、定期的なバージョンアップを実施しています。これは、自動車販売後も継続的に収益を得ることができる新しいビジネスモデルとして、業界に大きな影響を与えています。
2. SDVが変える自動車の価値・課題・競争環境
2.1 新たな価値:自動車の「成長」と「収益化」

SDVは、従来の「購入時がピーク」という価値観をくつがえし、購入後も価値が向上する自動車を実現します。
主な要素は以下の通りです:
- 継続的な機能追加による価値向上
- ユーザの好みに応じたパーソナライズ
- カーシェアリングとの親和性
- サブスクリプション型の継続的収益モデル
これにより、メーカは一度限りの自動車販売から、ソフトウェアまたはサービス提供による安定収益へとビジネスモデルを転換できます。
2.2 SDV実現に向けた課題:技術・ビジネス・組織の壁
新たな価値をもたらすSDVですが、実現するためには多方面的な課題があります。
ビジネス面 |
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技術面 |
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組織面 |
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2.3 国内外の競争環境:新興メーカとの差とは?
日本を含む伝統的な自動車メーカは、長年にわたり高品質なハードウェアと精密な制御技術で世界をリードしてきました。しかし、SDVの時代においては、ソフトウェア中心の開発体制への転換が求められます。そのため、従来の「完成度重視」「工程ごとの確定主義」に基づく開発手法は、SDVのような不確実性を前提としたアジャイル開発には不向きです。これが、中国勢などの新興メーカとの開発スピードの差が発生する要因となっています。
新興メーカが持つ競争優位な点は、以下のようになります。
- 革新的な電子構造の採用
- OTAの積極活用
- 先進的な自動運転システムの開発
特に中国市場では、「走行性」から「居住性・娯楽性」を求める価値観に変化しており、「スマートフォン的なUX(ユーザ体験)」が重視されています。これは、これまで日本が得意としてきた「走行性」や「耐久性」といった価値軸とは異なる方向性です。そのため、この価値基準の変化は、これまで日本が蓄積してきた技術の価値が下がるリスクとなる可能性があります。
2.4 自動車産業への異業種参入
SDVの発展にともない、自動車産業はもはや自動車メーカだけの領域ではなくなっています。特に中国では、通信・IT・AI分野の企業が積極的に参入しており、その代表格がファーウェイです。ファーウェイは、スマートフォン市場で培った技術力とブランド力を活かし、SDV市場において三層のビジネスモデルを展開しています。
ティアワンサプライヤ型 (従来型) |
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ファーウェイインサイド型 (共同開発型) |
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ファーウェイスマートセレクション型 (共同ブランド型) |
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ファーウェイのビジネスモデルは、SDV時代における新たな競争軸を提示しており、日本企業にとっては脅威であると同時に、学ぶべきモデルでもあります。
3. オープンSDVの可能性と課題:プラットフォーム化と安全性の壁
3.1 オープンSDVとは?:自動車のプラットフォーム化

SDVの進化は、以下の3ステップで進展すると予想されます。
- ステップ1:OTAによる技術的更新が可能な段階(日本メーカも一部達成)
- ステップ2:継続的な機能拡張と収益化が可能な段階(テスラが到達)
- ステップ3:外部業者がアプリを開発・インストールできる「オープンSDV」段階
最終段階となるステップ3(オープンSDV)では、自動車はスマートフォンのようにアプリケーションを自由に追加・更新できるプラットフォームとなり、ユーザ体験を飛躍的に拡張します。
3.2 オープンSDVの課題
オープンSDVの最大の課題は、安全性に関わるアプリケーションの管理です。自動車制御に関わるアプリが不正に動作すれば、人命に直結する事故につながる可能性があります。
この課題への対応策には、以下の点が重要です。
- API標準化:複数車種で共通動作するアプリ開発が可能
- 開発者の参入障壁の低減:統一されたAPIにより開発効率と市場規模を拡大
- 安全性と自由度のバランス設計:制御系と非制御系の明確な分離
国際的には、COVESAやJASPARなどの団体がAPI標準化に取り組んでおり、中国も5年前から独自のSDVサービスAPIを公開しています。日本では、JASPARがAPI技術ワーキンググループを設置し、ボディ系APIの策定を開始しています。
3.3 Open SDV Initiativeとは?

Open SDV Initiativeは名古屋大学や様々な企業が参画する、業界標準となるビークルAPIの開発を目指す、日本発の産学連携プロジェクトです。このプロジェクトの特徴は、完成度よりもスピードを重視する点です。大学発の活動として標準化までの工程は困難と認識しつつ、他の標準化団体への叩き台提供や協調関係の構築を目指しています。軽い負担での参加が可能な仕組みを構築しており、現在50社以上・150人超の技術者が参加しています。日本の自動車メーカがAPI標準化の必要性を認識した際、即座に活用可能なリソースを提供することを目標としています。
ビークルAPIは、アプリケーションが自動車にアクセスするためのインターフェースです。自動車関連のソフトウェアにおいては、海外の標準規格が採用されることが多く、その結果、日本の自動車メーカは自社仕様を捨て、海外標準に合わせざるを得ない状況が生じています。こうした状況を踏まえ、Open SDV Initiativeでは、日本の自動車メーカーが不利な立場に置かれないよう、日本発のビークルAPIの開発を目指しています。
※Open SDV Initiativeに興味のある方は、こちらからアクセスしてください
4. まとめ
SDVは、ソフトウェアによって自動車の機能や性能を定義・更新できる革新的な自動車であり、OTAによる継続的なアップデートを通じて、販売後も価値が向上する「成長資産」としての自動車を実現します。これにより、自動車は従来のハードウェア中心の製品から、ユーザ体験を軸にするサービスプラットフォームに変わりつつあります。このことで、中国新興勢力の先行や異業種企業の参入によるビジネスモデルの変化など、自動車業界への影響がありました。この変化は日本の自動車産業にとって、大きな挑戦であると同時に、再成長のチャンスでもあります。その為には、組織文化・人材育成・国際標準化への対応が急務となります。この変革の波に乗り遅れず、新たな成長軌道を描けるかが、今後の日本の自動車産業の競争力を左右する決定的要因になるでしょう。
(執筆者、編集者:伊藤 正博)