• Home
  • /
  • 記事を探す
  • /
  • Linux基礎まる分かり!導入から長期運用まで見据えたポイント整理

Linux基礎まる分かり!導入から長期運用まで見据えたポイント整理

........

  • 更新日
  • 公開日
  • 2025.12.25

 「Linuxとは何だろう」「難しそうで手が出せない」そんな不安を抱えていませんか?

 本記事では、Linuxの基本概念から最新の動向まで、初心者の方にもわかりやすく解説します。オープンソースOSとしての特徴、代表的なディストリビューションの選び方、長期サポート体制まで、これからLinuxを学びたい方が知っておくべき情報をお届けします。

1. Linuxとは? 読み方やOSの基本も解説

 Linuxは、オープンソース(OSS)で開発されているOS(オペレーティングシステム)で、「リナックス」と読みます。WindowsやmacOSと同様にコンピュータを動かすための基本ソフトですが、最大の特徴は無料で利用できる事とカスタマイズ性の高さです。

 Linuxは1991年にフィンランドのリーナス・トーバルズ氏によって開発されたカーネルから始まり、現在では世界中のコミュニティや企業が改良を続けています。

 Linuxのソースコードは一般に公開されており、いわゆるオープンソースとして誰でも自由に使用・改良できます。この自由度と柔軟性から、世界中の開発者に支持されています。

図1.OSの構造

 OSの構造は、ハードウェアを制御する「カーネル」、プログラムがカーネルに命令を出す「システムコール」や「ライブラリ」、そして操作を行う「ユーザインターフェース」の3層で構成されています。

 Linuxはこの仕組みをオープンソースで公開しており、自由なカスタマイズが可能なため、製造業やIoT、クラウドなど幅広い分野で採用が進んでいます。

 

Linuxの定義

 狭義においては、UNIX系オペレーティングシステムカーネルであるLinuxカーネルを指し、広義においては、それをカーネル(中心)として周辺を整備したシステム全体の事を言う。

2. WindowsやmacOSとLinuxの違い

 Linuxは、UNIXというOSを参考に開発されました。LinuxはUNIXの思想を受け継ぎ、互換性を持ちながらも、より自由に利用できるオープンソースとして発展しました。UNIXが商用利用されることが多いのに対し、Linuxは無料で利用できる点が大きな違いです。

図2.OSの種類

WindowsやmacOSと比較したLinux

 WindowsやmacOSといった一般的なOSとLinuxを比較すると、以下のような違いやメリットがあります。

無料かつオープンソース:WindowsやmacOSが原則有償であるのに対し、Linuxは基本的に無料で利用できます。ソースコードが公開されているため、ユーザは自由にカスタマイズや改良が可能です。

軽量で動作が速い:Linuxは、必要な機能が最小限に抑えられているディストリビューションが多く、古いPCや低スペックのPCでも快適に動作します。

多様なカスタマイズ性:オープンソースであるため、プログラミング知識があれば自分好みのOSに作り変えることができます。デスクトップ環境やアプリケーションの種類も豊富です。

3. Linuxの構造とメリット

 Linuxの大きな特徴の一つは、モジュール形式の構造を取っている点です。

 モジュールとは部品のようなもので、中核であるカーネルに対して必要な機能だけを後から追加したり、不要な機能を削除したりできる仕組みになっています。この構造により、必要のない機能を読み込まないようにすることができるため、メモリやCPUの使用量を抑えることができ、軽量なOSを作ることが可能です。

 また、不安定なモジュールがあればそれだけを取り外して別のものに差し替えるといった柔軟性の高い対応も可能です。

図3.Linuxの構造

モジュール式のメリット

軽量で効率的:使わない機能は読み込まないので、メモリやCPUの負担が少ない。

柔軟性が高い:新しい機器や機能に対応するモジュールを後から追加できる。

安定性が高い:問題があるモジュールだけを外して、OS全体を止めずに修正できる。

4. Linuxディストリビューションとは

 モジュールを一つ一つ手動で組み合わせていくと、動作の確認や検証に時間がかかるという側面があります。

 そこで登場するのが、ディストリビューションという考え方です。ディストリビューションとはあらかじめ用途に応じてモジュールを組み合わせ、一つのパッケージとしてまとめたLinuxのセットのことを指します。ディストリビューションによって初心者でもすぐに使い始めることができ、サーバ用、開発用、組み込み用など目的にあったものを選んで導入できるようになっています。

Linuxディストリビューションの種類

 Linuxのディストリビューションは日々開発更新が進められており、今もたくさんの種類が存在しています。これらは、大まかに六つの系統に分類することができます。

図4.各ディストリビューションの特徴
 

・Arch

シンプルで柔軟性が高いディストリビューション
上級者向けで、カスタマイズ性が抜群
・Debian

安定性と信頼性に定評があるディストリビューション
多くの他のLinuxディストリビューションの基盤となっている
・Ubuntu

世界で最も人気のあるLinuxディストリビューションの一つ
初心者から上級者まで幅広く利用され、デスクトップやサーバ用途に最適
・RedHat

Red Hatが提供する商用Linuxディストリビューション
企業向けサーバやクラウド環境で広く利用されており、高い信頼性と長期サポートが特徴
・Slackware

最も古いLinuxディストリビューションの一つ
シンプルさと安定性を重視した設計が特徴。伝統的なUNIXライクな環境を提供し、余計なカスタマイズを避けたい上級者に人気
・SUSE Linux

エンタープライズ向けに特化した商用Linuxディストリビューション
安定性とサポート体制に定評があり、特にヨーロッパや企業システムで広く利用されている

5. 製品開発における課題とサポート期間の問題

 Linuxカーネルには、Stable版で約5ヵ月、Long-term版で約2年のサポート期間が設けられています。しかし、これらのサポート期間は、実際の製品開発スケジュールと必ずしも一致しないことが大きな課題です。

 例えば、製品の開発期間が約1年半の場合、開発開始時にLong-term版を採用しても、製品が市場に投入される頃には残りのサポート期間が半年しかないというケースが発生します。

 この場合、サポート期間外では自社でメンテナンスを継続しなければなりませんが、メンテナンスには多大な労力とコストがかかってしまいます。

脆弱性対応の負担 - 自社メンテナンスのコスト

 特に、脆弱性対応は大きな負担です。日本の脆弱性情報データベースJVN iPediaの2025年1月~3月のレポートによると、この3ヵ月間でLinuxの脆弱性報告件数は1600件に達し、全体で2番目に多い結果となっています。

 こうした脆弱性に自社で対応していくためには、エンジニアのリソースの確保やセキュリティ専門知識が求められます。

図5.製品別 JVN iPedia の脆弱性対策情報登録件数
出典:独立行政法人情報処理推進機構 セキュリティセンター

6. Linux長期サポートを実現する仕組み

 先に述べた課題に対して、Linux Foundationという非営利団体が中心となって、製品への組み込みや長期利用を見据えたさまざまなプロジェクトを推進しています。

 ここでは、代表的な二つのプロジェクトについてご紹介します。

CIP(Civil Infrastructure Platform)

 CIPは、産業機器や社会インフラ向けに長期サポート可能なLinux基盤を提供しています。具体的には、10年以上のサポート期間が計画されており、リアルタイムに処理ができるリアルタイムカーネルも用意されています。

 長期にわたって製品を動かしたいという企業にとっては、心強い取り組みと言えます。

AGL(Automotive Grade Linux)

 AGLは車載グレードに対応したLinuxで、車の中のIVI、統合コックピット、SDVといった最新の車載技術に対応するために開発されています。

 近年、自動車は走るコンピューターと言われるほどソフトウェア化が進んでいますが、AGLはその流れに対応したLinuxプラットフォームとなっています。

CIP AGL
主導団体 Linux Foundation Linux Foundation
対象分野 産業機器、社会インフラ機器、組込み機器 自動車(IVI、コックピット、ADAS、車載制御等)
主な特徴

LTSカーネルの長期保守(最低10年以上)

セキュリティパッチの継続提供

産業用規格に準拠

自動車向けAPI・M/Wの標準化

OEM・Tier1向け共通P/F

オーディオ・ナビ・通信機能を統合

ユースケース 工場設備、医療機器、組込み機器等(汎用的) 車載インフォテイメントシステム、コックピット統合システム
サポート期間 10年超(超長期サポート)

車載製品のライフサイクル程度(数年~10年程度)

参入企業 Renesas、Siemens、Toshiba等 Toyota、Denso、Panasonic、Mazda、Suzuki等

 ここからは、10年以上の長期稼働を前提とした産業機器や社会インフラ向けのLinuxプラットフォーム、CIPに注目してもう少し詳しくご紹介していきたいと思います。

CIP Linuxの4つの柱

 CIPは、10年以上の長期稼働を前提とした産業向けのLinuxプラットフォームです。このCIP Linuxには長期サポートを実現するための4つの取り組みが設けられており、それぞれが連携しながら安心して使い続けられる仕組みを支えています。

図6.CIPの構造
※クリックで拡大表示します

1. Upstreamとの連携

 CIP Linuxの1つ目の柱は、Upstream※1との連携による最新のセキュリティ修正と安定性の確保です。

 CIP LinuxではSLTS(Super Long Term Support)という概念を採用しており、これは10年以上の長期サポートを意味します。通常のLinuxカーネルのLong-term版は約2年のサポート期間しかありませんが、CIP Linuxを利用することで製品開発におけるサポート切れのリスクを回避できます。

 もしCIP Linuxを使わなければ、Long-term版のサポート終了後に発生するセキュリティ問題に対して自社で対応しなければならず、その対応には膨大なコストと工数がかかります。一方でCIP Linuxを導入すれば、10年間のサポート期間が保証されるため、自社でのメンテナンス負担を大幅に削減でき、結果としてセキュリティリスクの低減とコスト削減につながります。

 さらにCIP LinuxはUpstreamと連携し、2年から3年ごとに新しいSLTSをリリースすることで、最新のセキュリティパッチを継続的に取り込み、長期的な安定性を確保します。これにより、組込みLinuxや産業機器に求められる長期サポートを実現し、企業の製品開発における課題を解決します。

 ※1 Linuxカーネルの本流となるオープンソースプロジェクト

2. SLTSカーネルの開発保守チーム

 2つ目の柱は、SLTSカーネルの開発保守チームがUpstreamのLinuxカーネルと連携し、継続的なサポートを提供している点です。

 CIP LinuxではLTSカーネルの公式メンテナンスが終了した後も、専門チームが引き継いでセキュリティパッチの適用や不具合修正を継続します。

3. コアパッケージの長期メンテナンス

 3つ目の柱は、CIPのコアパッケージの存在とその長期メンテナンスの体制です。

 CIPでは、システムを構成する中でも特に重要なパッケージをコアパッケージと定義しています。コアパッケージには、必要なものや重要なものがまとまっています。

 例えばLinuxカーネルを起動するU-Boot、ツール集をパッケージ化したBusyBox、コンパイラのGCC、セキュリティ対応に対応したOpenSSL、OpenSSHなど重要なパッケージに的を絞って、そこにリソースを集中させることで10年後のサポートとメンテナンスが可能です。

4. テストの自動化による品質保証

 4つ目の柱は、テストの自動化です。

 CIP Linuxでは、SLTSカーネルとコアパッケージが安定して動作しているかどうかを確認するために、定期的に自動テストが行われている点が特徴です。もちろんテストは人の手でも可能ですが、CIPのように10年以上の長期サポートを前提としたプロジェクトになると手作業では対応しきれなくなります。

 例えば1回のテストにかかる時間が短くても、それを10年間にわたり何百回、何千回と繰り返すとなると、結果的に非常に大きなコストが発生します。そこでCIP Linuxは、テストを自動化する仕組みを導入し、長期的な品質保証と効率化を実現しています。この自動化により、SLTSカーネルの安定性を維持しながら、企業のメンテナンス負担を軽減し、製品開発における信頼性を高めることができます。

7. オープンソースとは何か OSIの定義と基準

 オープンソースという言葉を聞いて、公開されているソフトウェア、誰でも使えるソフトウェア、改造できるソフトウェアといったイメージを思い浮かべる方も多いかと思います。正式にはオープンソースという言葉は、Open Source Initiative(OSI)という国際的な団体が定めた基準にもとづいて使われています。

 このOSIでは、オープンソースとは何かについて以下のように明確な定義を設けています。

オープンソースの定義

 ・ソースコードを入手できる事

 ・自由な再頒布ができる事

 ・派生物が存在でき、派生物に同じライセンスを適用できる事

 その他…
 ・差分情報の配布を認める場合には、同一性の保持を要求しても構わない事
 ・個人やグループを差別しない事
 ・再配布において追加ライセンスを必要としないこと
 ・特定製品に依存しない事
 ・同じ媒体で配布される他のソフトウェアを制限しない事
 ・技術的な中立を保っている事

主要なオープンソースライセンスの特徴

 オープンソースとライセンスは、厳密に言うと少し違うカテゴリに存在しています。ライセンスの中にはオープンソースの普及団体であるOSIが認めているものもあればそうでないものもあります。

 特にLinuxを使う時によく目にするライセンスとしては、GPL、LGPL、Apache-2.0などがあります。これらのライセンスはそれぞれ特徴やルールが異なるため、正確に理解してから使うことが大切です。

図7.各ライセンスの特徴

8. まとめ

 Linuxは、オープンソースならではの自由度と高い安定性を備えた強力なOSであり、サーバから組込み機器、クラウド環境まで幅広く利用されています。しかし、そのメリットを最大限に活かすためには、いくつかの重要なポイントに注意する必要があります。

 まず、ライセンス違反のリスクを避けるために、ソフトウェアのライセンス管理を徹底しましょう。次に、セキュリティ対策として、JVNなどの脆弱性情報を定期的に確認し、パッチ適用を仕組み化することが不可欠です。さらに、長期サポートが必要な場合は、CIP LinuxやAGLなどのプロジェクトを活用することで、製品開発におけるメンテナンス負担を大幅に軽減できます。

 Linuxは強力な武器ですが、適切な管理とセキュリティ対策を怠ればリスクも伴います。正しい知識と仕組みを整え、安全で信頼性の高いシステムを構築しましょう。

執筆者:渡部宏進 編集者:安西滉樹

こんな記事もおすすめ

その他お役立ち情報を探す

記事一覧にもどる

関連イベント