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NAND vs NOR フラッシュメモリの違いと記録方式をわかりやすく解説

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  • 更新日
  • 公開日
  • 2025.10.31

 私たちの身の回りにあるスマートフォンやPC、USBメモリなど、多くのデジタル機器でデータ保存の役割を担っているのが「フラッシュメモリ」です。電源を切ってもデータが消えないという便利な特性を持っていますが、実はその中には多くの種類があり、それぞれに異なる特徴や適した用途があります。製品選びで後悔しないためには、これらの違いを理解しておくことが非常に重要です。

 本記事では、フラッシュメモリの基本的な仕組みから、主要な種類である「NAND型」と「NOR型」の違い、さらに「SLC」「MLC」といった詳細な記録方式に至るまで、網羅的に解説します。この記事を読めば、ご自身の目的に最適なフラッシュメモリ製品を見極める知識が身につきます。

1. フラッシュメモリとは?電源OFFでもデータを記憶する仕組み

 フラッシュメモリとは、電気的にデータの書き換えができ、かつ電源を供給しなくても記憶した内容を保持できる不揮発性の半導体メモリです。 データをブロック単位でまとめて消去する様子が、カメラのフラッシュのように「パッと」行われることから、この名前が付けられました。
 従来のROM(Read Only Memory)のように一度書き込むと変更できないわけではなく、RAM(Random Access Memory)のように電源を切るとデータが消えてしまうこともありません。この使い勝手の良さから、SSDやUSBメモリ、SDカードなど、今日のデータストレージ製品に幅広く採用されるようになりました。

フラッシュメモリの主な2つの種類!NAND型とNOR型の違い

 フラッシュメモリは、内部の回路構造によって大きく「NAND(ナンド)型」と「NOR(ノア)型」の2種類に分類されます。 これらはデータの読み書き速度や集積度、コストといった特性が大きく異なるため、用途に応じて使い分けられています。両者の主な違いを以下の表にまとめました。

NAND型 NOR型
読み出し速度 低速 高速
書き込み速度 高速 低速
集積度(容量) 高い 低い
書き換え回数 少ない 多い
コスト(容量単価) 安価 高価
主な用途 データストレージ(SSD、USBメモリ等) プログラム格納(ファームウェア等)

 

 以降の章で、NAND型とNOR型の違いを詳しく見てみましょう。

2. データ保存に優れるNAND型フラッシュメモリ 

 NAND型フラッシュメモリは、書き込み速度が速く、高集積化によって大容量かつ安価に製造できる点が最大の特徴です。 そのため、SSDやUSBメモリ、SDカード、スマートフォンのストレージといった、大量のデータを保存する用途で広く採用されています。
 NOR型とNAND型ではコントローラも異なるため、マイコンなどに接続する際はNANDコントローラが搭載されているかにも注意する必要があります。多くのマイコンではNANDコントローラが非搭載のため、ファームウェア格納用途にNOR型が使用されます。
 NANDコントローラを搭載した製品ではNOR型にファームウェア、NAND型にデータと使い分けられていましたが、スマートフォンの様に大容量を必要とするOSを搭載した製品ではNAND型にファームウェア、データの両方を格納するような使い方もされています。

Serial NANDフラッシュメモリ

 Serial NANDフラッシュメモリも、Serial NORと同様にシリアル(逐次)方式でデータの読み書きを行います。しかし、構造はNAND型を採用しており、この点がNOR型との大きな違いです。NAND型はシーケンシャルアクセスに優れており、データを順番に読み書きするのに適しています。Serial NANDの利点は、読み出し、書き込み、消去速度が比較的速いことです。また、Serial NORに比べて大容量化が可能で、数十MBから数GB程度の容量を持つ製品が多く存在します。そのため、データストレージや組み込み機器のデータ保存など、大容量データの保存に適しています。
 後述(6. さらに複雑?NAND型フラッシュメモリ搭載製品の種類)のように、ICとしての製品ではeMMCやUFSなど大容量・高速なものが登場しており、スマートフォンなどに搭載されています。NANDフラッシュメモリを搭載したストレージ製品(SDカード, SSD)もあり、PC・スマートフォン・ゲーム機などで広く普及しています。

3. プログラム実行に適したNOR型フラッシュメモリ

 NOR型フラッシュメモリは、NAND型に比べてデータの読み出しが高速で、バイト単位での正確なアドレッシングが可能です。 この特性から、ルータやプリンタなどの周辺機器、あるいはPCのBIOSといった、信頼性が高く、プログラムコードを直接読み出して実行する必要がある組み込みシステムで主に利用されます。
 ただし、書き込み速度は遅く、回路構造が複雑なため大容量化には向きません。 そのため、コストもNAND型に比べて高価になる傾向があります。NORフラッシュメモリに対してもフラッシュメモリの中でも代表的な種類を紹介します。

Parallel NORフラッシュメモリ

 Parallel NORフラッシュメモリは、パラレルIF(SRAM IF:アドレスバス+データバス)でデータの読み書きを行うフラッシュメモリです。構造はNOR型であり、Serial NORと同様にランダムアクセスに優れています。Parallel NORの最大の特長は、読み出し速度が非常に速いことです。しかし、書き込みや消去速度は遅く、容量は比較的小さいという点はSerial NORと共通しています。インターフェースには多数の信号線を使用するため、ピン数が多くなるというデメリットがあります。かつては広く使用されていましたが、Serial NORフラッシュメモリの登場により、現在は使用頻度が減っています。より少ないピン数で同様の機能を実現できるSerial NORの方が、小型化やコスト面で有利なためです。

Serial NORフラッシュメモリ

 Serial NORフラッシュメモリは、シリアル(逐次)方式でデータの読み書きを行うフラッシュメモリです。構造はNOR型を採用しており、このNOR型である点が大きな特徴です。NOR型は、ランダムアクセスに優れており、データの特定の位置に直接アクセスできるため、プログラムの実行に適しています。この特性から、BIOSやファームウェアなど、頻繁に読み出す必要のあるコードの保存によく用いられます。読み出し速度は比較的速いものの、書き込みや消去速度は遅いという特徴があります。また、容量は比較的小さく、数MBから数百MB程度が一般的です。ピン数が少ないため、小型化にも貢献できます。
 近年では通常のSPI(データ線はMISO, MISOの送受信各1本)から、Quad SPI(データ線を送受信兼用4本に拡張)やOctal SPI(データ線を送受信兼用8本に拡張)の様に、アクセス速度の向上が図られています。

4. NAND型フラッシュメモリを更に深掘り!記録方式の種類

 現在、データストレージの主流となっているNAND型フラッシュメモリは、メモリセルと呼ばれるデータの最小記録単位に、どれだけの情報を詰め込むかによって、さらにいくつかの種類に分けられます。 この記録密度は、製品の価格、性能、そして寿命を決定づける重要な要素です。
 大きく記録方式による違いは下記のようなイメージです。

記録方式 1セルあたりのビット数 コスト 速度 寿命(耐久性)
SLC 1ビット 高い 速い 長い
MLC 2ビット
TLC 3ビット 安い 低い 短い
QLC 4ビット 最も安い 最も低い 最も短い

SLC(Single Level Cell)

 SLCは、1つのメモリセルに1ビットのデータのみを記録する方式です。 構造がシンプルなため、データの書き込みや読み出しが非常に高速で、書き換え可能な回数も多く、優れた耐久性を誇ります。その反面、記録密度が低いため製造コストが最も高くなります。この特性から、高い信頼性と耐久性が要求される産業用機器や、サーバのキャッシュ領域など、限定的な用途で採用されています。

MLC(Multi Level Cell)

 MLCは、1つのメモリセルに2ビットのデータを記録する方式です。SLCと比較して記録密度が2倍になるため、容量あたりのコストを抑えることができます。 性能、耐久性、コストのバランスが取れており、一世代前のコンシューマ向けSSDなどで広く採用されていました。現在でも、高い信頼性が求められる一部の高性能な製品で見られます。

TLC(Triple Level Cell)

 TLCは、1つのメモリセルに3ビットのデータを記録する方式です。 MLCよりもさらに記録密度を高めることで、大容量化と低コスト化を大きく進めました。現在のコンシューマ向けSSDやUSBメモリでは最も主流な方式となっています。ただし、SLCやMLCに比べると、書き込み速度や耐久性の面では劣るため、製品側で制御を工夫することで性能を補っています。

QLC(Quad Level Cell)

 QLCは、1つのメモリセルに4ビットのデータを記録する、現在最も記録密度が高い方式です。これにより、ハードディスクに迫る大容量のSSDを、より手頃な価格で実現できるようになりました。一方で、1セルに多くの情報を詰め込むため、書き込み速度はさらに低下し、書き換え可能回数も少なくなるというデメリットがあります。そのため、データの書き込み頻度が少なく、読み出しが中心となるような用途に向いています。

5. フラッシュメモリを選ぶ際の注意点

 フラッシュメモリは非常に便利な記憶媒体ですが、万能ではありません。特に「寿命」と「データ保持期間」については、その特性を理解した上で利用することが重要です。

書き込み回数による寿命

 NAND型フラッシュメモリには、物理的な特性として、データの書き換え可能回数に上限があります。 この上限を超えると、セルが劣化して正常にデータを記録できなくなります。一般的に、書き換え可能回数は SLC > MLC > TLC > QLC の順で多くなります。
 もっとも、SSDなどの製品には「ウェアレベリング」という、特定のセルに書き込みが集中しないよう均等に分散させる技術が搭載されており、製品全体の寿命を可能な限り延ばす工夫がなされています。 通常の個人利用であれば、寿命を過度に心配する必要は低いと言えます。

データ保持期間の目安

 フラッシュメモリは不揮発性ですが、永久にデータを保持できるわけではありません。電源が供給されない状態が長期間続くと、セルに蓄えられた電子が自然に抜けてしまい、データが失われる可能性があります。一般的な製品では、データ保持期間の目安として10年程度が想定されていることが多いですが、これは使用環境にも左右されます。 そのため、フラッシュメモリを長期的なデータアーカイブ用途で利用するのは避け、大切なデータは複数の媒体にバックアップすることが推奨されます。

6. さらに複雑?NAND型フラッシュメモリ搭載製品の種類

 容量・転送速度・用途により、NAND型フラッシュメモリ搭載製品は複数用意されています。
 また、各製品内でも記録方式(メモリセル)が異なるものが混在しているため、採用検討の際には注意が必要です。

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eMMC:embedded MMC

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  • MMC(Multi Media Card)を組込用にしたもの
  • eMMC 5.1規格で最大転送速度 400MB/sec

UFS:Universal Flash Storage

  • eMMCより高速な組込用のフラッシュメモリ
  • 最大転送速度は規格を追うにつれて高速化しており、UFS 2.1 = 1.2GB/sec, UFS 3.1 = 2.9GB/sec, UFS 4.0 = 5.8GB/sec, UFS 5.0 = 10.8GB/sec

SSD:Solid State Drive

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  • HDD(Hard Disc Drive)に対して、円盤を持たずフラッシュメモリを使用したもの
  • HDDと同様に組込用途、外付け用途の両方で使用される
  • 組込時の最大転送速度はNVMe(Non Volatile Memory)IFでは、PCIe規格に準拠しており、PCIe 5.0 ×4 Lane使用時で16GB/sec
  • 組込用の形状(フォームファクタ)は、M.2(NVMe, SATA)と、2.5inch(SATA)の2種類があり、どのフォームファクタ/IFで接続するか注意が必要 

SDカード:Secure Digital Card
SDHCカード:Secure Digital High-Capacity Card
SDXCカード:Secure Digital eXtended-Capacity Card

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  • 所謂SDメモリカードで、容量により規格が異なる
  • 容量ごとにファイルシステムも異なり、使用機器ごとに対応容量が異なるので注意が必要 
 ・SD		~2GB		FAT16
 ・SDHC	4GB~32GB	FAT32
 ・SDXC	32GB~2TB	exFAT

 SDXCカードの先としてSDUC(Ultra Capacity)規格 2TB~128TBもありますが、現時点での用途・対応機器は限定的です。

SD Expressカード:Secure Digital Express Card 

  • SDカードの形状(フォームファクタ)を引き継ぎつつ、データ転送用の端子数を増やすことで転送速度を向上
  • データ転送にはSSDと同様にNVMe(PCIe)を使用
  • 最大容量、ファイルシステムはSDXC/SDUCに準拠
  • 最近発売されたゲーム機にも採用

7. まとめ

 本記事では、フラッシュメモリの基本的な仕組みから、NAND型・NOR型といった主要な分類、さらにはSLCからQLCに至る詳細な記録方式まで、その種類と特徴を解説しました。フラッシュメモリは種類によって性能やコストが大きく異なり、SSDやUSBメモリといった身近な製品も、これらの技術の組み合わせによって成り立っています。それぞれのメリット・デメリットを正しく理解し、ご自身の用途に最適な製品を選ぶことが重要です。選定に迷ったら、是非お問い合わせください。

(編集者:木庭 正博)

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