現場主導で実現するDX!"動ける現場"をつくる業務改善の進め方
........
日々の業務で感じているムダや非効率な作業があっても、システム開発には時間とコストがかかり、改善提案は後回しになりがちです。こうしたギャップが、DX推進の大きな障壁となっています。
本記事では、現場の「使いやすさ」と「組織のガバナンス」の両立に悩む声を聞いてきた経験をもとに、身近なツール(Microsoft 365)で実現できる現場主導DXの進め方を事例も含めてご紹介します。
INDEX
1. なぜ現場DXは進まないのか?長年続く「構造的な課題」
DXへの関心が高まっている一方で、現場主導の改善はなぜ進まないのか?その背景には、組織に共通するいくつかの「構造的な課題」が存在します。
① IT部門依存の開発体制がスピードを奪う
多くの企業では、アプリ開発やシステム導入をIT部門が担当しています。しかし、IT部門のリソースは限られ、全社プロジェクトや基幹システム対応が優先されるため、現場の改善依頼は待ちになりがちです。結果として、現場はできるだけ早く改善したい、IT部門は安全性と審査を重視したい、という時間感覚のズレが生まれ、改善が進みません。
② 業務がブラックボックス化し、改善の前提が整わない
現場は日々忙しく、業務整理や手順書の整備が後回しになっています。典型的な問題は、手順が人に依存している(属人化)、明文化されていない、なんとなくやっている作業が積み重なるという状態です。このままでは、何が課題で、どこがボトルネックかが把握できず、DXの第一歩が踏み出せません。
この状態が続くと、「生産性の低下」、「品質・安全性の低下」、「機会損失」、「人材定着への悪影響」といった問題になりかねません。DXを“待つだけ”では、競争力は確実に低下します。いま、現場が自ら動ける環境づくりが必要です。
2. SaaS型は導入しやすいが落とし穴もある
不安を解消しようと、各部署がそれぞれ導入しやすいSaaSを選択しがちですが、SaaSを増やす戦略は長期的には課題も出てきます。
① 情報のサイロ化・統合の困難
- ツールごとにデータが分断され、横断的な可視化が困難
- 部門ごとにツールが異なり、全体最適を阻害
② コストと運用負荷の増大
- ユーザ追加でライセンス費用が膨らむ
- アカウント管理・権限設計が複雑化
③ ガバナンスとセキュリティの統制が困難難
- ツールごとに個別審査が必要で、運用ルールが統一されていない
つまり、SaaSの個別最適は短期的には便利でも、長期的なDXの土台としては不安が残ります。
3. 現場DXを進める「Microsoft 365」という選択肢
多くの企業がすでにMicrosoft365(M365)を契約しており、こうした業務改善の課題に対して、M365の活用を推奨しています。M365は、ExcelやPowerPointなどの単機能利用にとどまらず、SharePointやTeamsやPower Platformを組み合わせることで、大きな業務改善の可能性があります。
M365を活用するメリット
- 新たなSaaSを導入するよりコストを抑えた業務改善が可能
- 現場開発でも組織のセキュリティポリシーに準拠した運用ができるため、柔軟な業務改善と高い安全性を両立
- ノーコード/ローコードで開発できるため外部委託せずに思い通りのUIを現場主導で進めることが可能
- SharePointやTeamsを業務に合わせて連携させることで、業務に特化したアプリのような使い心地を実現
つまり、新しいSaaSを足さなくても、今あるM365でセキュリティとガバナンスを両立させた現場DXを始めることができます。
要件に応じて選べる2つのアプローチ
DXの現場支援では、対象となる業務規模や複雑度に応じて、①Power Apps中心の構成と②M365+アプリの組み合わせを使い分けることで、スピード・柔軟性・拡張性のバランスを最適化できます。両者は対立する選択肢ではなく、段階に応じて相互補完する関係として機能します。
1. Power Apps中心の構成(小規模~中規模向け)
SharePoint リストをデータ基盤とし、数画面程度のアプリであれば短期間で開発できる構成です。Power Automate と組み合わせることでワークフローの拡張も容易で、ノーコード中心のため現場自身が運用改善を継続しやすい点が大きな強みです。日常的に使う業務の「小さく早い改善」に最適です。
2. M365+独自アプリの組み合わせ(大規模・複雑向け)
UI・ロジックが複雑になる場合や、大量データを扱う業務では、Power Apps だけでは限界が生まれます。その際は、M365 でデータ統合や認証(Entra ID)を統一しつつ、必要な部分だけを独自アプリで補完する構成が有効です。フルスクラッチ開発に比べ、コストや期間を抑えながら柔軟に高度な要件を満たせます。

4. 「Microsoft 365」の活用事例
【事例①】CSV+VBAによる帳票作成の自動化
アプリに入力したデータをCSVで出力し手動でVBAを実行して帳票を作成していたプロセスを、Power Appsを活用することで自動化。手作業がゼロになり、作業精度と工数の削減に繋がった。
【事例②】50以上のフォームを「1つの仕組み」で動的管理
アプリで50以上のフォームを個別で作成していたことで、修正時にはフォームを1つずつ修正する必要があり工数がかかっていた。Power Appsを活用することで、1つのデータ構造でフォームが作成できる仕組みが構築でき、作成/修正の手間を削減することに繋がった。

【事例③】Excel+メールを用いた日程調整をアプリで一元管理
Excelにスケジュールを記載後メールで更新連絡を行っていた日程管理を、Power AppsとM365の仕組みと連携することでアプリ化。申請されたスケジュールをアプリで一元管理することで担当者のスケジュールに自動的に反映され、作業効率化に繋がった。

5. 現場主導DXを成功させる“伴走型支援”
DXを推進する現場の担当者は、日々の業務に多くの時間を割いており、新しい取り組みに使えるリソースは決して潤沢ではありません。
そんな多忙な現場でも前向きにDXへ取り組めるよう、私たちは “動かしながら理解を深める” プロトタイピング型のアプローチ を重視しています。
ご相談いただく内容は、M365やPower Appsで実現できる小規模〜中規模の業務が中心で、開発期間はおよそ 6か月。そのうち 半分をプロトタイピング に充てることで、現場の理解・納得と機能の制度を両立しています。
3段階のプロトタイピングで「現場に合うアプリ」を作成
1回目:初期モデルでイメージのすり合わせ
- ヒアリング内容をもとに初期モデルを具現化し、現場のイメージと合っているか、解釈のズレがないかを確認します。この段階でユーザのIT環境や制約事項も整理し、必要な対応を丁寧にご説明します。
2回目:業務ルールを実装し、完成度を高める
- 初期モデルをブラッシュアップしながら、業務ルールや例外処理をアプリに落としこみ、現場の実態に合う形へ整えていきます。
3回目:付帯機能も統合し、実務で使える形へ
- 最終段階では、通知・帳票・検索などの付帯的な機能も統合し、実際の業務でそのまま使えるレベル まで仕上げます。
プロトタイピング後は実際の業務でトライアルを行い、現場でスムーズに使えるか、想定外の運用パターンがないかを確認し、問題がなければお客様の環境に正式導入します。現場には独自の文化や専門用語があるため、参与観察を通じて理解を深め、現場と目線を合わせながら進めることを大切にしています。
現場理解こそ成功のカギ
各組織には、歴史や文化、独自の用語や仕事の進め方があります。私たちは 参与観察 を通じてその理解を深め、“お客様と同じ目線で改善を進めること” を何より大切にしています。
6. まとめ
弊社グループでは、M365 と Power Apps を活用し、既存の IT 環境を最大限に生かしながら、現場に最適な業務ツールを短期間で共に作り上げる支援を行っています。特に、両ツールが持つ高い柔軟性を損うことなく、プロトタイピングを通じて短期間で最適なツールを共に仕立てる支援スタイルを特徴としています。
ご相談いただく業務の多くは、Excelで日常的に繰り返し使われるような「エンドユーザーコンピューティング」領域で、現場での実用性と改善効果が高いテーマです。企業には多様な業務が存在するため、それらをDXで継続的に改善していくには、統一された手法で、コスト効率よく、持続性の高いアプローチが欠かせません。M365とPower Apps は、これらの要件を満たしつつ新たな価値を生み出せる有力な選択肢となります。現場の業務改善が思うように進まずお困りの方は、是非お気軽にご相談ください。


