省エネ、高効率を実現するブラシレスモータの開発課題と解決策
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- 更新日
- 2024.07.08
- 公開日
- 2023.05.09
突然ですが、モータが世界の電力使用量のうち約53%を消費していることをご存じでしょうか?各国では環境対応のため、既にモータ規制が行われており、高効率なモータへの切替えが進んでいます。企業としても環境対応が求められることでしょう。
本記事では、モータ規制の変化、モータの種類や制御方式による効率の違い、省エネや高効率に活躍するブラシレスモータについてをご紹介します。
INDEX
1. モータの種類と特長
項目 | ブラシ付き DCモータ |
ブラシレス DCモータ |
誘導型 ACモータ |
ステッピング モータ |
---|---|---|---|---|
電源 | DC | DC | AC | パルス |
回転制御 | 電圧(ON/OFF) | ベクトル制御 120度通電制御 |
周波数 | パルス制御 |
寿命 | × | 〇 | 〇 | 〇 |
効率 | △ | 〇 | × | × |
位置決め | × | △ | × | 〇 |
低速回転 | △ | 〇 | 〇 | 〇 |
高速回転 | △ | 〇 | △ | × |
電磁ノイズ | × | 〇 | × | △ |
振動 | 〇 | ◎ | × | △ |
サイズ | 極小~小 | 小~大 | 小~大 | 小 |
コスト | ◎ | △ | 〇 | × |
開発難度 | ◎ | × | 〇 | △ |
用途 | 玩具 電動歯ブラシ 電動カミソリ |
ポンプ 送風機 冷凍機器 |
洗濯機 掃除機 |
プリンタ 光学ドライブ 分析機器 |
構造図 |
ブラシ付きDCモータ以外のモータは、ブラシの摩耗を気にしなくて良いため、寿命の長いモータと言えます。その中でも電力効率、高速/低速回転や振動性に優れているのはブラシレスDCモータです。
2. ブラシレスDCモータとは?
ブラシレスDCモータ(BLDCモータ)は、その名称からDCモータと混同されがちですが、実はDC電源をインバータでAC波形に変えて回転を制御しています。一般的なブラシレスモータはインバータで生成する三相交流によって駆動しており、下図のようなY字型にコイルを配置し、それぞれのコイルに適切なタイミングで電流を流してあげることで回転します。
永久磁石型と磁石なしでのメリット、デメリット比較
ブラシレスモータは通常、ロータ(回転子)として永久磁石を使用していますが、世の中には誘導モータやスイッチトリラクタンス(SR)モータといった磁石を使わないモータも存在します。
- どのモータもかなり昔から原理は確立していましたが、磁石モータの実用化はわりと最近です(1982年、日本でのネオジム磁石の開発により、永久磁石型モータは世界中に普及していきました)
項目 | 永久磁石あり | 永久磁石なし |
---|---|---|
コスト | × | 〇 |
トルク | 〇 | △ |
サイズ(重さ) | 〇 | △ |
効率 | ◎ | △ |
低速回転 | 〇 | 〇 |
高速回転 | △(逆起電力による効率低下) | 〇 |
3. ブラシレスモータへの切替えによる省エネ、高効率化
近年では、省エネ/高効率化/小型化(軽量化)などの世界的トレンドにより、ブラシ付きモータ⇒ブラシレスモータ、誘導モータ⇒ブラシレスモータへの切替えが増加しています。
3-1. ブラシレスモータに置き換えるメリット
特に、現行モータ(ブラシ付きDCやACモータ)から置き換える場合、製品の「長寿命化」、「高効率化」、「軽量化」などで大きな効果が期待できるでしょう。
3-2. インバータ制御の2つの方式
ブラシレスモータのインバータ制御には、120度通電制御とベクトル制御の2つの制御方式があり、方式によってもモータの効率が変化します。ここでは、ブラシレスモータの制御方式について説明します。
- 120度通電制御
6つの電圧パターンを利用してモータを駆動する制御方式です。各相、120度ずつずれたタイミングで電流を供給します。MCUで必要な演算量は比較的少ないですが、ロータに働くトルクの角度が一定でないため、振動や駆動音などが大きくなります。
- ベクトル制御
ベクトル制御はロータに対して常に垂直方向にトルクを発生させる制御方式です。MCUで必要とされる演算量は120度通電制御に比べて多くなりますが、回転ムラが小さく、高効率であることが特徴です。
項目 | 120度通電制御 | ベクトル制御 |
---|---|---|
ソフトウェア演算量 | ◎ | × |
効率 | △ | ◎ |
駆動回路 | ◎ | × |
静音性 | △ | ◎ |
制御精度 | △ | ◎ |
これより、特に精度の高い制御が求められるアプリケーションでは、ベクトル制御が採用される傾向にあります。
3-3. ベクトル制御に必要な知識(つまずきポイント)
- 数学的な複雑さ
ベクトル制御は、数学的な概念や計算が必要です。ベクトル、行列、微分方程式などの数学的な理解が求められます。特に、座標変換や制御アルゴリズムの理解には、高度な数学的知識が必要です。
- パラメータチューニングの難しさ
適切なゲインやパラメータの設定は、試行錯誤と理論的な知識が必要です。モータの特性や環境によって適切なパラメータが異なるため、知識がなければ、最適な設定を見つけることは困難です。
- ハードウェアとソフトウェアの統合
ベクトル制御は、ハードウェアとソフトウェアの統合を必要とします。適切なセンサ、制御アルゴリズム、信号処理の組み合わせが必要であり、これらを効果的に統合することが必要になります。
座標変換や制御ゲインの設定には、より専門的な知識が必要なため、下記で詳しく説明します。
【座標変換】
- クラーク変換
UVWの3相固定座標系からa-βの2相固定座標系に変換する方式です。この変換は、UVWの3相電流を扱いやすくするために実施します。
- パーク変換
クラーク変換によって生成されたa-βの2相固定座標系をd-qの2相回転座標系に変換する方式です。この変換では、ベクトル(aβ)の変化に合わせてa軸とβ軸を回転させ、q軸とd軸という新たな軸を設定します。このように、軸自体をベクトルの変化に合わせて回転させることで、ベクトル(dq)の向きを一定に保ちます。UVWの3相電流に対して、「クラーク変換⇒パーク変換」を繰り返すことで、直流モータのように制御が可能になります。
【制御ゲイン設定】
- 速度制御ゲイン
モータの速度制御において使用されます。速度制御ゲインは、目標速度と実際の速度の差をもとに、速度制御の応答性や安定性を調整します。
- 電流制御ゲイン
電流制御は、モータのトルクや回転数を制御するために重要です。電流制御ゲインは、目標の電流値と実際の電流値の誤差をもとに、電流制御の性能を調整します。
- PIコントローラゲイン
ベクトル制御では、PIコントローラがよく使用されます。このコントローラにはPゲイン(比例ゲイン)とIゲイン(積分ゲイン)が含まれ、これらの値を調整することで制御性能が向上します。
- これらのゲインは、モータの特性や制御系の要求に応じて調整します。
4. 高効率モータ開発に向け課題はございませんか?
リョーサンでは、モータのお困りごとに対するサポートを行っています。ハードウェア(回路設計)からソフトウェア(プログラミング)まで、パワーエレクトロニクスのトータルソリューションを皆さまにご提供致します。モータ規制への対応を考えている方、モータの長寿命化、高効率化、軽量化などにお困りごとをお持ちの方は是非、ご相談下さい。
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(執筆者: 深田新、山口央、編集者:安西滉樹)
建機・農機の電動化、モータ制御マイコンの選定方法については、下記記事をご参照ください。