【設計者確認必須】電源IC選定における優先確認項目
........
- 更新日
- 公開日
- 2024.10.31
1.電源ICとは
電源ICとは、電子機器において、電力を管理・制御するための集積回路です。「電圧の変換、安定化、電流の制限」などの機能を持ちます。一般的に、コンセントやバッテリなどから供給される電力から、対象の電機製品に安定した電力供給を行う役割を持ちます。本記事は、電源IC(DCDCコンバータ、LDO)を用いた開発における優先確認項目について解説します。
2.仕様確認における共通項目
スイッチングレギュレータ(DCDCコンバータ)とリニアレギュレータ(LDO)の設計時における、共通の優先確認項目について、下記に解説します。
入力電圧範囲(Input Voltage Range)
入力電圧の下限/上限が、電源ICの推奨動作範囲における最小/最大入力電圧に収まっていることを確認します。
出力電圧範囲(Output Voltage Range)
電源供給先から要求される電圧を、電源ICから出力可能か確認します。
また、その際、固定出力電圧とするのか、可変出力電圧とするのかを、用途に応じて選択する必要があります。
-
固定出力電圧
決められた電圧で動作するデバイスなど、高い安定性や低コストであることが求められる場合に選択されます。
メリット:
・可変型と比較して、必要となる周辺部品点数が少なく、低コストかつシンプルな回路設計が可能です
・電圧の変動が少なく安定した出力を得ることが可能です
デメリット:
・出力電圧が固定されるため、異なる負荷条件や複数の電圧に対応する場合、複数の電源が必要です
-
可変出力電圧
テスト装置や評価段階での調整が必要な場合など、異なる負荷や複数の電圧に対応可能な柔軟性が求められる場合に選択されます。
メリット:
・異なる負荷や用途に1つの電源で対応可能です
・固定型では複数の電源を必要とする場合でも、可変型であれば1つで対応可能です
・試作段階での調整や異なるシステムへの流用を想定する場合に利便性が高くなります
デメリット:
・固定型と比較して、必要な周辺部品点数が増加するため、高コストかつ設計が複雑化します
・出力電圧範囲が広がるため、リップルやノイズの管理が難しくなる可能性があり、固定型と比較して、安定性がやや劣ります
出力電流範囲(Output Current Range)
電源供給先の負荷に対して、十分な出力電流を確保する必要があります。また、定格を超える電流が回路に供給された場合、周辺部品が損傷する可能性があります。
使用温度範囲(Operating Temperature Range)
使用温度範囲は、電源ICや周辺部品が正常動作可能な温度の範囲を指します。温度が範囲を超えると、電圧の変動やデバイスの破損を引き起こす可能性があります。動作温度範囲と保管温度範囲があり、運用環境における適切な温度条件を確認します。
出力チャネル数
電源ICは、用途によって複数の出力チャネルを持つことがあります。単一の電圧の供給を必要とする場合にはシングル出力、複数の異なる回路に、複数の電圧の供給を必要とする場合にはマルチ出力(2チャネル以上)を行います。各チャネルが異なる電圧や負荷を供給する場合、最適な設計と制御が必要です。
保護機能
保護機能は、電源ICや周辺部品を異常な状況から守り、システム全体の信頼性を向上させる機能です。以下に基本的な保護機能とその役割を記載します。
-
過電流保護(OCP:Over Current Protection)
出力電流が定格を超えた場合に、電源ICや周辺部品の損傷を防ぎます。短絡時や重負荷状態への対応のため、重要です。また、動作中の負荷変動に対応できるかを確認する必要があります。
-
過電圧保護(OVP:Over Voltage Protection)
入出力電圧が定格を超えた場合に、電源ICや周辺部品の損傷を防ぎます。異常な昇圧や制御不良によって、発生する電圧負荷から保護します。
-
過熱保護(OTP:Over Temperature Protection, TSD:Thermal Shutdown)
電源ICや周辺部品が過熱した場合にシャットダウンし、熱による破損を防ぎます。温度が一定以下に低下後、再起動します。
熱抵抗(Thermal Resistance、Rθ)
熱抵抗は電力消費に伴い、上昇する温度を示します。単位は「℃/W(温度上昇/消費電力)」です。熱抵抗への対策には、ヒートシンクや放熱パッド、ファンなど取り付けが想定されます。
3.スイッチングレギュレータ(DCDCコンバータ)
スイッチングレギュレータ(DCDCコンバータ)は、スイッチング素子2つとコイル(インダクタ)、コンデンサによって構成されています。コイルとコンデンサ、スイッチング素子の配置を変えることで「降圧」、「昇圧」の動作が行うことができます。
DCDCコンバータにおける、設計時の優先確認項目について、下記に解説します。
変換効率(Conversion Efficiency)
変換効率は、DCDCコンバータが入力電力を出力電力に変換する際、どれだけ効率的に変換されるかを示す指標です。効率が高いほど無駄な電力損失が少なく、発熱やバッテリ消費が抑えられます。
動作周波数(Operating Frequency)
動作周波数は、DCDCコンバータが動作する際のスイッチング(電気回路のON/OFF)の頻度を指します。動作周波数が高いほど、回路の応答性が向上し、周辺部品のサイズを小型化することができます。一方で、変換効率や発熱にも影響を及ぼします。
暗電流(Quiescent Current, Iq)
暗電流は、DCDCコンバータの自己消費電流を指します。出力負荷が軽い、或いは無負荷の状態でも、DCDCコンバータの内部回路を維持するために消費されます。暗電流を最小限に抑えることで、待機電力の低減やバッテリ寿命の延命が図れます。
周辺回路構成
周辺回路構成は、DCDCコンバータが動作する際に、必要となるサポート回路や周辺部品の配置、接続方法を指します。周辺回路は、安定性、変換効率、動作条件、性能などに大きな影響を与えるため、設計時に慎重に検討する必要があります。以下に基本的な周辺回路とその役割を記載します。
-
入力フィルタ回路
電源からのノイズを除去し、安定した入力電圧を提供します。
-
出力フィルタ回路
出力電圧のリップル(微小な電圧変化)を低減し、安定した出力を確保します。
4.リニアレギュレータ(LDO)
リニアレギュレータ(LDO)はエラーアンプとトランジスタによって構成されています。「降圧」の動作のみ行うことができます。
LDOにおける、設計時の優先確認項目について、下記に解説します。
出力精度(Output Voltage Accuracy)
出力精度は、LDOが指定された出力電圧を、どれだけ正確に維持できるかを示す指標です。安定した電圧供給は、システム全体の性能や安定性に直結するため、LDOの出力精度は非常に重要なパラメータです。
出力ノイズ(Output Noise Voltage或いはOutput Noise Density)
出力ノイズは、LDOの出力電圧に現れる高周波成分やノイズの量を表します。特にアナログ回路やRF回路といった、ノイズに敏感な回路では、低ノイズLDOを選定し、最適なPCBレイアウトやフィルタリング手法を組み合わせることで、システム全体の性能を向上させることが可能です。
消費電流(Quiescent Current、Iq)
消費電流は、LDOの自己消費電流を指します。出力負荷が軽い、或いは無負荷の状態でも、LDOの内部回路を維持するために消費されます。消費電流を最小限に抑えることで、待機電力の低減やバッテリ寿命の延命に影響します。
リップル除去率(PSRR)
PSRR(Power Supply Rejection Ratio)は、入力電源に乗る高周波ノイズやリップルを、LDOがどれだけ抑制できるかを示す指標です。高いPSRRを持つ電源は、入力の電源変動が出力に与える影響を最小限に抑え、安定した電圧を供給します。
5.電源系統図
電源IC選定における設計手法の1つとして、電源系統図があります。電源系統図は、電源の供給、変換、配分、制御を示すための視覚的な図面です。この図は、電力システム全体の構成を理解するために用います。
上記の事例では、1つの電源(5.5V)から、昇圧型DCDCコンバータと降圧型DCDCコンバータを通して、周辺部品に電力を供給します。それぞれのDCDCコンバータに接続する周辺部品の消費電力から、必要となる条件(入力電圧、出力電圧、出力電力、変換効率など)を割り出し、条件に一致する電源ICを選定します。
6.Tips
過去に弊社が実施した「電源基礎ウェビナ・電源ICの動作原理と部品選択」にて、実際にあった質問と回答を紹介します。電源IC選定時の参考情報として、ご確認ください。
※電源基礎ウェビナに興味がある方は、こちらを参照ください
Q:
入力電圧(Vin)が変動する場合、スイッチングの周波数を変えることで、出力電圧を一定にするという理解でよいですか?
A:
その通りです。しかしながら、「スイッチングの周波数の変更」以外にも、「スイッチングのON/OFF比率(デューティー比)の変更」によって出力電圧を制御する方法があります。「スイッチングの周波数の変更」は「PFM制御(パルス周波数変調)」、「スイッチングのON/OFF比率(デューティー比)の変更」は「PWM制御(パルス幅変調)」と呼ばれます。一般的には、「PWM制御」が選択されることが多いです。電源ICには、他にも出力電圧を制御する手法があり、それぞれにノイズや効率の面で一長一短があります。目的に合わせた制御方式を選ぶことが重要です。
Q:
負荷変動への高速応答を考えた場合、DCDCコンバータとLDOのどちらが良いですか?
A:
設計の柔軟性の高さから、DCDCコンバータが選択されることが多いです。しかしながら、LDOにも負荷応答性を高めた製品もありますので、一概にどちらが良いとは言い切れません。負荷変動の状況(電圧、電流の変動量、時間)など求められる状況に合わせ最適な製品を選ぶことが重要です。
Q:
LDO内部の基準電圧(Vref)はどのように生成しますか?
A:
電源ICは内部に基準電圧を生成する回路構成を持っています。これはLDOに限らず、DCDCコンバータ、その他の電源ICも同様です。
Q:
出力電圧を制御するデューティー比は、どこまで変更可能ですか?
A:
製品によって異なりますが、0%(100%)に設定可能な製品も存在します。
Q:
インダクタの値はどのように決めますか?
A:
インダクタは、電源の出力に必要な電流能力や応答速度、スイッチング周波数などを考慮し、選択します。一般的に、値の決め方、計算方法は電源IC(DCDCコンバータ)のデータシートに記載されています。
7.まとめ
本記事では、DCDCコンバータとLDOの設計時における、優先確認項目の解説を行いました。解説した各項目は、システム全体の性能や、信頼性に直結する重要な指標です。電源ICの選定する際にご参考ください。
リョーサンでは、電源IC自体の選定から周辺部品(抵抗、インダクタ、コンデンサ)の選定まで、関連するご質問を受け付けております。下記のお問い合わせフォームより、お気軽にご質問ください。
(執筆者:伊藤正博)