建機・農機のGX "電動化が進まない理由"と解決方法
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- 更新日
- 2025.07.22
- 公開日
- 2024.07.08

GX(グリーントランスフォーメーション)という言葉をご存じでしょうか?GXとは、二酸化炭素排出量の削減を目指す取り組みのことで、建機(建設機械)・農機(農業機械)業界でもその流れが加速しています。油圧駆動からクリーンエネルギーによる電動化へと移行する企業が増えており、今後は「GXに対応しているかどうか」が製品選定の重要なポイントになると考えられます。
今回の記事では、建機・農機を電動化するにあたってのメリットや課題、またその解決策について解説します。
INDEX
1.建機・農機を電動化するメリット
建機・農機を電動化することにより以下のメリットがうまれます。
【排気ガス削減】
油圧駆動からモータによる電気駆動に代わるため、排出されるガスがなくなります。
例:スウェーデンの採石場で行われた試験では、電動化することでCO2排出量を98%削減することに成功しています。
【低騒音】
大型の油圧駆動音は非常に大きく騒音問題になることもあったが、電動化製品の場合、モータ駆動になるため、駆動音を大幅に小さくする事が実現できます。その為、都市部や閉鎖環境の工事にも向いています。
【作業時間制限の撤廃】
これまで日本の建設現場では、騒音や振動、排ガスなどの関係で、作業時間の制限があったが、モータによる電気駆動に代わることで環境に優しくなり、早朝や深夜など作業時間の制限がなくなり自由に作業することができます。
2.建機・農機の電動化が進まない理由(課題)
電動化が進まない理由としては以下が挙げられます。
①バッテリー稼働時間
バッテリー駆動になる為、稼働時間が油圧駆動よりも短くなります。
②電動化(モータ/インバータ)の知見
電動化(モータ/インバータ)の知見が必要になります。
③コスト
一般的に電動化すると現行の2~4倍程度のコストがかかると言われており、採用に至るまでにコスト面でのハードルがあります。
④パワー不足
化石燃料を燃焼して動かしていた油圧駆動に比べて、モータによる電気駆動ではパワーが落ちてしまいます。これは建設現場での電動化が難しい理由のひとつです。
⑤製品寿命
一般的にモータによる電気駆動の方が油圧駆動に比べ製品寿命が短いと考えられています。
※しかし電動化製品の活用が始まって月日が浅いため、実績がなくまだ比較は出来ません。
3.建機・農機の電動化動向と政府による後押し
近年、ヨーロッパを中心に環境規制が強化されており、建機・農機の電動化が進んでいます。それに伴い、CO2排出削減を目的とした電動化対応モデルが次々と発表されています。例として、建機業界では、全電動式油圧ショベルやホイールローダの開発が進み、一部地域では試験的に運用が開始されています。農機においても、電動式トラクタや電動収穫機の導入が進み、効率性と環境負荷低減の両立が期待されています。
3-1.日本のGX建機 導入ロードマップ
日本の建設機械は国際的に高い産業競争力を有している為、日本政府でも電動建機を中心としたGX建機の普及に向けて、導入促進策を検討する議論が行われています。
経済産業省は米国及びフランスにおける電動化目標や国内市場における電動建機(ショベル)の保有台数等を踏まえ、下記の「最大導入シナリオ」を設定しました。
車種 | 指標 | 2030年 | 2040年 |
---|---|---|---|
ミニショベル (6トン未満) |
電動新車販売台数 | 3千台 | 10千台 |
電動化率 | 10% | 30% | |
油圧ショベル (6トン以上) |
電動新車販売台数 | 1千台 | 6千台 |
電動化率 | 5% | 20% |
経済産業省のロードマップにより、建機業界は従来のディーゼルエンジン中心の建機から、電動建機の普及が加速すると見込まれています。こうした変化の中で、建機メーカには、GX時代にふさわしい競争力を確保しながら、環境負荷の低減や持続可能な社会の実現に向けて積極的に貢献していくことが求められています。
3-2.建機導入のための補助金制度
前章で導入が進まない理由について、コストが課題の一つと説明しました。このコスト面の導入のハードルを下げる為、JCMA(一般社団法人日本建設機械施工協会)が建機を導入する事業者向けに補助金制度を発表しました。
補助対象者
- 民間企業
- 独立行政法人
- 一般社団法人・財団法人・公益法人
- その他、環境大臣の承認を得た団体
補助対象製品
- 未使用のGX建設機械(交付決定後に購入契約を行うことが条件)
- GX建機と一体的に導入される可搬式充電設備(1台の建機につき1台まで)
補助金額
- GX建機本体:従来型建機との価格差の2/3
- 充電設備:購入価格の1/2
※より詳しい情報については「JCMA」のサイトをご覧下さい
JCMAの補助金制度は導入事業者向けですが、GX建機の需要が補助金によって増加することで、メーカは販売機会を拡大でき、量産体制の構築や製造コストの削減が可能になります。
4.モータ置き換えによる課題の解決法
今までの油圧駆動で製品を動かしていたお客様にとって、製品を電動化するという事は想像以上にハードルが高くなります。建機・農機の電動化に対する課題の中で、以下の2点の課題について解決方法を用意しております。
4-1.バッテリー稼働時間の改善策
バッテリー稼働時間を長くする改善策には、以下の方法が考えられます。
・モータ、モータ駆動部(インバータ基板)の小型化、軽量化
製品自体が重いと、駆動するために大きな力が必要となり、バッテリーの消費が増えます。また、小型化を行うことで、搭載できるバッテリーのスペースをより確保することが出来ます。その為、モータを軽量化する事で消費電力を抑えられ、更にモータを小型化した分、バッテリー容量を増やすことができ、稼働時間を長くすることが出来ます。
・高効率なモータ(ブラシレスモータ)の使用
ブラシと整流子が無いことで、機械損失がなくなり、小型化と駆動効率の向上を実現出来ます。その為、稼働時間を長くすることが出来ます。
・モータの発熱を軽減
高効率で回転させることにより、電力損失を減らし、モータの発熱を抑えることが出来ます。その為、稼働時間を長くすることが出来ます。
・インバータ基板にパワーデバイスを使用し、高効率化
SiCやGaNパワーデバイスは従来のシリコンベースのデバイスに比べて高効率なエネルギー変換を実現することが出来ます。
詳しくは別記事を作成しておりますので、ご参照ください。
現状のモータ駆動では、長時間の連続稼働が課題になっており、充電インフラの整備やバッテリー交換システムの開発が進められています。
4-2.電動化(モータ/インバータ)の知見が必要な理由
電動化=モータ制御になるため、モータを動かす電気的な知見が必要になっていきます。
4-1.で記載している、モータ/インバータについてですが、基本的にモータとインバータはセットで使用します。インバータは周波数を自在に変更することができ、周波数はモータの回転速度に影響を与えるため、この性質を利用して、インバータによって周波数を制御することで、モータの回転速度を連続的かつ自在に制御することが出来ます。しかし、モータ制御には様々なアルゴリズムがあり基本を押さえることも数学的知識が必要となります。また負荷に合わせた適切なパラメータチューニングを行わなければ、性能が十分に出ないという課題もあります。
5.まとめ
建機・農機の電動化ハードルが高い一面もありますが、排気ガス削減、低騒音、そして作業時間制限の撤廃など、さまざまな面で有益です。この流れは一時的なものではなく、今後の業界構造そのものを左右する重要な転換点となるため、建機・農機メーカは早い段階から技術開発や体制整備に取り組むことが不可欠です。建機・農機の電動化が進んでいく今、一足先にモータのご検討をしてみてはいかがでしょうか?
当社のパートナーはモータ、インバータ制御において豊富な実績及び制御知見を持っています。お客様課題の解決に向けて、インバータ試作開発から量産対応、最適モータの提案までお客様ニーズに合わせたご提案をさせて頂きます。今まで電動化の検討が出来なかったお客様に対して製品開発(電動化対応)が進むことにより、GX、カーボンニュートラルの実現、またお客様の企業イメージUPに繋がると考えております。
(執筆者: 深田新、山口央、編集者:安西滉樹)