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なぜ、コネクタメーカがスマートテキスタイルに注目したのか

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  • 更新日
  • 公開日
  • 2023.09.20

 「スマートテキスタイル」は、着用している衣服から身体に関するデータをセンシングする技術です。衣服に取り付けられるコネクタは、衣服ごと洗濯機で洗われるなど一般の電子機器とは異なる環境に耐える必要があります。実はいま、洗濯機で洗っても壊れない、魔法のようなコネクタがあることをご存知でしょうか?
 本記事では、国内屈指のコネクタメーカ:日本航空電子工業(株)がなぜ「スマートテキスタイル用コネクタ」を開発したのか、その秘密に迫ります。

1. センサを着用するとは?

 心拍数や歩数、カロリー消費量などをリアルタイムに収集し、健康管理をサポートするウェアラブル機器が普及しています。ウェアラブル機器と言えば「時計型」、「ブレスレット型」、「メガネ型」のイメージが先行していますが、「衣料型」の開発や実用化も進んでいます。衣料型ウェアラブル機器は、スマートテキスタイルと呼ばれていて衣服を着るとともにセンサを着用するスタイルです。スマートテキスタイルは、従来のウェアラブル機器に比べていくつもの優位性があります。

<衣料型ウェアラブル機器の優位性>

  • 身体の動きへの追従性に優れ、複数個所での計測や全身の動きを測定できる。
  • センサを体表面(特に心臓部)に密着でき、高精度な生体データが取得できる。
  • 「服を着る」という日常的な行動のみで着用にストレスがなく、長時間の測定に適している。

2. スマートテキスタイルで使われるコネクタ

 スマートテキスタイルでは、センサとなる導電繊維が編成/印刷された衣服に、センサデータを無線送信する小型トランスミッタを装着します。トランスミッタは電子機器ですので、衣服を洗濯する際などに備えて着脱可能な構造になっていることが求められます。スマートテキスタイルの初期検討では、トランスミッタの取り外し用に服飾用の金属スナップボタンが使用されていました。しかし服飾用部品の流用なので、電気的な接触信頼性や、接点数などに課題がありました。

 これらの課題に、電気を専門とする電子部品のコネクタメーカが立ち向かいます。基礎研究からの製品開発の末、2020年にスマートテキスタイル向け専用コネクタ「RK01」をリリースしました。このコネクタは洗濯が可能な防水機能を備えていて、1つのコネクタで多極化も可能です。スマートテキスタイルの普及を支えるキーパーツになるでしょう。

3. 開発メーカ:日本航空電子工業(株)へインタビュー

Q. なぜ、コネクタメーカの日本航空電子工業(株)がスマートテキスタイルに取り組み始めたのですか?

日本航空電子工業株式会社 製品企画部 古本様
日本航空電子工業株式会社
製品企画部 主任 古本様

 その理由は、大きく2つありました。1点目は、異業種間の協業への取り組みです。例えば、IoTの普及による住宅内設備のスマートホーム化や自動車の電動化などに応じて、異業種の企業同士の協業が進んでいます。弊社としては、そういった分野における新たな接続技術の開発を推進していました。スマートテキスタイルについては、いくつかの要素技術開発から始める必要がありました。アパレル業界特有の洗濯への対応や、有機物の衣料に無機物のコネクタを接続する方法の確立などです。異業種協業の中でも、特に創造性に富んだ製品開発ができる分野だと思いました。

 2点目は、高齢化社会におけるサステナブルな社会の実現への貢献です。その手段としてスマートテキスタイルへの期待は大きいです。スマートテキスタイルでは、従来のスマートウォッチでは実現が難しい機能を実現できます。例えば、高精度なバイタルセンシング、人体のモーションセンシング、人体に電気刺激を与えるEMS機器の機能などです。これらの機能は予防医療の分野へ活用できますので、健康寿命を延伸し労働人口減少などの社会問題の解決手段につながります。

 スマートテキスタイルは一部の分野で既に実用化されていましたが、当時のコネクタはスナップボタンなどの衣料部品やポゴピンがほとんどで、専用のコネクタはありませんでした。こうした背景から、高い接続信頼性を保ちながら、今後の高機能化にも対応できるスマートテキスタイル専用コネクタを開発することが決まりました。

Q. スマートテキスタイル市場の今後のトレンドをどのように見ていますか?

 主に3つの分野で、スマートテキスタイル製品が求められていくと考えています。

 1つ目は予防医療の分野です。予防医療は、一次予防(病気の発生を防ぐ)、二次予防(重篤化を防ぐ)、三次予防(リハビリ等による機能回復)の役割があります。一次予防では、EMS機器(電気的筋肉刺激装置:筋肉に電気刺激を与える機器)を用いた生活習慣改善が既に商業化され、利用が広まっています。二次予防については、正確なバイタル情報のモニタリングによる疾病の早期発見や、モーションセンシングによって認知症の兆候を早期発見する研究などが進んでいて、スマートテキスタイルが活用されると考えています。三次予防では、リハビリを自律的に行うためにスマートテキスタイルを活用するアプリケーションが研究されています。

 2つ目は、見守りの分野です。建築現場の作業者の体調管理や、高齢者の見守りを目的とするスマートテキスタイルの製品化が始まっていて、今後普及していくと考えています。

 3つ目は、QoL(Quality of Life)の分野です。例えば、高齢者が尿失禁になったときに膀胱の状態を検知して知らせるスマートテキスタイル製品が開発されています。また、フェムテック領域ではスマートテキスタイルを活用した経血量計測の研究が進んでいます。

Q. お話頂いた3つの分野について、コネクタに求められる機能は異なるのでしょうか?

 すべての分野で複数種類の高精度なセンシングが必要になってきます。コネクタには、多極対応や高い接触信頼性が求められると考えられます。

Q. 新たなアプリケーション向けのコネクタとして、開発ではどのような点に苦労されたのでしょうか?

苦労点1:テキスタイル側コネクタのプラグコンタクト形状

 初期の試作コネクタでは、小型化を目指してテキスタイル側コネクタの突起状のプラグコンタクトをなるべく小さく作りました。ところがお客様に見てもらったところ、プラグコンタクトの先端が尖っていて触れると痛いという意見が挙がりました。人が日常的に触れる衣服であるからこそのご指摘でした。さっそく既存の衣服のスナップボタンを調査し、新たなプラグコンタクトのサイズや形状の検討に着手しました。プラグコンタクトを触ったときの感触に関するアンケートを社内で行うなど、多くの方の意見も参考にして触ったときに痛くない範囲でできるだけ小型のプラグコンタクトを開発しました。

スマートテキスタイル用コネクタの構成
スマートテキスタイル用コネクタの構成

苦労点2:トランスミッタ側コネクタのレセプタクルコンタクト

 トランスミッタ側のレセプタクルコンタクトの構造にも苦労しました。服飾用スナップボタンと違って、1つの絶縁物に複数の端子を固定する構造のため、製造上の端子位置ズレによって接触不良が起こる懸念があったのです。比較的大きな位置ズレを許容させる必要があったため、端子が可動する仕組みのフローティング構造を採用する方針で検討を進めました。フローティング構造ではプラグコンタクトが座屈しやすくなります。座屈することなく安定接触を保てるように独自設計を行い、シミュレーション解析を繰り返し行いました。このフローティング構造は、製造上発生する位置ズレ量の吸収のほかに、振動や衝撃時にも接続品質を保つ信頼性にも役立っています。

苦労点3:防水構造

 衣服として洗濯機などで丸洗いされることを想定して、防水構造にも気を遣いました。テキスタイル側コネクタの内部に浸水しない構造にしているのですが、お客様の衣服表面にあるセンサ配線の材質や厚みによって、防水構造の効果に違いが生じることが分かりました。こちらも試作評価を繰り返し、洗濯に耐える防水性能を持たせています。

苦労点4:材料選定

 こちらも洗濯と関連しますが、洗濯によって端子の金属が腐食したり、特性が変化する懸念がありました。基本的に、腐食しにくい材料を選べば洗濯耐性は高まるのですが、表面の酸化被膜が強く接触安定性に問題が生じてしまいます。今回のスマートテキスタイル用コネクタでは、この端子金属の素材選びから基礎研究を行っています。洗濯の前後での接続安定性、繰り返し挿抜、環境評価など多数の試験の末、ようやく使用する材料を決定できました。

Q. 開発には多くの困難があったのですね。製品化まで何年ほどかかったのでしょうか?

 まず基礎研究に3年かけています。弊社は、お客様が先進的な製品を開発するときに欲しいソリューションが既に揃っている、言い換えれば未来の技術を持って待ち伏せするという開発スタイルを目指しています。今回のスマートテキスタイルコネクタについても、お客様から検討案件のお話を頂いたタイミングでは我々の基礎研究は既に完了していました。お客様と最終的な仕様の合わせ込みを進めて、約1年で最終製品のリリースに漕ぎつけました。我々のニーズを先取りした製品開発が、お客様の先進製品の早期リリースに役立てた事例であると捉えています。

Q. ここが他とは違う!どんな使い方をしてほしいですか?

テキスタイル側コネクタ参考外形(4極、12極)
テキスタイル側コネクタ参考外形
(4極、12極)

 多極対応で小型です。センシングの多機能化のために、衣服側センサとトランスミッタの間には複数の信号接続が必要になります。複数個の服飾用スナップボタンを使って接続する場合は、ボタン間のピッチを広く取って、ユーザがボタンを1個ずつ留めなければなりません。RK01では、ピッチが最小化された1つのコネクタで、ユーザはワンアクションで嵌合できます。現在、1コネクタで20極までの多極化実績があります。

 ワンアクションでの嵌合は、取り外すときのメリットにもなります。例えば人体に電流を流すEMS機器の場合、万一イレギュラーな動作が発生してユーザが危険を感じた時にワンアクションで即座に取り外しができ、使用上の安全性にも繋がります。

Q. 今後のRK01シリーズの発展について教えて頂けますか?

 さらなる小型化を目指します。RK01は、アパレル関連のお客様に幅広く使って頂けるように、あえて少し大きなピンピッチに設定しています。テキスタイル側の配線ピッチの課題から、ある程度大きなピッチが必要だった事情もあります。一方で小型化の要望も頂いておりますので、小型コネクタの開発、またコネクタを小型化してもお客様側では簡単に実装できるような仕組みの製品を考えています。

 将来的には、固形物ではなく柔軟性のある形状にも取り組みたいと考えています。トランスミッタ側もフレキシブルに対応できる必要がありますのでハードルは高いのですが、衣服としての使いやすさや安全性につなげられると思っています。

4. まとめ

 スマートテキスタイルに取り組むきっかけから、開発での苦労点や今後の展望までお話を伺いました。スマートテキスタイルでの使用スタイルに合わせて、よく考えられた唯一無二のコネクタであることをご理解頂けたと思います。本コネクタの詳細ついてご興味がございましたら、お気軽に弊社までご相談ください。

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