工場無線化におけるWi-Fiのメリット、デメリット
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- 更新日
- 公開日
- 2024.01.22
通信速度や安定性が高い有線LANは、工場などの産業現場でもよく使われていますが、ケーブル敷設の手間やコストがかかることがデメリットです。工場ラインの組み替えなど、配線変更が頻繁に発生するような現場では、より顕著な課題となっています。これに対する有効な対策の1つとして、「無線化」が挙げられます。
1. 工場無線化に向けた無線方式の選定
工場を無線化するにあたり、まずは無線方式を選定することになりますが、その際には以下の項目について確認する必要があります。
- 用途・アプリケーション
- 使用場所・距離
- データの種類・大きさ
- 通信速度・通信頻度
- 接続端末数
- 許容されるコスト
通信速度が速い、あまり大きなコストはかけられない、容易に導入したいなどの条件が付く場合、最も広く普及している方式は、皆様よくご存じのWi-Fiです。本記事ではこのWi-Fiに注目し、そのメリット、デメリットについて考えてみたいと思います。
2. 無線機器の選定における課題
無線の導入時には、乗り越えなければならない様々な課題があります。
- 敷地内に点在する建物や、その建物を覆う壁
- 無線機器を覆う金属の筐体
- 様々な機器から出るノイズ
- 付近に置かれている他の無線機器
- 使用エリアに舞うホコリや油、水、etc.
また実際の工場などでは、個人や会社の持ち物としてスマートフォンなどが持ち込まれているケースもありますので、それら機器との電波干渉なども考慮する必要があります。
上記の課題を、以下の言葉で整理してみました。
- 電波の遮蔽と減衰
- 電波の干渉
- 帯域幅の競合
- 防塵・防水・防油性
無線機器を選定して現場に設置するまでに、どのようにこれらの課題をクリアするかについて、留意する必要があります。
それでは次項より、Wi-Fiについて解説したいと思います。
3. Wi-Fi規格の歴史
一般的に Wi-Fi とは、IEEE 802.11 と呼ばれている通信規格を指します。
その歴史は古く、その第1世代は1997年に策定されています。その後11b、11a、11g、11nと更新されると共に高速化され、2014年には11ac、そして2021年には11axが策定されました。またこの呼称は、2018年にWi-Fi Allianceによって以下のように変更されています。
IEEE802.11n → Wi-Fi 4
IEEE802.11ac → Wi-Fi 5
IEEE802.11ax → Wi-Fi 6
次世代の規格となるWi-Fi 7は、Wi-Fi Allianceから Wi-Fi CERTIFIED 7TM として発表されました(2024年1月8日)。
これらの規格について、図にまとめてみました。
4. Wi-Fi 6/6Eの特徴
第6世代のWi-Fi 6/6Eには、下記のような特徴があります。
- 安定性:同時通信技術により、複数デバイスが接続された環境下での通信安定性が向上
- 省電力:送信パケットを最適化することで、消費電力を削減
- 高速性:使用可能なチャネルの増加により、データ通信が高速化
安定性:
第6世代(Wi-Fi 6/6E)では、MU-MIMO や OFDMA、BSS Coloring といった同時通信技術の採用で、複数デバイスが接続された際の通信の安定性が向上しました。
・MU-MIMO(Multi-User MIMO/マルチユーザ マイモ)
MIMO(Multiple-Input and Multiple-Output/マイモ)は、送信・受信双方のアンテナを利用して、データの送受信を高速化する技術です。この MIMO を複数のデバイスで行うようにしたものを MU-MIMO と呼びます。
第5世代(Wi-Fi 5)で MU-MIMO が採用されましたが、ダウンリンクのみの適用でした。
第6世代(Wi-Fi 6/6E)では、アップリンクにも MU-MIMO が採用され、最大8台までの同時通信が可能になりました。
・OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access/直交周波数分割多元接続)
OFDMAは、周波数分割と時分割を組み合わせる事で、通信チャネルを多重化する技術です。
第5世代(Wi-Fi 5)で採用されたOFDMでは、複数の端末が接続された場合、1つのチャネル帯域を時間毎に占有し、順に処理を行います。データ量が多い/少ないに関わらず、接続された端末ごとに占有時間が発生するため、第6世代と比較すると非効率な運用と言えます。
第6世代(Wi-Fi 6/6E)では、1チャネルの通信帯域を分割して端末に割り当てる周波数スケジューリングを行うことで、複数端末との同時通信を行っています。これによって時間毎の通信データ量が増加し、効率的な通信が可能となりました。
・BSS Coloring(ビーエスエス カラーリング)
BSS Coloringとは、隣接するアクセスポイント同士のチャネル干渉の影響を抑えるための技術です。
第5世代(Wi-Fi 5)では、隣接する複数のアクセスポイントが同一チャネルを使用していると干渉が発生してしまい、通信の待機時間が発生していました。
第6世代(Wi-Fi 6/6E)では、隣接するアクセスポイント毎に別々のカラーコードを設定することで、同一チャネルの通信でも干渉の影響を最小限に抑えることが可能になりました。2.4GHz帯はチャネル数が少ないため、このBSS Coloringの効果がより顕著になります。
省電力化:
・TWT(Target Wake Time)
TWTは、アクセスポイントと接続された端末のスリープ時間を個別にスケジューリングし、個々の端末が起動するタイミングをずらすことで、不要な動作を減らして省電力化する技術です。
第5世代(Wi-Fi 5)には、DTIM(Delivery Traffic Indication Message)という機能があります。これはアクセスポイントに接続された全端末が、設定された時間で定期的に起きてデータの有無を確認するものです。起きる必要の無い端末も起こされてしまう仕組みであるため、不必要な動作が発生していました。
第6世代(Wi-Fi 6/6E)では、TWTによって端末のスリープ動作が効率化されることで、消費電力の削減に繋がっています。
高速性:
第6世代(Wi-Fi 6/6E)では、変調方式に 1024QAM を採用し、さらに160MHzのチャネル幅を持つことによって、通信速度が第5世代(Wi-Fi 5)に対して約1.4倍になりました。
・1024QAM
第5世代(Wi-Fi 5)では、変調方式に 256QAM を採用しており、1シンボルで8bit(2の8乗)の信号を送ることができます。
第6世代(Wi-Fi 6/6E)では、1024QAM の採用により、1シンボルで送ることが出来るデータ長が10bit(2の10乗)となり、送信可能なデータ量が25%増加しました。
・160MHzのチャネル幅
第6世代のWi-Fi 6Eでは、新たに6GHz帯が追加されたことによって、使用可能なチャネル数が大幅に追加されました。よって同時使用可能なチャネルを多く確保することができるため、安定した高速な通信が可能になります。
5. Wi-Fiのメリット、デメリット
Wi-Fiのメリット
Wi-Fiのメリットとしては、
- 通信速度
- コスト
- 免許
が挙げられます。
- 通信速度
現在の無線通信規格としては、最も速い通信規格の1つです。
- コスト
初期導入コストとして機器費用と設置費用、運用コストとしてメンテナンス費用が想定されます。規模にもよりますが、数万~数十万円程度でWi-Fiのアクセスポイントを導入することができます。
- 免許
無線局免許が不要なので、初期導入の手間やコストを抑えることができます。
Wi-Fiのデメリット
Wi-Fiのデメリットとしては、
- 通信距離
- 消費電力
- 電波干渉
が挙げられます。
- 通信距離
通信距離としては数百m程度であり、長い距離を飛ばすには専用のアンテナや中継機が必要となります。
- 消費電力
消費電力が多いため、機器への安定した電力供給が必要です。
- 電波干渉
設置する機器数が増えるに従い、それぞれの機器からの電波干渉が懸念されます。第6世代ではBSS Coloringなどの干渉を抑える機能を採用していますが、干渉が発生してしまう可能性は考慮しておく必要があります。
産業現場への導入には、これらのメリット、デメリットを考慮する必要があります。
6. ユースケース
工場をはじめとした産業現場においては、各種用途に合わせた様々な機器によるネットワークが組まれています。
- 汎用機器:PC(ラップトップ、タブレット)及び周辺機器(スキャナ、電話機等)
各種機器の操作や管理だけでなく、多岐にわたる用途が想定されます。
- 管理機器:監視カメラ、センサ類(人感、温感等)
各種機器の作動状況や就業者の状態、特定区画への立ち入りといった人/モノの管理が想定されます。
- 産業機器:工場ライン機器等
工場ライン自体の管理の他、AGV(Automated Guided Vehicle/無人搬送機)によるラインの省人化が想定されます。
- 医療機器:各種医療装置、ヘルスケア機器等
各種医療データの一元管理により、医療業務の効率化や患者の健康状態管理等が想定されます。
- 事務機器:携帯事務類(ラベルプリンタ、ハンディターミナル等)
事務に関わる各作業や、資料のオンライン化等が想定されます。
7.まとめ
各種の機器を無線化するに当たり、通信速度が速く、コストを抑えて容易に導入できることが条件になる場合は、Wi-Fiが最適な通信方式として挙げられます。また、条件によってはWi-Fi以外の無線通信方式との組み合わせが、最適なネットワークとなるケースもございます。
御検討の際には、是非当社にご相談下さい。
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