EMIについて- 第2回 - EMIの規格と測定
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- 更新日
- 2023.09.15
- 公開日
- 2023.07.18
1. はじめに
連載初回だった前回は、EMIが問題になるケースやその影響について説明しました。EMIをより理解して頂くために、今回はEMIの規格と測定について説明します。測定の対象や方法を理解する事で、以降に掲載する原因や対策がよりイメージし易くなると思います。
2. 電磁波とは
前回の記事に、「電磁波」というワードが出てきました。電磁波を発するものとしては、屋外では電信柱や鉄塔・変電所、屋内ではテレビ・冷蔵庫・電子レンジ・パソコン・携帯電話などの電化製品が挙げられます。「電磁波」は、目には見えませんが、普段の生活で日常的に触れている存在なのです。
この電磁波とは、電界と磁界が伝わる波のことを指します。回路設計においては、磁界・電界は信号線だけでなく、電源や回路の基準となるGNDからも発生します。この項では、この電界と磁界、電磁界、そして電磁波について説明します。
① 電界とは
電界は、空間に電圧がかかると発生しますので、電気信号が伝搬される配線にも電界は発生します。
② 磁界とは
フランスの物理学者アンペールさんが発見した右ネジの法則のとおり、磁界は、電流が流れている物(コイルや基板配線など)の回りに、右向きに円を描くように発生します。
③ 電磁界とは
電磁界とは、電荷や電流によって生成される電界と磁界の組み合わせで形成される場を指します。配線に電圧がかかることで電界が生じ、負荷の接続により電流が流れ磁界が生じるので、総じて「電磁界が生じる」と言えます。
④ 電磁波とは
電磁波は、電界と磁界の相互作用によって生じるエネルギーが伝播する波のことです。この電磁波は空間を伝わり、エネルギーを運びます。
3. 磁界の作用の応用(差動信号)
差動信号(差動伝送)とは、2本の信号線(D+、D-)で1つの信号を伝送する方式です。D+とD-にはそれぞれ逆向きの電流が流れることで、対向した磁界が発生して互いに打ち消し合うため、ノイズが発生しにくくなります。更に、差動信号の1本は正位相(正相)、もう1本には逆位相(逆相)の信号が出力されますが、逆位相の信号は受信端で反転して加算されるため、両信号に入った外部ノイズは打ち消され、伝搬先にノイズが伝わりにくくなるメリットもあります。
4. EMI規格
EMIには、規格に沿った測定方法や、定められた「超えてはいけない値」が存在します。また、規格上は問題が無くとも、特性の劣化があると問題になりますので、注意が必要です。
EMI規格に関する国際機関としては、国際規格を標準化する「IEC(国際電気標準会議)」と、その特別委員会である「CISPR(国際無線障害特別委員会)」があります。また、実際に準拠しなければならない規格として、「VCCI」「FCC」「CE」「CCC」等の、各国や各地域で定められたEMI適合規格があります。
表1. EMIに関連する国際機関・規格団体
対象地域 | 国際機関・規格団体 | 概要 |
---|---|---|
Global | IEC (国際電気標準会議) 英語表記:International Electrotechnical Commission |
電気・電子技術分野の国際規格を標準化する機関で、各国の代表的標準化機関で構成 日本は1906年の設立当時からJISC(日本産業標準調査会)が参加 |
Global | CISPR (国際無線障害特別委員会) 仏語表記:Comite international Special des Perturbations Radioelectriques 英語表記:International Special Committee on Radio Interference |
IEC(国際電気標準会議)の特別委員会 無線障害要因となる各種機器からの不要電波(妨害波)の許容値と測定法について国際的に合意し、国際貿易を促進させる目的で設立 ITU-R(国際電気通信連合無線通信部門)やICAO(国際民間航空機関)の要請に応じて無線妨害に関する特別研究を引き受けるなど、他の国際機関と密接に協力 日本からは約20人が審議に参加しており、6つある小委員会のうち、B小委員会(工業、科学及び医療用高周波装置からの妨害並びに電力線、高電圧及び電気鉄道からの妨害)とI小委員会(マルチメディア機器等の妨害及びイミュニティ)は日本が幹事国となっている 日本国内での審議団体は、総務省総合通信基盤局電波部電波環境課 |
日本 | VCCI (情報処理装置等電波障害自主規制協議会) 英語表記:Voluntary Control Council for Information Technology Equipment |
情報処理装置等電波障害自主規制協議会が定めた、情報処理機器のノイズに関する認証規格 |
北米 | FCC (連邦通信委員会) 英語表記:Federal Communications Commission |
アメリカ合衆国・カナダ向けに無線機器や情報処理技術装置を輸出する際に必要となる、安全基準を満たすことを証明する認証規格 |
欧州 | CE 仏語表記:Conformité Européenne (Communauté Européenneという説も有ります) |
EU加盟国向けに輸出する際に必要となる、EU各国を統一した安全基準を満たすことを証明する認証規格 |
中国 | CCC (CCC認証) 英語表記:China Compulsory Certification |
中国の国家安全保護や人体の健康・安全の保護、環境保護を⽬的とした、強制製品認証制度 |
この他にも日本国内では守らなければいけない法規として、「電気用品安全法」があります。これは電気用品の障害等の発生を防止して、安全性を確保するための規制で、一部EMCに関する内容も含んでいます。
5. EMIの測定(機器)
EMIの測定には様々な手法がありますが、代表的な方法として、下記の2つがあります。
- 雑音端子電圧試験:電源、GND、入出力端子に伝導するノイズを測定
- 不要輻射試験:実際に機器から出ている放射ノイズ(放射されている電磁波)を測定
① 雑音端子電圧試験(伝導ノイズの測定)
機器の電源ラインや通信ラインの伝導ノイズの測定を行う試験です。試験対象へは疑似電源回路網(Line Impedance Stabilization Network または Artificial Mains Network)を経由して電源を供給し、ここで観測されたノイズを、EMIレシーバで測定します。
ノイズ測定の正確性と再現性を高めるためには、電源線のインピーダンスを一定にする必要があります。この疑似電源回路網を経ることで、試験対象から見た電源線のインピーダンスを一定に出来るので、電源線から流出する高周波電圧を測定器(EMIレシーバ)に伝えられます。測定可能周波数は数百kHz~数十MHzです。
② 不要輻射試験(放射ノイズの測定)
アンテナを使用して、試験対象から空中に放出された電磁波の強度を測定する試験です。周囲からの影響を防ぐために電波暗室を利用し、試験対象を回転させてアンテナの高さや位置を調整しながら、各周波数で最も強い強度の電磁波を測定します。受信アンテナと試験対象との距離は、規格で3m又は10mと定められています。測定可能周波数は数十MHz~数GHzです。
6. EMIの測定(半導体デバイス)
半導体デバイスでのEMI測定方法には、機器の測定と同様、下記の2通りが存在します。
- 電流ノイズの測定(電源/GNDの電流を測定)
- 放射ノイズの測定(デバイスが出す電磁波を測定)
デバイス単体の測定に関する法的な規定としてはJEITA ED-5008などがありますが、測定対象のノイズの周波数・強度を測定しておくことで、機器設計で参照出来ます。
① 電流ノイズの測定
電流ノイズの測定方法には、デバイスのGNDに1Ω抵抗を挿入して流れる電流を測定する「VDE法」と、電源に流れる電流を測定する「MP法」があります。「VDE法」には、抵抗の定格電力の許容値や、高周波電流測定に対する精度の問題があるので、高周波を取り扱われる方は、ご注意ください。
・VDE法
- デバイスのGNDと周辺のGNDの間に1Ωを挿入し、その1Ωに流れた電流により生じる電圧を測定
- 測定可能周波数としては数十MHzまで
・MP法
- 電源に現れる磁界を磁界プローブ(Magnetic Probe)にて取得
- 取得したデータに対し、パターンの太さや基板の構造で決まる構成係数を掛ける事で、電流値に変換
- 測定可能周波数は数MHz~数GHz
② 放射ノイズの測定
デバイスから放射されるノイズだけを測定するため、デバイスを専用のケースに入れ、スペクトラムアナライザを用いて放射ノイズを測定します。
・TEMセル法
- TEMセル測定用の専用ケースの穴に試験基板をはめ込み、基板のGNDとケースを接続
- ケース内にはデバイスのみが露出した状態で、放射する電磁波を測定
- 測定可能周波数は数MHz~数GHz
7. まとめ
今回は電磁波に関する基本的な内容、EMIの規格、代表的な測定方法について説明しました。
EMIとは、電子機器から出る電磁波が他の電子機器に影響を及ぼす現象であり、電磁波とは、電流による磁界や電圧による電界の総称です。EMIは周囲に影響を及ぼすため、様々な形で規格化されており、様々な手法や試験によって、放射される電磁波強度の測定が取り決められています。
これらを踏まえた上で、次回はEMIの発生要因について説明します。