EMIについて- 第3回 - EMIの発生要因

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  • 更新日
  • 2023.09.15
  • 公開日
  • 2023.07.25

1. はじめに

 前回はEMIの規格と測定について説明しました。EMIが発生する要因は、主に信号系ノイズ、電源系ノイズ、導体ノイズに分けられます。連載3回目の今回は、各ノイズの特徴と発生要因について説明します。これらを知ることで、対策への理解がより深まると思います。

2. EMIの発生要因(信号系ノイズ)

 信号系ノイズは、信号が伝わる配線から発生します。配線容量に電流が流れる事によって磁界ノイズにもなりますが、配線容量は小さいので流れる電流が小さいため、電圧により発生する電界ノイズの方が支配的になります。

図1. 信号系ノイズの発生
図1. 信号系ノイズの発生

3. EMIの発生要因(電源系ノイズ)

 電源系のノイズは、主にデバイス内部のプッシュプル回路に生じる貫通電流と、信号と配線容量に依存したチャージ/ディスチャージ電流に起因します。電流が導体を通ることで電圧降下が起こり、電流により磁界も発生します。

 例として、デジタル回路(インバータ)の出力構成で、プッシュプル回路のMOSFETをスイッチに置き換え、この時の動作を考えてみましょう。

図2. デジタル回路の等価イメージ
図2. デジタル回路の等価イメージ

 VCC側のスイッチが短絡、GND側のスイッチが解放されている時は、VCCからスイッチを経由して、出力の配線パターンに寄生している容量(配線容量)へ電流が流れ込みます(チャージ)。反対にVCC側のスイッチが解放、GND側のスイッチが短絡されている時は、配線容量からGNDへ電流が引き出されます(ディスチャージ)。

図3. 電源ノイズの発生メカニズム(チャージ/ディスチャージ)
図3. 電源ノイズの発生メカニズム(チャージ/ディスチャージ)

 VCC側のスイッチとGND側のスイッチが同時に短絡してしまうと、VCCからGNDへ瞬間的に電流が流れてしまいます(貫通電流)。この貫通電流が流れることを避けるため、一般的には同時スイッチングさせない対策が施されます。

図4. 電源ノイズの発生メカニズム(貫通電流)
図4. 電源ノイズの発生メカニズム(貫通電流)

 以上のように、スイッチ動作をする際に発生する電流の押し引きにより、電源系ノイズが起きると考えられます。

4. EMIの発生要因(導体ノイズ)

 放射されるノイズ以外にも、電源/GNDの配線インピーダンスに電流が流れ、導体のノイズに変換され、他回路に影響を及ぼすケースがあります。

 図5-①に示す回路A・Bの電源電圧はVCCで共通ですが、回路Aの電源から回路Bの電源・GNDまでの基板上の配線パターンには、それぞれ抵抗やインダクタンスなどのインピーダンス(Z)が存在します。

図5-①. 電流ノイズ_導体ノイズ
図5-①. 電流ノイズ_導体ノイズ

 回路Bで必要とされる電流がこのインピーダンスに流れることで、電圧降下が発生します(オームの法則)。

図5-②. 電流ノイズ_導体ノイズ
図5-②. 電流ノイズ_導体ノイズ

 電圧降下の影響は、導体ノイズとして他の回路に伝搬することになります。図ではGNDを経由して回路Aに影響(GNDノイズ)を及ぼします。レアケースではありますが、供給される電圧がデバイスの下限値を下回ると、回路の動作が止まってしまう事もあります。

図5-③. 電流ノイズ_導体ノイズ
図5-③. 電流ノイズ_導体ノイズ

5. 信号系ノイズのスペクトルについて

 信号が生成する電界は、信号のスペクトルと同じ周波数で発生します。

 スペクトルとは、信号を各成分に分解し、成分ごとの大小に従って分布を記録したものです。信号がsin波であれば、その周波数のみのスペクトルとなりますが、Duty50%で構成される方形波は基本波、3倍波、5倍波・・・のsin波の合成波であるため、1次、3次、5次・・・と奇数次(奇数倍)の高調波が現れます。

 またこの高次のノイズは、バッファのドライブ能力が高く波形の立ち上がり・立ち下がりが速い、つまり立ち上がり時間(tr)や立ち下がり時間(tf)が短いほど、高い周波数までノイズが出力されます。

 sin波のスペクトルは、単一の周波数のみにスペクトルが存在します。図6の場合は、100Hzのみにスペクトルが現れています。

図6. sin波のスペクトル
図6. sin波のスペクトル

 Duty50%の方形波は、奇数次の信号の合成波です。

図7. 方形波(Duty50%)の成分
図7. 方形波(Duty50%)の成分

 この方形波をフーリエ変換すると、奇数次のスペクトルが現れますが、方形波の立ち上がり/立ち下がりを遅くする、つまりtrやtfを長くする事で、奇数次のスペクトルが減る事が分かります。

 インターフェースとしてよく用いられるSPI等で代表的なスペクトルは、クロック信号です。クロック信号のDutyは概ね50%であり、出力信号周波数の奇数次への影響が大きいと考えられます。

図8. 方形波(Duty50%)と(Duty50% tr/tf Slow)のスペクトル
図8. 方形波(Duty50%)と(Duty50% tr/tf Slow)のスペクトル

 Dutyが50%でない場合は、偶数次(偶数倍)の高調波も現れます。SPI等のData信号はHigh/Lowの幅が固定でない場合が多く、単一のスペクトルになりづらいのですが、ラジオチューナ等ノイズにセンシティブな機器の場合は、Data線から出るノイズの影響を受けることもあります。

 電源やDクラスアンプに使われるPWM(Pulse Width Modulation)やPDM(Pulse Density Modulation)出力では、電圧を半分に固定する、つまりDutyを50%で固定するケースは多くないため、偶数次のスペクトルが出てきます。またPWMやPDMは大電圧・大電流で使用されるケースが多いため、結果的にノイズが大きくなります。

図9. 方形波(Duty50%ではない)のスペクトル
図9. 方形波(Duty50%ではない)のスペクトル

6. まとめ

 今回は、信号系ノイズ、電源系ノイズ、導体ノイズについて説明しました。これらのノイズは発生要因が異なるため、それぞれに合った対策手法を選択する必要があります。

 次回からは、いよいよ対策について述べたいと思います。

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