パワー半導体とは?基礎知識や将来性をわかりやすく解説
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- 更新日
- 2025.12.08
- 公開日
- 2024.12.27
近年のエネルギー効率向上の社会的要請や、技術進歩による小型化、高集積化に伴い、パワー半導体の普及が加速しています。今回の記事では多くの産業分野で重要な役割を果たしているパワー半導体について解説していきます。
INDEX
1.パワー半導体とは?わかりやすく解説
パワー半導体は一般的な半導体と比較して、より大きな電力を効率よく制御・変換するための電子部品です。高電圧・大電流を扱う能力を持ち、電力変換やスイッチング、制御を行う役割を果たします。また、エネルギーマネジメントや持続可能なエネルギー利用にも欠かせない存在です。
例えば電気自動車において、直流を交流に変換しモータを駆動する「インバータ」や、バッテリーの電圧を変換する「コンバータ」「レギュレータ」に使用されており、より高効率に動作させるために重要な電子部品になります。
さらに再生可能エネルギー分野では、ソーラーパネルや風力発電システムにおけるエネルギー変換にもパワー半導体が使用されています。このように多くのシーンでエネルギー変換効率の向上に寄与しています。
一般的な半導体との違い
| 比較項目 | パワー半導体 | 一般的な半導体(IC、メモリなど) |
|---|---|---|
| 主な役割 | 電力の変換・制御(ON/OFF、変圧) | 情報の処理・記憶(演算、記録) |
| 扱う電力 | 大きい(高電圧・大電流) | 小さい(低電圧・微小電流) |
| 主な機能 | スイッチング、整流、増幅(電力) | 演算、記憶、信号処理 |
| 主な材料 | Si(シリコン)、SiC、GaN | Si(シリコン)が主流 |
| 具体例 | ダイオード、トランジスタ(MOSFET, IGBT) | MPU(CPU)、メモリ、ロジックIC |
一般的な半導体が「情報を処理する」役割を担うのに対し、パワー半導体は「電力を制御・変換する」役割を担います。パワー半導体は一般的な半導体と比べ、扱う電圧や電流の大きさが根本的に異なります。
パワー半導体が使用される4つの主な用途
- 直流での電気を交流に変換する
- 交流を直流に変換する
- 交流の周期を変える
- 入力される電圧を所望の電圧値に変換する
代表的なパワー半導体としては整流の用途で使用される「ダイオード」スイッチングや増幅の用途で使用される「トランジスタ」「サイリスタ」「トライアック」などが挙げられます。
2.身近な製品でのパワー半導体の使われ方
実は私たちが普段使用している電化製品の中にも多くのパワー半導体は使用されています。ここからは簡略化したエアコンのブロック図を基に、どのような役割でパワー半導体が使用されているのかを見ていきましょう。

- コンセントから入力されるAC電圧をブリッジダイオードにより整流(DC電圧)している
- エアコンを制御するマイコンの電源供給用のACDCコンバータにMOSFETとダイオードが使用されている
- エアコンから風を出すためにインバータを使用してファンモータを制御している
- MOSFETをオン・オフ制御することでリレーを通してバルブを開閉している
3.パワー半導体の種類
エアコンのブロック図で使用されていたパワー半導体について解説していきます。
3-1.ダイオード
ダイオードとは電流を一方向にのみ流す電子部品で、 アノード(A)とカソード(K)の2端子で構成されています。
ダイオードが電流を流すために必要な電位差のことをVFといい、アノードの電位がカソードの電位よりVF分高い場合、電流はアノード側からカソード側へと流れます。逆にカソード側からアノード側へは電流は流れません。

パワー半導体としての使用用途
パワー半導体として使用されるダイオードは、大きな電力を扱う電子機器やシステムにおいて、電力の制御、変換、保護の役割を果たします。種類ごとの特性を活かし、大電流や高電圧の用途で利用され、エネルギー効率向上や電力システムの進化に貢献しています。
パワー半導体としては整流ダイオード、ショットキーバリアダイオード(SBD)ファストリカバリーダイオード(FRD)の三つが一般的に使用されています。
| 種類 | 特徴 | 耐圧 | 活用用途例 |
|---|---|---|---|
| 整流 | 一般的なダイオード | ー | ダイオードブリッジなど |
| SBD |
低VF (電圧降下が低いため損失が少ない) |
100V~250V程度 |
DC-DCコンバータ AC-DCコンバータ |
| FRD |
逆回復時間が早い (スイッチング時の損失が少ない) |
200V~650V程度 |
AC-DCコンバータ 高耐圧のインバータ回路 |
ブリッジダイオード
エアコンのブロック図に戻ってダイオードを見てみると、4個のダイオードをブリッジ(橋)のように組み合わせて使用しています。これを全波整流回路(ダイオードブリッジ回路)と呼び、交流を整流することができます。

3-2.トランジスタ
トランジスタとは電流や電圧を制御して、増幅やスイッチングを行う半導体デバイスです。
一般的にはバイポーラトランジスタ、FET、IGBTの3種類に分類され、それぞれ駆動方法や特徴に違いがあり用途に応じて使い分けられます。
各トランジスタの特徴比較
| 種類 | 特徴 | 駆動方式 |
|---|---|---|
| バイポーラトランジスタ |
入力インピーダンスが低い (ノイズ耐性が高い) |
電流駆動型 |
| MOSFET |
スイッチング速度が高く、低圧領域においてオン電圧が低い (オン抵抗が低い) |
電圧駆動型 |
| IGBT |
高圧領域においてオン電圧が低い (飽和電圧が低い) |
電圧駆動型 |
特徴や動作周波数、出力容量などを見て適材適所で使用することが重要です。
バイポーラトランジスタ

バイポーラトランジスタはベース(B)、コレクタ(C)、エミッタ(E)の3端子で構成されています。ベースに流れる小さな入力電流IBで、コレクタ-エミッタ間に流れる出力電流ICを制御する、電流駆動型の半導体デバイスです。
MOSFET(モスフェット)

MOSFETは、ゲート(G)、ドレイン(D)、ソース(S)の3端子で構成されています。ゲートに電圧を印加する事によってドレイン-ソース間の電流を制御する、電圧駆動型の半導体デバイスです。
IGBT(アイジービーティー)

IGBTは入力部がMOSで出力部がバイポーラの構造となっており、MOSFETとバイポーラトランジスタの良いとこどりをしたパワー半導体で、ゲート(G)、コレクタ(C)、エミッタ(E)の3端子で構成されています。ゲートに電圧を印加する事によってコレクタ-エミッタ間の電流を制御する、電圧駆動型の半導体デバイスです。
三相インバータ

エアコンのブロック図では、エアコンから風を出すためのファンモータの制御を三相インバータを使用して行っております。
三相インバータとは、直流電源(DC)を三相交流電源(AC)に変換する電力変換回路です。この回路では主にMOSFETやIGBTをスイッチング素子として使用しています。三相それぞれで上側・下側のトランジスタをPWM制御することにより効率的に電力を変換し、モーター制御や電力供給などの多様な用途で使用されています。
4.パワー半導体の将来性は?次世代のパワー半導体も紹介
パワー半導体の市場は、脱炭素社会の実現に向けた世界的な潮流を背景に、急速な成長が予測されています。
特に、自動車の電動化(EV、HV)や、再生可能エネルギー(太陽光、風力)の普及、AIの進化に伴うデータセンターの需要拡大が、その成長を後押ししています。
これらの分野では、従来のSi(シリコン)製パワー半導体を超える、より高い効率、より高い動作温度、そして小型化が求められています。
Si(シリコン)はその物理的な特性の限界に近づきつつあり、この要求に応えるために開発されたのが次世代のパワー半導体です。
SiCパワー半導体
SiC(シリコンカーバイド)パワー半導体は、Si(シリコン)よりも格段に高い電圧に耐えることができるため、電力の変換効率が劇的に向上します。
高電圧・大電流領域での電力損失を大幅に削減することが可能です。
このため、機器の小型化と高効率化を両立できます。
特に、電気自動車(EV)のインバータや車載充電器(OBC)での採用が急速に進んでいます。SiCをインバータに採用することで、バッテリーの電力をより効率的にモーターに伝え、航続距離の延長に貢献します。
GaNパワー半導体
GaN(窒化ガリウム)パワー半導体は、SiCと同様に電力損失が少ないことに加え、Si(シリコン)と比べて高い周波数でスイッチング(ON/OFF)ができる点が最大の特徴です。
スイッチング動作が高速であるほど、周辺の受動部品(コイルやコンデンサ)を小型化できるため、電源システム全体の小型・軽量化に絶大な効果を発揮します。
この特性から、GaNパワー半導体はスマートフォンやノートPCの急速充電ACアダプターで一足先に普及が進みました。
自動車分野では、EVが外部に電力を供給するV2Xシステムや、データセンターのサーバー用電源など、小型化と高効率が求められる分野での活用が期待されています。
5.まとめ
パワー半導体は高い電力や電圧を扱うことができ様々なセットに使用されています。今後も再生可能エネルギーの普及や電動車の増加、AI向けデータセンターの増加に伴ない、パワー半導体の需要は急速に拡大していくでしょう。
パワー半導体は持続可能な社会の実現に向けて欠かせない技術の一つとなっています。
(執筆者、編集者:安西 滉樹)


