EMIについて- 第7回 - EMIの事例紹介

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  • 更新日
  • 2023.09.15
  • 公開日
  • 2023.08.29

1. はじめに

 第6回は、EMIの電源系ノイズ対策について説明しました。今回は、無線アプリケーションを扱っていると遭遇する特性の特異点と、アナログ特性の劣化事例について説明します。

2. 特性の特異点とは

 「特異点」は、その名の通り、基準を適用できない特異性を示す一般的ではない点を意味し、特性において「定義されていない」「想定外の」「期待とは異なる」ポイントのことを指します。第2回 EMIの規格と測定で触れた通り、EMIには規格に沿った測定方法や、法規で定められた「超えてはいけない値」が存在し、仮にEMI規格をクリア出来たとしても、アプリケーションによっては特性の劣化となる「特異点」が、何らかの問題を引き起こすケースがあります。

3. 事例

その① ラジオチューナの場合

 ラジオチューナは、送信機側から送られる希望波に応じて、受信機側で同調周波数を変更して受信することで音声が聞こえます。チューナ特性の指標となる「ラジオの弱電波特性」は、弱い電波のS/N比(Signal=信号 と Noise=雑音 の比)をグラフにプロットして、特性を測定します。この時、受信機側にノイズ発生源となる機器を接続、又は近くにある機器がノイズを放射していると、送信機側から送られる希望波に対して「妨害電磁波」という形で信号が加わり、受信機の特性へ影響を与えます。このように 「ラジオの弱電波特性」では、S/N比が悪くなる周波数を「特異点」と呼びます。

図1. 特性の特異点の例(チューナの場合)
図1. 特性の特異点の例(チューナの場合)

その② ラジオチューナ以外の場合

 ラジオチューナ以外の無線の場合は同調周波数 ≒ チャネルと呼びますが、ラジオチューナと同様に、受信(Rx)時にある特定チャネルだけ感度が悪くなる事象が発生することがあります。送信(Tx)時にも、自分以外の通信を邪魔しないように電波法で許容してよいスプリアスレベルが決められており、その許容スプリアスレベルを超える箇所を「特異点」と呼びます。特異点があると電波法的にNGとなり、スプリアスの特性を満足出来ない事象が起こります。図2で使用した用語について、表1にまとめました。

図2. 特性の特異点の例(無線Txの場合)
図2. 特性の特異点の例(無線Txの場合)

表1. 図2で使用した用語の意味

用語 意味 補足
不要輻射 信号帯域幅以外の電波の発射 -
スペクトラムマスク 信号帯域幅から近い周波数の不要輻射 電波法で許容レベルが定められている
スプリアス 信号帯域幅から遠い周波数の不要輻射 電波法で許容レベルが定められている

その③ アナログ回路の動作がアナログ特性に影響を与える場合

 アナログ回路の動作によるノイズが、アナログ回路に影響することもあります。図3はPLL内蔵のチューナデバイスで、PLL動作に起因するノイズが、チューナ感度に影響を及ぼした事例です。(PLLはデジタル・アナログ混在回路なので、純粋なアナログ回路と論じて良いか?は疑問なのですが・・・)

表2. 事例 その③の事象・原因・対策

事例 内容
事象 伝搬したノイズがチューナ感度を劣化させた
原因 デバイス近傍に実装されたバイパスコンデンサまでの配線距離が、実は長かったことが判明
分周器の電源/GNDノイズがチューナに回り込み、特性に特異点が生じていたことが原因
対策 バイパスコンデンサを、デバイスまでの配線距離が短くなるように配置することで解決
図3. PLLノイズによるチューナ特性劣化
図3. PLLノイズによるチューナ特性劣化

その④ デジタル回路の動作がアナログ特性に影響を与える場合

 ここまで無線製品による特性劣化を紹介しましたが、無線ではない製品で以下のような事例もあります。デジタル信号がアナログ信号へ影響を及ぼした事例です。

表3. 事例 その④の事象・原因・対策

事例 内容
事象 アナログ入力のインピーダンスが非常に高いシリアルADC(Analog-Digital Converter)の設計・評価を行っていた際に、シミュレーションとは大きく異なった、劣化した特性となった
原因 デジタル変換された信号が放射するノイズが、アナログ部に影響を及ぼして劣化を引き起こしていることが判明
アナログ入力のインピーダンスが高く、クロックやデジタル出力の影響を受けやすい条件となっていたことが原因
対策 アナログ入力への影響を抑制するため、デジタル出力に繋がる配線パターンを基板の内層に通す対策を実施することで解決
図4. ADCの特性劣化
図4. ADCの特性劣化

4. まとめ

 今回は特性の特異点や、アナログ特性が劣化する事例について説明しました。特性が劣化してしまうそれぞれの事例ごとに最適な対策は異なりますが、基本的にはこれまで述べてきた対策の応用になります。

 次回はクロストークについて説明します。

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