EMIについて- 第10回 - EMIまとめ

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  • 更新日
  • 公開日
  • 2023.09.19

1. はじめに

 今回は、連載全10回の最終回となりますので、これまで説明してきたEMIの内容をまとめます。

2. おさらい

① EMIとは

 EMIとは、電子機器から発生する電磁波が他の電子機器に影響を及ぼす現象のことで、これにより周辺の電子機器が本来行う正常な動作を妨げる恐れがあります。

 EMIに関連する用語として、他にEMSとEMCがあります。EMIが他の機器に影響を及ぼすことに対し、EMSは電磁波を受けた場合の耐性を示します。EMCはEMI+EMSの意で、他の機器の動作に影響を与えず、また他の機器からも影響を受けずに正常動作できるかどうかを表します。(参照:第1回 1. EMI・EMS・EMCとは

  • EMIElectromagnetic Interference:電磁妨害)
  • EMSElectromagnetic Susceptibility:電磁感受性)
  • EMCElectromagnetic Compatibility:電磁両立性)
図1. EMI・EMS・EMCの関係性
図1. EMI・EMS・EMCの関係性

② 電磁波とは

  • 電界磁界が互いに影響し合いながら伝わっていく波のことです。

③ 電界とは

  • 電圧がかかった周りに発生します。(電圧起因
  • 電圧の大きさ距離電界強度が決まります。
  • 電界強度を表す単位として、[dBμV/m] などが使われます。

④ 磁界とは

  • 電流が流れた周りに発生します。(電流起因
  • 電流の大きさ距離磁界強度が決まります。
  • 磁界強度を表す単位として、[dBμA/m] などが使われます。

⑤ EMIの発生要因

 EMIの発生要因は、主に以下のように分類できます。これらのノイズは発生要因が異なるため、それぞれに合った対策・手段を選ぶ必要があります。

⑥ EMIが問題となるケース

 EMIが問題となるケースとしては、以下のパターンが考えられます。(2)(3)の場合はEMI規格に適合できていますが、他の機器の動作に影響があるため、実際には改善しておく必要があります。(参照:第1回 2. EMIが問題となるケース

  1. (1)放射ノイズや導体ノイズの規制の上限を超えているため、EMI規格に適合できず、製品出荷ができない
  2. (2)EMI規格に適合できているが、妨害電磁波によって、他の機器に影響を与えてしまう
  3. (3)EMI規格に適合できているが、導体ノイズによって、他の機器に影響を与えてしまう

⑦ ノイズ対策

 ノイズが発生していることが分かった場合の対策は、以下のステップで行います。

  1. (1)ノイズが発生している主な箇所を特定し、ノイズの発生要因を推定する
  2. (2)推定される発生要因に対して、効果のある対策を選択して、適用する
  3. (3)適用された対策の効果を確認し、効果が期待通りで無い場合は(1)に戻る


 以下の表に、ノイズ対策の手段をまとめました。

表1. 対策と手段

対策 手段 参照先
配線パターンの変更 GNDをDGNDとAGNDに分離し、ベタGND上に配線 第5回 2. 半導体内部のGND接続について
信号線を内層に配線してGNDで挟む 第5回 3. 信号系ノイズへの対策 対策① 信号線を内層に配線してGNDで挟む
GNDスルーホールを多用してLを並列接続 第5回 3. 信号系ノイズへの対策 対策② GNDスルーホールを多用する
電源やGNDはベタ配線にする 第6回 2. 電源系ノイズへの対策 対策① ベタ配線によるインピーダンス低減とノイズ放射の抑制
ノイズの影響がある箇所の配線パターンを並列にして、幅を太くする
電源層とGND層を近くに配置する
層間の信号パターンが重ならないようにする 第8回 4. クロストークの発生要因と対策
層間にGND層を挟む
バイパスコンデンサの追加 バイパスコンデンサをノイズ発生源付近やデバイス直近に配置して、ペアとなる電源とGNDを接続 第4回 3. リターンパスの最小化

第5回 2. 半導体内部のGND接続について

第6回 2. 電源系ノイズへの対策 対策⑤ バイパスコンデンサの配置
内部回路の電圧変動が要因のクロストークには、バイパスコンデンサを実装 第8回 4. クロストークの発生要因と対策
基板の電源入力部に大容量コンデンサを配置 第9回 3. 基板の電源端子近傍に配置されるコンデンサ
フィルタ部品の追加 LPF(ローパスフィルタ)を挿入 第4回 2. EMI対策のコイルとコンデンサ特性
第8回 4. クロストークの発生要因と対策
各電源と直列にフェライトビーズ、デバイスと並列にコンデンサを付加 第5回 3. 信号系ノイズへの対策 対策③ フェライトビーズ・RCフィルタを出力に挿入する

第6回 2. 電源系ノイズへの対策 対策② フィルタによる電源層の集約
LW逆転コンデンサや貫通コンデンサなどの特殊なコンデンサを使用 第6回 2. 電源系ノイズへの対策 対策③ ノイズ対策用の特殊なコンデンサの使用
基板の電源入力部に、逆位相ノイズの場合は「ノーマルモードノイズ対策用フィルタ」、同位相ノイズの場合は「コモンモードノイズ対策用コイル」を挿入 第9回 5. DCラインフィルタ
その他 DGND-AGND間はダイオードで双方向接続 第5回 2. 半導体内部のGND接続について
クロックにSSCG(Spread Spectrum Clock Generator)を適用 第6回 2. 電源系ノイズへの対策 対策④ クロックへのSSCGの適用
より対線を使用 第9回 2. より対線
機器を金属で覆ってシールド、ノイズ抑制シートや導電性インキ塗料を使用 第9回 4. シールド


 これらの手段について、目的別にまとめました。

表2. 目的と手段

目的 手段 参照先
導体ノイズのレベルを抑制する フィルタ部品を実装 第4回 2. EMI対策のコイルとコンデンサ特性
半導体デバイス内部のGNDをDGNDとAGNDに分離、 DGND-AGND間はダイオードで双方向接続 第5回 2. 半導体内部のGND接続について
電源と直列にフェライトビーズ、デバイスと並列にコンデンサを付加 第5回 3. 信号系ノイズへの対策 対策③ フェライトビーズ・RCフィルタを出力に挿入する

第6回 2. 電源系ノイズへの対策 対策② フィルタによる電源層の集約
LW逆転コンデンサや貫通コンデンサなどの特殊なコンデンサを使用 第6回 2. 電源系ノイズへの対策 対策③ ノイズ対策用の特殊なコンデンサの使用
クロックにSSCG(Spread Spectrum Clock Generator)を適用 第6回 2. 電源系ノイズへの対策 対策④ クロックへのSSCGの適用
基板の電源入力部に大容量コンデンサを配置 第9回 3. 基板の電源端子近傍に配置されるコンデンサ
基板の電源入力部に、逆位相ノイズの場合は「ノーマルモードノイズ対策用フィルタ」、同位相ノイズの場合は「コモンモードノイズ対策用コイル」を挿入 第9回 5. DCラインフィルタ
配線インピーダンスを低減する 基板上のGNDスルーホールを多用して、Lを並列接続する 第5回 3. 信号系ノイズへの対策 対策② GNDスルーホールを多用する
ノイズの影響がある箇所の配線パターンを並列にして、幅を太くする 第6回 2. 電源系ノイズへの対策 対策① ベタ配線によるインピーダンス低減とノイズ放射の抑制
電源やGNDをベタ配線にする
バイパスコンデンサをデバイスの直近に配置 第6回 2. 電源系ノイズへの対策 対策⑤ バイパスコンデンサの配置
リターンパスを小さくする バイパスコンデンサをノイズ発生源近くに配置 第4回 3. リターンパスの最小化
ペアとなる電源とGNDをバイパスコンデンサで接続 第5回 2. 半導体内部のGND接続について
クロストークを抑制する 層間の信号パターンが重ならないようにし、層間にGND層を挟む 第8回 4. クロストークの発生要因と対策
同層の場合はLPF(ローパスフィルタ)を挿入する
内部回路の電圧変動の場合は、バイパスコンデンサを実装
ノイズの放射を抑制する ベタGND上にDGNDとAGNDを配線 第5回 2. 半導体内部のGND接続について
信号線を内層に配線し、GNDで挟む 第5回 3. 信号系ノイズへの対策 対策① 信号線を内層に配線してGNDで挟む
電源層とGND層を近くに配置 第6回 2. 電源系ノイズへの対策 対策① ベタ配線によるインピーダンス低減とノイズ放射の抑制
より対線を使用 第9回 2. より対線
機器を金属で覆ってシールド、ノイズ抑制シートや導電性インキ塗料を使用 第9回 4. シールド


 様々なノイズに対し、それぞれに合った対策・手段がありますが、発生したノイズに対する最適な手段は1つとは限らないため、可能であれば複数を併用することをオススメします。(一部には併用出来ないケースもございますので、ご注意ください。)

3. お礼のことば

 「EMIについて」というお題の下、『EMI』という言葉の意味からはじまり、発生要因~対策まで、全10回で連載致しました。

本記事は、EMIについて

  • どのようなもので
  • どのような性質をもち
  • どのように対処すれば良いか

を理解して頂くことを狙いとしておりましたが、皆様にとってはいかがでしたでしょうか?

 実際の設計や製造現場では、EMIに対する有効な対策は1つではなく、複数の対策方法を適切に選択し、適用する必要があります。デジタル機器は今後も高速化が進み、それに伴い機器の動作電圧が低くなりますので、EMIの影響も大きくなることが予想されます。本記事が、皆様の業務に少しでも役立つことを願っております。

 ご愛読、ありがとうございました。

<連載一覧>

EMIについて- 第1回 - EMIの基礎

EMIについて- 第2回 - EMIの規格と測定

EMIについて- 第3回 - EMIの発生要因

EMIについて- 第4回 - EMI対策の基礎

EMIについて- 第5回 - EMIの信号系ノイズ対策

EMIについて- 第6回 - EMIの電源系ノイズ対策

EMIについて- 第7回 - EMIの事例紹介

EMIについて- 第8回 - EMIとクロストーク

EMIについて- 第9回 - EMI対策部品

EMIについて- 第10回 - EMIまとめ

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